自宅で仕事をするフリーランスや個人事業主にとって、水道光熱費の経費計上は節税に直結する重要なポイントです。特に自宅兼事務所の場合、仕事とプライベートを分けて「按分」することが必要となります。
今回は、水道光熱費をどこまで経費にできるのか、その基準や具体的な処理方法について詳しく解説します。
特に冷暖房をたくさん使う夏や冬の時期は、光熱費が高くなりがちです。按分のルールを正しく理解し、上手に節税していきましょう。
このページの目次
1. 水道光熱費を経費として按分するとは?
①按分とは?
按分とは、自宅兼事務所の光熱費などを業務用とプライベート用に分け、合理的な基準で計算し、業務用部分を経費として計上することです。
自宅全体を事務所として扱うことは通常認められないため、按分割合を設定する必要があります。
② 按分の基準は面積と時間が鍵
按分割合は、以下の2つの基準を掛け合わせて算出します。
面積割合
自宅全体のうち、業務に使用している部屋の面積割合
例:自宅が50㎡、仕事部屋が10㎡の場合 → 面積割合は10㎡ ÷ 50㎡ = 20%
時間割合
1日のうち、その部屋を仕事で使用している時間割合
例:1日の仕事時間が8時間の場合 → 時間割合は8時間 ÷ 24時間 = 約33%
③按分割合の計算方法
面積割合と時間割合を掛け合わせて、全体の按分割合を算出します。
例
自宅全体:50㎡
仕事部屋:10㎡ → 面積割合:20%
1日の業務時間:8時間 → 時間割合:33%
按分割合:20% × 33% = 約7%
この場合、水道光熱費の7%が業務用経費として計上できます。
補足
光熱費は「面積」と「時間」の両方が費用の発生に関与するため、両基準を掛け合わせた按分方法が合理的とされています。
ただし、「面積だけ」や「時間だけ」で按分することも可能で、適切な基準であれば税務署にも認められることが一般的です。
計算方法に迷った場合は専門家に相談することをおすすめします。
※今回は「面積」と「時間」を掛け合わせた方法をご紹介しています。
2. フリーランスの水道光熱費按分方法
①フリーランスの按分処理
フリーランスでは、按分計算に基づき業務用部分を経費計上します。
個人の水道光熱費の支払いは、プライベート口座からの引き落としやクレジットカード決済が主になるかと思われます。
そのため、基本的には「事業主借」または「事業主貸」を使用して仕訳を行います。
②按分した場合の仕訳例
月々の水道光熱費が10,000円で、按分割合が7%の場合
借方 / 貸方
水道光熱費 700円 / 事業主借 700円
摘要:自宅兼事務所の水道光熱費按分分
3. 法人が按分する場合はどうなるのか
フリーランスの中には法人化して活動している一人社長も少なくありません。
そのような場合、個人事業主とは少し按分や仕訳の方法が違うため、ここで紹介していきます。
①法人名義での支払い
一人社長では、水道光熱費が法人名義で支払われる場合、按分計算なしで全額を経費計上できます。
ただし、自宅兼事務所の場合は按分計算が必要です。
仕訳例
法人名義で按分計上
光熱費10,000円、按分割合7%の場合
借方 / 貸方
水道光熱費 700円 / 普通預金 10,000円
摘要:自宅兼事務所の水道光熱費按分分
②個人口座からの支払い
法人の水道光熱費が個人口座から支払われた場合、「役員借入金」として処理することで経費計上が可能です。
仕訳例
個人口座からの支払いの一部を法人で支払う
光熱費10,000円、按分割合7%の場合
借方 / 貸方
水道光熱費 700円 / 役員借入金 700円
摘要:自宅兼事務所の水道光熱費按分分
4. 注意点と実務のポイント
①領収書や請求書の保管
按分経費を計上する場合、領収書や請求書を必ず保管し、按分計算の根拠を記録しておくことが重要です。税務調査の際にも対応しやすくなります。
②按分割合の合理性
按分割合が不合理に高い場合、税務署から否認されるリスクがあります。
面積や時間を基に合理的な割合を設定してください。
③個人名義・法人名義、どちらの支払いが良いか
一人法人では、経費は法人名義で支払うことが原則ですが、プライベート利用があり按分の必要があるものに関しては個人名義で支払いをしておくことをお勧めしています。
【理由1】按分計算が前提
自宅兼事務所では、光熱費を仕事用と私的使用分に分け、業務使用分のみを経費に計上します。個人名義の支払いでも、按分計算が正確であれば経費計上が可能です。
【理由2】税務リスクを軽減
法人名義で支払う場合、私的使用分を「役員貸付金」や「役員報酬」として処理する必要があり、手間が増えます。
また、適切に処理しないと税務リスクが高まります。
【理由3】利便性
個人名義で支払えば、個人の口座から自動引き落としが可能です。
一人法人の場合、按分後の業務用分は「役員借入金」や「役員貸付金」で処理でき、実務的にスムーズです。
④消費税の課税について
事業者が光熱費の支払いを法人名義で行った場合、按分した部分については消費税の課税対象になる可能性があります。
具体的な処理方法については税理士に確認することをおすすめします。
5. 按分が認められる具体例
①フリーランスのライター
自宅の一室で記事執筆を行い、按分割合が7%。
光熱費10,000円の場合、700円を業務用経費として計上。
仕訳例
借方 / 貸方
水道光熱費 700円 / 事業主借 700円
摘要:自宅兼事務所の水道光熱費按分分
②一人社長オンライン業務
個人名義で光熱費を支払い、業務使用分を法人の経費に計上する場合、支払った金額のうち業務按分分を法人が個人へ返金する形で処理を行います。
この返金は「事業主借」や「未払金」などを利用して仕訳します。
以下は按分割合が 10%、光熱費が 10,000円 の場合の仕訳例です。
仕訳例
(1)業務使用分を経費計上
借方 / 貸方
水道光熱費 1,000円 / 役員借入金(または未払金) 1,000円
摘要:自宅兼事務所の水道光熱費按分分
(2)法人から個人へ返金処理(個人名義の口座へ)
借方 / 貸方
役員借入金(または未払金) 1,000円 / 普通預金 1,000円
摘要:按分分の光熱費返金
③ 個人事業主のエステティシャン(自宅サロン)
自宅の一部をサロン用のスペースとして使用しており、施術でお客様を迎えるため暖房や照明を多く使用します。
按分割合が10%と設定された場合、光熱費10,000円のうち1,000円が業務用経費として計上できます。
ポイント
エステサロンなどお客様が来訪する業務の場合、事業での使用割合が高くなることもあります。面積や使用時間を根拠に按分割合を設定しましょう。
仕訳例
借方 / 貸方
水道光熱費 1,000円 / 事業主借 1,000円
摘要:自宅サロン光熱費按分分
このように、業務内容や使用状況に応じて按分割合は変わりますが、事実に基づいて合理的に計算することが重要です。
特に光熱費が多くかかるエステサロン業務では、冬や夏の季節ごとに使用量を見直し、按分割合を調整することも有効です。
まとめ
自宅兼事務所で水道光熱費を経費計上するには、按分割合を正確に計算し、合理的に処理することが大切です。
フリーランスの場合は「事業主借」を、一人法人の場合は「法人名義の領収書」と「按分計算」を活用し、適切に経費処理を行いましょう。
領収書や按分計算の根拠を記録しておけば、税務調査にも安心して対応できます。
水道光熱費の按分や一人法人での経費計上についてお困りの際は、専門家に相談することで、正確かつ効率的な処理が可能です。
山本聡一郎税理士事務所では、フリーランスや一人法人の経費処理に関するご相談を随時受け付けています。
ぜひお気軽にお問い合わせください!
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