資金繰り安定化の鍵「着手金」は負債?会計ルールを正しく理解して仕訳しよう

今回のテーマは、「着手金」です。

「着手金」とは、プロジェクトが始まる前に受け取れる前金のことです。

小規模事業者のビジネスでは、この着手金を受け取れるかどうかで優位性が大きく変わります。

※今回の記事では、様々な業種の方が読まれることを予想して、仕事をプロジェクトと呼ぶようにします。

  • 着手金ってよく分からない。
  • 私にはあまり関係ないのでは?

多くの方は「着手金」に馴染みがないかもしれませんが、今回はそんな方にこそ、この記事を読んでいただきたいと思います。

今回は、ビジネスにおける「着手金」の重要性と、会計視点での考え方や具体的な仕訳処理についてお伝えしていきます。

着手金とは

多くの方が「着手金」と聞くと、最初に「弁護士への依頼」をイメージされます。

「着手金」とは、プロジェクトの完了によって支払われる代金の一部を着手前に、残りを完了後に支払ってもらうことです。

この「着手金」、仕入れが発生するビジネスではもちろん、目に見えないサービスや労働集約型のビジネスをされている方にも、ぜひ取り入れることをお勧めしています。

「着手金」を受け取る3つのメリット

メリット①資金繰りの安定

着手金として一部を事前に受け取ることで、資金繰りを安定させることができます。

プロジェクトというものは、どれだけ計画を立てていてもスケジュールが後ろ倒しになることがあります。

完了後に全額入金の場合、入金日の予想ができず資金繰りが不安定になるリスクがあります。

また、プロジェクトを進める上で、何かと費用が発生します。(物品購入・交通費など)人が動くことで既に支出は始まっているのです。

着手金を受け取らない場合、(特に約束している場合を除くと)それらの費用に関しては受注側が立て替えることになります。莫大な運転資金がある大手企業であれば問題ありませんが、キャッシュが限られる小規模事業者がそのようなビジネスモデルで案件を回していくことは、非常にリスクが高いと考えられます。

着手金を受け取っておくと、プロジェクトの運転資金をそこから賄うことができるので、資金繰りに余裕を持たせることができます。

メリット②貸倒のリスクを下げる

着手金を受け取ることは「貸倒」のリスクを下げることにもなります。

貸倒とは、依頼されたプロジェクトを完了したにもかかわらず、発注側から支払いがされないことです。主な原因は発注側の業績不振や、倒産、資金ショートなど様々です。

小規模事業者の場合、1案件でも貸倒が発生すると、経営が危ぶまれるような大ダメージとなります。

けれども、「貸倒」はビジネスをしているのであれば一定の確率で起こることです。そこで「着手金」を受け取っていないと、売上100%分の損失を出すことになります。

「着手金を受け取る」と決めていれば、このようなリスクを軽減できます。万が一、貸倒が発生した場合でも、着手金を受け取っておけばその分は回収できたことになります。

もしも相手に着手金を支払う能力がないのであれば、プロジェクトに手をつけなければ良いだけです。この場合は、事前に分かって運が良かったわけです。

このように「着手金を受け取る」方針にすれば、貸倒で受ける損失を未然に防ぐことができるのです。

③プロジェクトのスピードアップ

プロジェクト完了後の全額入金から「一部着手金」に切り替えることは、双方にプロジェクトのスピードアップを意識させる最適な手段にもなります。

着手金を受け取ることで、受注側は、より責任を強く感じプロジェクトをスピーディーに進めようとします。

また、発注側にとっても「一部」でも入金をしたことで、「早めにプロジェクトを完了させて成果物を手に入れたい」という意識が強まります。

100%完了後の入金の場合、プロジェクトの進行が間延びすることがあります。不急の案件であれば、しばしばそのようなことが起こるのです。

これは意図的に支払いを遅らせようとしているのではなく、どうしても忙しいと、数多くあるタスクの中での優先順位が下げられてしまい、このようなことが起こります。

けれどもプロジェクトが間延びすることは、双方にとってあまり良くありません。ビジネスはスピード勝負のところもありますので、スピーディーに案件を進めていくことは大切なことです。

着手金を取り入れることは、一見受注側だけのメリットに見えますが、実は双方にとって非常にプラスになるやり方なのです。

このように着手金を受け取ることには様々なメリットがあります。

けれども、「着手金」は、会計上の考え方としては「負債」になりますので、その点については注意が必要です。

次は、会計目線での「着手金」について、お伝えしていきます。

「着手金」が「負債」になる理由とは

ここでは着手金が負債になる理由と、実際の会計処理についてお伝えします。

企業の負債に該当する勘定科目

まずここでは、会計上「負債」に該当する勘定科目を見直していきましょう。

「負債」は貸借対照表(B/S)の右側・貸方に載っています。

貸借対照表の貸方には、会社の「資金調達手段」を読み取ることができます。
資金調達は「負債・純資産」に分類され、「負債」とは外部からの資金調達を指します。

外部からの資金調達=融資が一般的ではありますが、下記に並んでいる勘定科目も外部からの資金調達扱いとなるのです。

  • 買掛金 商品を仕入れたが、代金の支払いがされていないもの
  • 未払金 まだ支払っていないクレジットカード利用分・未払い給与など
  • 前受金 着手金がこれに該当する
  • 役員借入金 役員が個人のポケットマネーを会社に貸し付けたもの
  • 支払手形 記載された金額を期日までに支払うという約束をする手形
  • 預かり金 個人が負担するお金を、支払う前に会社が一時的に預かる際に使う(住民税、雇用保険料、社会保険料など)

他にも、賞与引当金や退職給付引当金も負債になります。

なお、もっと負債について知りたい方はこちらの記事がおすすめです。

決算書を正しく読むために押さえたいポイント・貸借対照表の読み方(基礎編)

「前受金」は顧客に対する借金という扱い

着手金は「前受金」に該当します。

プロジェクト完了前に一部の代金を受け取っているため、顧客に対する借金(負債)として扱われます。プロジェクトが完了すると、その負債は消えます。

前受金と売掛金の違い

前受金は売掛金と間違われやすいものですが、この2つは全くの別ものです。

貸借対照表では、「前受金」は右側の「負債」で、「売掛金」は左側の「資産」に計上されます。

なぜなら「売掛金」は、代金をプロジェクト完了後に回収する権利のことだからです。

前受金の正しい仕訳処理

ここまで説明したところで、実際の仕訳処理について見ていきましょう。

①着手金(前受金)として一部の代金を受け取り

②プロジェクト完了で前受金はなくなり・代わりに売掛金が発生

③売掛金の入金完了

上記3段階で、それぞれ仕訳を行う必要があります。

具体的な事例をもとにして解説していきます。

①20万円のwebサイト制作について、10万円を着手金として受け取った場合

   借方      /           貸方

普通預金 10万円      前受金 10万円

振り込みの場合は普通預金(資産)が10万円増えることになります。(現金受け取りの場合は「現金」と入れます)

前受金(負債)が10万円発生します。

②webサイトの制作が納品された

   借方      /           貸方

前受金 10万円      売上高 20万円

売掛金 10万円

納品が終わり、売上を立てる段階になりました。

前受金(負債)はなくなり、残り代金分の売掛金(資産)が発生します。

売上高はプロジェクト完了後に計上します。売上高を正しいタイミングで計上するためにもこの仕訳は必須です。

③残りの制作代金が振り込まれた

   借方      /           貸方

普通預金 10万円      売掛金 10万円

売掛金の回収が終わり、普通預金(資産)が10万円増えて、売掛金(代金回収の権利)はここで消えることになります。

前受金から、売上、売掛金回収までの仕訳はこの流れを参考にしてください。

継続的な取引で使用する「前受収益」

「前受金」は単発の案件で使用する勘定科目です。継続する案件の場合、前受金の代わりに「前受収益」という勘定科目を使用します。

「前受収益」とは、前受金が1度きりの案件で使われるのに対して、継続的なものに使われます。前受金と同じく、事前に代金を受け取っているもです。そのため、同じく負債扱いになります。

小規模事業者は「着手金」を上手に活用しましょう

今回は「着手金」について解説しました。

「着手金」とは、小規模事業者のビジネスの助けになるばかりでなく、資金繰りの安定のためにも欠かせないものです。

けれども「着手金」が受け取れるかどうかは、事業者の信用も大きく関わってきます。

まだ取引先にそのような提案ができない場合は、誠実な取引の実績を増やして信用を積み上げていく必要があります。

着手金を受け取るビジネスモデルが完成すれば、資金繰りの計画が立てやすくなりますので、今後の取引の際には、ぜひ「着手金」について意識してみてください。

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