「自由な働き方」に憧れてフリーランスとして独立し、表舞台で輝いているように見えても、その陰では、入金トラブルに悩まされ疲弊している人も少なくありません。
独立して自分で稼いでいくということは、自分で自分の身を守る必要があるということです。
フリーランスは、業務委託や下請けの仕事が多く、立場が弱くなりがちです。
特にクリエイターなどの領域では、入金トラブルや支払い遅延は珍しくありません。
本記事では、2024年に成立した「フリーランス保護新法」の詳細とともに、トラブルに巻き込まれないためにフリーランスが「自分の身を自分で守る」実践的な対策を解説します。
このページの目次
1. フリーランスが直面する「資金繰りの壁」とトラブルの実態
フリーランスの資金繰りは、売上を上げることと確実に入金されることの二重の課題を抱えています。
資金繰りを脅かすトラブルの例
・入金サイクルの長期化
報酬の支払いが、月末締め翌々月末払いなど、仕事を終えてから入金までが長期にわたる。
納品してから3~4ヶ月後、下手をしたら6ヶ月後にようやく入金されたということもあります。
・請求の遅延
相手の都合で検収や請求手続きが進まず、仕事が終わって数ヶ月経過しているのに請求書すら発行させてもらえない。
よく売掛金の回収がテーマになりますが、この場合は、売上・売掛金の計上すらできていない状態です。
・支払いトラブル
納品・請求後に、一方的な値引きや入金遅延、ひどい場合は不払いになることがあります。
納品物に対し、修正を求めるのではなく理由をつけて値引きを要求してきたりします。
無計画な発注により、実は予算の確保ができていなかったという酷い話もあるくらいです。
これらのトラブルは、「報酬が入ってこない」という形で資金繰りを悪化させ、フリーランスの生活基盤を直接揺るがします。
2. フリーランス保護新法の概要
従来の法律では、フリーランスと発注元の関係を直接保護する規定が不十分でした。
これに対し、フリーランスの公正な取引機会の確保と就業環境の整備を目的として、「フリーランス保護新法」が制定されました。
保護の対象となるフリーランスは?
この法律で保護の対象となる「特定受託事業者(フリーランス)」は、企業などから業務委託を受けている事業者のうち、以下のいずれかに該当する者です。
・個人事業主:従業員を使用しない個人。
・一人社長:代表者以外に役員や従業員がいない法人。
・例外的に含まれる場合:従業員を使用している個人・法人でも、その従業員がすべて家族であるなど、特定の要件を満たせば保護対象となる場合があります。
【業種は問われない 】
フリーライターやカメラマン、デザイナー、コンサルタント、ジムのインストラクター、出前サービスの配達員など、フリーランスであれば誰もが保護対象になります。
保護の対象となる取引は?
本法律の保護の対象となるのは、以下の要件を満たす「業務委託契約」に限られます。
・事業間取引(BtoB)であること
BtoC(企業と一般消費者の取引)は対象外となります。
・委託契約(役務の提供)であること
例えば、デザイナーが自分のロゴデザインをネットで売る、Web制作者が知識集やフレームワークを販売するなどは、売買契約に該当するため、本法律の保護対象外となります。
【重要】発注者(企業)に課される主な義務
発注者となる企業には、以下の義務や禁止事項が課されます。
制作系の場合など、ご自身が業務を受託しつつ、分業のために他のフリーランスに再委託(発注)する側となることもあります。
その場合、ご自身が発注者として、これらの義務や禁止事項を遵守する責任が生じるため、十分に注意しなくてはいけません。
【義務・禁止事項】
・契約条件の書面等による明示
業務委託契約を結ぶ際、業務内容、報酬額、支払期日などを書面または電磁的記録で必ず明示しなければいけません。
・報酬の支払期日の設定(義務)
報酬の支払期日は、納品・役務提供から60日以内の可能な限り短い期間で定める必要があります。
・ハラスメント対策(義務)
発注者が、優越的な地位を利用したハラスメント行為(パワーハラスメントなど)を行ってはなりません。
・一方的な報酬の減額や受領拒否(禁止)
契約締結後の一方的な報酬減額や、受領拒否などの不公正な行為を禁止しています。
ここ最近はフリーランス向けの事業者口コミサイトが存在しており、不当な扱いをすることで実名で悪い評判がつくリスクも高まります。
法令遵守はもちろんのこと、「こっちは発注している、クライアントだから」という態度ではなく、対等な立場で誠意を持ったやり取りが大切です。
また、発注者として、プロジェクトが早めに完了するように配慮する必要があります。
仕事のスピードを早めることは、フリーランスのキャッシュフロー改善と自社の事業の早期進展という点で、全員にとってメリットがあるためです。
●参考リンク 2024年公正取引委員会フリーランス法特設サイト
3. 自分の身は自分で守る!トラブルになる前の鉄則
フリーランス保護新法ができたとしても、一度トラブルになってしまうと決着までに時間がかかります。
法律に頼る前に、自分でトラブルの芽を摘む努力が不可欠です。
鉄則①:契約書は「必ず」締結する
「契約書を結ぶのは面倒」「少額だから」と避けず、業務開始前に必ず契約書または業務委託通知書などの書面を交わしましょう。
特に、以下の項目を明確に定めておくことが重要です。
- 報酬額(税込/税抜、源泉徴収の有無)
- 業務の範囲(どこまでが仕事に含まれるか)
- 納品方法と検収の条件(検収完了日=請求開始日とするなど)
- 支払期日(納品完了日から何日後か、振込手数料はどちら負担か)
鉄則②:支払いサイトの短い仕事を優先する
資金繰り安定のためには、報酬の支払いサイト(納品から入金までの期間)を意識しましょう。
・危険な支払いサイトの例
納品月末締め、翌々月末払い(入金まで最大約90日)
・一般的な理想のサイト(最低限の基準)
納品月末締め、翌月末払い(入金まで最大約60日)
単発の仕事の場合は、交渉次第で納品後2週間など、入金までの間隔を短くすることができます。これは何も取引のルールに反するものではありません。
本来であれば仕事を発注する時点で、予算を確保するものですので(もちろん規模にもよりますが)、交渉に後ろめたさを感じる必要はありません。
短い支払いサイトの仕事は、キャッシュフローの観点から実質的な利益率が高いと言えます。
鉄則③:請求書発行のタイミングをコントロールする
発注者の検収が遅れることで請求書の発行が遅れるケースが多発します。
対策:必ず期限を切る
契約書に「納品後〇日以内に検収結果を通知すること。通知がない場合は検収完了とみなす」という条項を盛り込む。
実行:必ず期日に請求書を発行
契約の定めに基づき、検収の有無に関わらず、期日になったら請求書を発行し、催促する毅然とした態度が必要です。
これらは受注前に取り決めをしておくことが重要です。
この辺りを曖昧にしたまま仕事を請けることは避けるようにしましょう。
鉄則④:遅延損害金の設定も行う
万が一、報酬の支払いが遅延した場合に備えて、遅延損害金に関する規定を契約書に盛り込んでおくことは、支払い遅延の抑止力となり、損害を補填するための重要な手段です。
・設定のポイント
支払期日を過ぎた場合に、年率〇%の遅延損害金を請求できる旨を明確に定めます。
これは民法の規定に基づき設定できます。
・新法の後押し
フリーランス保護新法は、発注者に対し60日以内の支払いを義務付けており、この規定は遅延損害金を請求する正当な根拠をより強固にします。
まとめ
フリーランス保護新法は、フリーランスの立場を強化するための強力な盾となりますが、その恩恵を最大限に受けるには、契約や資金繰りに関する知識が必要です。
「自由」と「責任」は表裏一体です。
トラブルになる前に、適切な契約手続きと積極的な入金管理を行い、健全なフリーランス活動を維持しましょう。
契約書の作成や資金繰りの管理についてご不明点があれば、山本聡一郎税理士事務所にご相談ください。
山本聡一郎税理士事務所 代表税理士。1982年7月生まれ。名古屋市中区錦(伏見駅から徒歩3分)にてMBA経営学修士の知識を活かして、創業支援に特化した税理士事務所を運営。クラウド会計 Freeeに特化し、税務以外にも資金調達、小規模事業化持続化補助金などの補助金支援に力を入れている。
