経営者の皆様、「廃業」と「倒産」の違いを正しく理解できていますか?
どちらも事業を畳むという点では共通していますが、その意味合いや手続きは大きく異なります。
今回は、経営者として知っておくべき「廃業」と「倒産」の基礎知識について、税理士の視点から分かりやすく解説します。
このページの目次
廃業とは?
廃業とは、経営者の意思によって事業を自主的に終了させることです。
廃業の特徴
・借金がない、または返済できる見込みがある
・従業員や取引先との合意が得られている
・法的な手続きは比較的簡易である
・後継者がいない、事業の将来性が見込めないなど、様々な理由で選択される
・経営者の高齢化やライフスタイルの変化、働き方の多様化に伴い、増加傾向にある
廃業させるメリット
・経営者の意思で時期や方法を決められる
・比較的スムーズに手続きを進められる
・信用情報への影響が少ない
・顧客・取引先・従業員に対して事前に知らせることができるため、影響を最小限に抑えられる
廃業事例①
個人経営のレストラン。店主が高齢になり後継者もいないため、従業員や取引先との合意を得て、廃業を選択。
借金もなかったため、常連客に閉店の挨拶をし、長年の感謝を伝えて円満に閉店できた。
廃業事例②
長年経営してきた洋菓子店が、店主の体調不良により、息子など後継者もいないため、閉店を決意。
負債はあったが、自己資金でなんとか返済を終わらせることができた。
従業員にも退職金を支払い、取引先にも丁寧に廃業の挨拶を行った。
廃業のデメリット
・事業の清算や資産の処分が必要
・従業員の雇用や取引先との契約を終了させる必要がある
・長年培ってきた事業を畳むことによる精神的な負担も大きい
倒産とは?
倒産とは、会社の支払い能力がなくなり、事業継続が不可能になる状態です。
「赤字が続くと倒産する」と言われますが、正確には「現金がなくなる」と倒産します。
赤字でも資金繰りができていれば倒産しませんが、黒字でも現金がなければ倒産します。
倒産の特徴
・借金が返済できない、またはその見込みがない(資金ショートの状態)
・債権者(お金を貸している側)からの申し立てや法的措置が必要
・法的な手続きは複雑になる
・資金繰りの悪化、売上減少、予期せぬ事故など、様々な要因で発生する
・倒産手続きには、法的整理と私的整理の2種類がある
倒産の種類
・法的整理(破産、民事再生、会社更生など)
・私的整理(債権者との合意による整理)
倒産事例①
中堅の建設会社が、大型プロジェクトの遅延と資材価格の高騰により資金繰りが悪化。
金融機関からの融資も受けられず、支払い能力を失い、倒産に至ってしまった。
それにより、裁判所に破産を申し立て、債権者集会で債権者への弁済計画を説明することになった。
倒産事例②
地域で有名な老舗旅館が、バブル崩壊後の景気悪化や、新しいレジャー施設の人気に押され、客足が遠のき多額の負債を抱え倒産。
従業員は解雇され、旅館の建物等は売却、債権者への弁済に充てられた。
地域経済への影響も大きかった。
倒産のデメリット
倒産は、自主的な廃業とは異なり、資金繰りの悪化などにより、事業継続が不可能になった結果、やむを得ず選択されるものです。
廃業と比較した場合、倒産には以下のようなデメリットがあります。
・法的な手続きが複雑で時間がかかる
・信用情報に大きな影響が出る
・経営者や従業員にとって精神的・金銭的な負担が大きい
・取引先や顧客にも迷惑をかける
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廃業と倒産の比較
廃業と倒産の違いを表にまとめてみました。
項目 |
廃業 |
倒産 |
原因 |
経営者の意思 |
支払い不能 |
手続き |
比較的簡易 |
複雑 |
信用情報 |
影響少ない |
大きな影響あり |
資産状況 |
借金返済可能 |
借金返済不能 |
社会的影響 |
比較的小さい |
大きい |
従業員への影響 |
雇用終了 |
解雇 |
経営者が知っておくべきこと
早期判断の重要性
経営者は、事業の状況を常に把握し、継続が困難だと判断した場合は、早期に廃業や倒産の可能性を検討することが重要です。
事業の回復を目指す場合でも、経営者は迅速な方向転換を判断する能力が求められます。
早期の判断は、従業員や取引先への影響を最小限に抑えることに繋がります。
事例①
売上が減少傾向にあるアパレルショップ。
早期に売上減少の原因を分析し、ECサイトの開設やターゲット層の変更などの改善策を検討することで、廃業や倒産をなんとか回避した。
事例②
経営していた製造業の業績が悪化し、金融機関からの融資も厳しくなったため、社長は早期に廃業を決断。
従業員への説明や取引先への影響を最小限にとどめた。
専門家への相談
廃業や倒産の手続きは複雑なため、税理士や弁護士などの専門家に相談しましょう。
専門家は、手続きだけでなく、資金繰りや事業再生などのアドバイスも行ってくれます。
事例①
廃業の手続きを進める場合、税理士に相談することで、税務上の注意点や手続きの流れについてアドバイスを受けることでスムーズに進めることができた。
また、弁護士に相談することで、従業員との雇用契約の終了や取引先との契約解除についてアドバイスを受け、トラブルに発展することなく精神的負担を軽減させることができた。
事例②
倒産手続きを進めることになった会社は、債権者との交渉や裁判所への対応を弁護士に任せ、税理士には、税務申告や財産評価を依頼した。
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従業員や取引先への配慮
廃業や倒産は、従業員や取引先に大きな影響を与えるため、誠意を持って対応しましょう。
従業員には、雇用保険や再就職支援などの情報を提供し、取引先には、支払い計画や代替取引先などの情報を提供することが重要です。
事例①
従業員に対して、今後の生活設計に関する相談会を開催したり、取引先に対して、今後の取引に関する説明会を開催した。
また、従業員の再就職支援として、ハローワークと連携して求人情報の提供や職業訓練の機会を提供した。
事例②
廃業することになったため、従業員への説明会を何度も開き、退職金の支払い、再就職支援等、出来る限りの対応を行なった。
廃業・倒産を回避するM&Aという選択肢
倒産や廃業の危機に直面した事業者にとって、M&A(合併と買収)は事業継続のための有効な手段となり得ます。
特に、高齢化や後継者不足により事業継続が困難な場合、安定した売上が見込めるのであれば、事業承継を希望する経営者は少なくありません。
倒産の危機にある事業であっても、新規事業を検討している中小企業にとっては、貴重な資源となる可能性があります。
廃業・倒産という二つの選択肢だけでなく、M&Aを活用して経営を第三者に委ね、事業を存続させることも、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
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まとめ
廃業と倒産は、似ているようで全く異なるものです。経営者の皆様は、それぞれの違いを正しく理解し、適切な判断を下すことが重要です。
廃業・倒産は事業をしていれば誰にでも起こり得ることでもあります。もしもの時に備え、日頃から専門家と連携し、健全な経営を心がけましょう。
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