「法人化すると節税できるのでは?」と考える農家の方も多いでしょう。農業法人になれば税金が軽減できると耳にしたことがあっても、法人化のメリットやデメリットを十分に理解している方は少ないかもしれません。
本記事では、農家と農業法人の違いを説明し、法人化によるメリット・デメリットや見逃しがちな注意点について解説します。法人化を検討する際の目安についても触れますので、節税を意識した農業経営をお考えの方はぜひお読みください。
このページの目次
農業法人と農家の違いとは?法人化の目安と判断基準
法人とは、法律によって人と同じように権利や義務が認められた組織や団体のことです。
法律の規定により権利能力が認められるため、物品の売買や所有、契約や裁判において人と同じように法律が適用されます。
まずは、農業法人と個人農家の違いと、法人化を検討する目安についてチェックしていきましょう。
・農業法人とは?
農業法人とは、農業を営む法人のことです。
法人格(会社や団体が法律上、個人と同様に権利や義務を持つ独立した存在として認められる資格)を持つことで経営や財務の管理が透明となり、社会的な信用力も高まります。
・農家との違いは?
個人農家と農業法人には責任範囲や相続手続き、税制面などで違いがあります。
下表は、おもな違いをまとめたものです。
項目 |
個人農家 |
農業法人 |
経営責任 |
経営上の全責任を個人が負担 |
法人として責任を分担できる |
税金 |
所得税の対象となる |
法人税が課される |
相続手続き |
個人の財産として相続手続きが必要 |
法人の資産は法人内で継承される |
適用される保険 |
個人用の農業保険 |
法人向けの事業保険 |
経費 |
個人経費として認められる |
法人経費として認められる |
損失の繰越期間 |
3年間 |
9年間 |
・法人化の判断基準と目安
農業法人への移行を検討する目安は、年収や経営規模が挙げられます。
たとえば、年収が一定以上なら法人税率が個人の所得税率よりも有利になり、節税効果が期待できるためです。
また、従業員の増加や業務の拡大が見込まれる場合には、経営体制を法人化すると管理しやすくなります。
農業法人化によるメリットと税制優遇
農業法人化は、税金面や信用面などでメリットをもたらします。
法人化による節税効果と利用可能な融資・助成金制度について見ていきましょう。
【農業法人化で得られる節税効果】
法人化すると、以下のように多方面から節税を図ることが可能です。
- 法人税の適用
法人税は一定の税率で課されるため、個人事業の累進課税に比べて節税しやすくなります。
- 経費計上の拡大
農業法人では、法人が支出した経費や役員報酬が損金(課税対象から差し引ける費用)として認められます。事業運営に必要なさまざまな費用を積極的に計上できるため、節税につながるでしょう。
- 所得分散による節税
役員報酬として所得を分けると、所得税控除を利用して課税対象を分散できます。個人ごとの税負担を軽減できるため、法人化のメリットが活かされます。
【信用力の向上・助成金制度の利用】
法人化すると信用力が高まり、国や自治体からの支援も得やすくなります。
以下のように事業拡大や経営の安定に役立つでしょう。
- 信用力の向上
法人格を持つ農業組織には、株式会社・合同会社・特定の条件を満たした「農地所有適格法人(旧:農業生産法人)」などがあります。農業法人として法人化すると、取引先からの信頼が得やすくなるでしょう。
- 助成金制度の利用も可能
法人化すると、規模の大きい制度融資や補助金を利用できます。たとえば「農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)」では、個人の融資限度額が3億円に対し法人は10億円まで増額され、大規模な投資がしやすくなります。また、アグリビジネス投資育成株式会社などの公的機関からの出資支援も受けられるため、資金面での安定が図りやすくなるでしょう。
農業法人化のデメリットと注意点
農業法人化には多くのメリットがありますが、デメリットもいくつか存在します。特に、初期費用や経営コストが増加する点や、法人化に伴う手続きの煩雑さは慎重に考えるべき要素です。
そこでここからは、法人化によって発生する経費や手続きの負担について解説します。
【初期費用や経営コストの増加】
法人の設立にかかるコストや、法人維持のための経費について説明します。
- 初期費用の増加
会社設立の手数料・登記費用・法人用の設備や備品の整備費用など、初期コストがかかります。株式会社の場合、定款の作成費用や登録免許税がかかり、数十万円程度の費用が必要です。
- 経理・税務管理のコスト
法人としての税金申告や経理業務を管理するために、税理士への依頼が必要となるケースもあります。
- 維持コストの増加
法人税・住民税・法人事業税といった定期的な税金の支払いが発生します。従業員を雇用する場合、社会保険料も法人側で負担しなければなりません。
- 規模に応じたコストの増加
経営規模が拡大するほど各種の経費も増加するため、初期費用に加えて、法人を維持するための経費も念頭に置く必要があります。
【法人化に伴う手続きの煩雑さ】
登記や経理管理の負担など、手続き面での煩雑さはデメリットといえるでしょう。具体的には、以下の通りです。
- 法人設立時の手続き負担
会社設立には登記が必要であり、役員や出資者の決定、事業目的の明確化など、複雑な手続きが求められます。個人事業とは異なり、法人化には多くの法的手続きが伴います。
- 法人としての会計処理
適切な帳簿の作成や税務申告が必要となり、個人事業よりも会計知識が求められます。また、定期的な決算を行い、法人税を税務署に申告する義務があります。
- 追加コストの発生
会計・税務処理のため税理士のサポートを受けることが一般的で、税理士費用が発生します。
- 定期的な法的手続き
法人では、定期的に株主総会の開催や役員の改選といった法的な手続きが必要なため、管理が煩雑になる可能性があります。
まとめ
法人化した農業を「農業法人」といいます。法人化すると節税効果や信用力が向上し、融資や助成金が利用できるなど、さまざまなメリットがあります。
農業法人化は節税や経営の安定に有効な手段ですが、メリットだけでなく初期費用や手続きの負担などのデメリットも存在するため、ご自身の経営規模や将来計画に合わせた判断が重要です。
法人化に適した年収や規模の目安については、税理士事務所での相談を通じて適切な判断が得られるでしょう。