国税庁から令和2年の確定申告書の書式が発表されました。例年と比べ変わった点は、雑所得の区分に「業務」という欄が作られたことです。
個人で仕事をしている方が、自分の所得が事業所得かそれとも雑所得なのかで、新型コロナウイルスの経済対策の持続化給付金の適用の際に、一般的にも注目されました。
今回は、事業所得と雑所得の違いをご紹介していきます。
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事業所得とは
事業所得とは、名前のとおり事業から生じた所得をいいます。当然といえば当然なのですが、しかし所得税法では事業とは何かという定義が置かれていません。ですので、事業をどのように解釈するかが問題となります。
この点については、様々な裁判事例がありますが、有名な事例として、
「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」(最判S56.4.24)
ここには、様々な要素が含まれていますが、重要なのは、その業務が社会通念上事業としていえるかが事業所得なのか否かとなります。
例えば、今、一般的になりつつあるメルカリで私物などを売却して得た利益ですが、年に数回程度利用して売買しているレベルでは、社会通念上、事業として捉えるのは難しいでしょう。また、税務署に「開業届」を提出したからと言って、必ずしも事業として認められるわけではありません。
一方で、同じメルカリの利用でも、倉庫に在庫を持ち、毎日、商品を売却しているのであれば、上記とは違い、社会通念上、小売業として捉えることができるでしょう。
もちろん、その行為がどこまでが事業所得なのか、否かの判断は難しく、税務調査において問題になる一つです。
雑所得とは
雑所得とはどの所得にも該当しない所得をいいます。具体的にどのような所得が該当するかというと、公的年金や仮想通貨の売却益が雑所得となります。ひと昔話題になった機械的に反復継続した馬券返戻金も裁判で争われた結果、雑所得に該当することとなりました。
一見、「業務」と雑所得に関連性はなさそうですが、事業になり得なかった行為を「業務」として取り扱われるのです。おそらく、今回、この「業務」の欄を作った背景は、今や主流となりつつある「副業」の存在ではないかと考えます。
当然ですが、他の主となる仕事があるからこそ「副業」となります。一般的に、その副業に費やす時間や精神的・肉体的な労務は本業の片手間で行うわけですから、社会的な地位としては本業の方であり、副業ではなりえません。そのように考えると副業を「事業」として捉えることは困難ではないかと考えられます。
事業所得と雑所得の税制メリットの違いとは
結局、所得が事業所得に分類されようが雑所得だろうが、支払う税金は変わらないのでは?と考える人もいるかもしれません。
事業所得には雑所得にはない、いくつかの特徴があり、大きな点としては以下の項目があります。
① 事業所得の損失が給与所得などの他の所得との損益通算をすることができる
② 青色申告の選択が可能となり、最大65万円の青色特別控除などのメリットがある
①の損益通算は事業において損失が生じ赤字となった場合、一定のルールのもとで他の所得から控除することができます。例えば、1月~6月まではサラリーマンで7月から個人事業主となった場合、1月~6月分の給与所得から7月以降の事業所得の損失を相殺することができますので、全体の課税所得が減少し、税金も安くなります。
一方で、雑所得の場合、いくらマイナスが生じても、そのマイナス部分は他の所得と相殺することができません。
②の青色申告は、事前に申請をすることで、様々な税制のメリットを享受することができます。代表的なものとしては、「青色申告特別控除」や「純損失の繰越控除」です。
「青色申告特別控除」は、記帳や事業のレベルに応じ、10万円または最大65万円(令和2年分以後は、原則55万円)の特別控除ができますので、必然的に節税効果があります。
「純損失の繰越控除」は上述の損益通算で相殺しきれなかった損失があれば、翌年以後3年間にわたって繰り越すことができます。
まとめ
安倍政権下における働き方改革により、副業を認められる世の中になりつつあります。今まで、サラリーマンの方は年末調整に課税関係が完結していたため、確定申告をしたことがない方も多いのではないかと思います。
本業の業務外で行った副業を都合のいいように捉え、事業所得として申告する、さらには意図的に損失を生じさせ、給与所得と損益通算をして税金を抑えることはやめましょう。副業を適正な確定申告を行い、適切な納税に心がけましょう。