中小企業は日本の企業数の大半を占めています。全体の企業数の約99.7%が中小企業であり、従業員数も全体の68.8%を中小企業が占めています。(中小機構ホームページより)
そのため、日本経済において重要な役割を果たしているのは、企業割合や従業員数などを考えても中小企業であると言えます。(もちろん大企業には大企業の役割があります。)
中小企業の経営安定を守ることは、日本全体の経済対策だけでなく、失業等の深刻な社会問題の予防にも繋がります。
日本には数多くの中小企業を守る制度やサービスが数多く存在しています。今回はその中でも代表的な「経営セーフティ共済」についてお伝えします。
このページの目次
取引先倒産から中小企業を守る「経営セーフティ共済」について
経営セーフティ共済は、取引先の倒産で売掛金が回収できないことにより中小企業が連鎖倒産したり、経営難に陥ることを防ぐ目的で作られました。
各企業がどれだけ必死に努力して健全な経営をしていても、”取引先の倒産”は不慮の事故のように予測することは困難です。経営セーフティ共済は、そのような予期せぬ出来事に遭遇した中小企業が、速やかに必要な資金を調達できるようにするための制度なのです。
新型コロナウイルス蔓延により、これまでに多くの中小企業が倒産に追い込まれました。
2023年5月末の時点で「新型コロナウイルス関連倒産」(法人および個人事業主)は、全国に5,840件に及んでいます。(帝国データバンクより)
そのようなこともあり、経営セーフティ共済の加入者は年々増加しているのです。
このような話をすると、「従業員が何十人も働いている中小企業が対象者なのでは」と思われますが、そうでもありません。例え代表者一人だけの企業でも、連鎖倒産のリスクは十分にあります。
今回は中小企業の中でも、特に小規模で事業をしている法人や個人事業主(まとめて小規模事業者と呼びます)に向けて、経営セーフティ共済の加入によりどのようなメリットがあるかをお伝えしていきます。
この記事を読まれることで、経営セーフティ共済のメリットをご自身のビジネスに活かしていただくためのヒントを知ることができるでしょう。
経営セーフティ共済・4つの特徴
まずはこの共済の特徴について簡単にお伝えしていきます。
中小機構ホームページにも記載されている内容ですが、こちらでは主要な部分だけを抜粋してお伝えします。
1・担保不要・保証人不要で、納めた掛金の10倍まで借入れが可能
通常お金を借りる時は担保や保証人が必要です。しかし、ここでの借入は担保も保証人も無しで借入が可能です。
共済金の貸付け額は、「回収が困難となった売掛金などの総額」または「支払った掛金の10倍(最大で8000万円)」のうち、低い方が適用されます。
ちなみに共済掛金の月額は5千円~20万円の間で自由に選ぶことができます。途中で増減することも可能です。
2・取引先倒産後、すぐに借入ができる
取引先の倒産により売掛金の回収ができなくなった場合は、相手との取引の確認が出来次第、すぐに借入することが可能です。
3・共済の掛け金は損金(経費扱い)にできる
納めた掛金は、確定申告の際、損金(法人の場合)または必要経費(個人事業主の場合)扱いにすることができます。現在、経営セーフティ共済の加入の目的の大半がこの理由からではないかと思います。その詳細をまとめた記事がありますのでご参照ください。
4・長期で納めた掛金は解約時に全額返金される
共済契約は自己都合の解約であった場合でも、解約手当金を受け取ることができます。
解約手当金は加入期間が12ヶ月以上の場合は、8割以上が戻り、40ヶ月以上納めていると掛金全額が返金されます。
ただし、加入して12か月未満で解約した場合は、返金されませんのでご注意ください。また、受取った解約手当金は法人税・所得税の課税の対象となります。
小規模事業者にも経営セーフティ共済の加入をオススメする理由
企業の健全な運営には常に資金の流動性が求められます。
特に、小規模事業者にとってはその必要性は一層高まります。そんな中で、経営セーフティ共済は有力な資金調達手段となり得ます。
ここでは小規模事業者ほど、この経営セーフティ共済を十分に活用すべき理由を3つお伝えしていきます。
1・小規模事業者にとって数少ない資金調達の窓口になるため
経営セーフティ共済は、銀行融資とは異なり、無担保・無保証で掛金の10倍まで(未回収の売掛金額分を)借りることが可能です。
もちろんこれは「未回収の売掛金分として」なので余裕資金が追加で手に入ったということにはなりませんが、経営においては兎にも角にも「現金が命」です。どのような方法であれ、現金を調達する手段を一つでも多く確保しておくことは、経営において非常に重要なことです。
売掛金の未回収が1件でも発生すると、途端に中小企業やフリーランスは窮地に追い込まれます。しかし、危機的状況の中小企業(従業員を雇用しておらず、実績も少ない小規模事業者)に銀行がお金を貸してくれることはほぼありません。そうなると行く先は倒産・廃業しかありません。
けれども、経営セーフティ共済に加入しておけば、事業者は身を守ることができます。ここでの借入は、企業規模関係なく同じ条件で借りられるというのが「強み」なのです。
さらにスピーディーな対応により、本来支払うべきところへの支払いが滞る・遅延するということが避けられます。事業者にとって、これは非常に重要なことです。
ビジネスの世界では、ネガティブな情報は経営者同士ですぐに広まります。特に小規模事業者は、どこかの特定のコミュニティに所属していることが多く、「あそこはお金が払えないみたい。倒産するかもしれないね。」そのような噂が経つと、誠実に対応してきた既存の取引先さえも失うリスクが高くなってしまいます。
ここまで緊急対応のための借入の話をしましたが、実は経営セーフティ共済に加入しておくと、これまでに納付した掛金の一時貸付を受けることも可能です。
この一次貸付は、取引先の倒産に関係なく、事業資金が急に必要になった時などに、解約手当金の95%を上限として借入れできる制度です。
ここで一気に販路開拓をしたい、など事業を加速させたい時や、黒字倒産を防止する手段としても有効です。
ただし、こちらは1年以内に返済をしなくてはいけないため、貸付を受ける時には1年で返済する計画まで事前に考えておく必要があります。
そのため、例えば「小規模事業者持続化補助金」などの各種補助金と組み合わせるなどして上手に資金繰りをしていく必要があります。(小規模事業者持続化補助金については、また別の記事で紹介します。)
このような様々な形で資金調達ができるように、「規模が小さい、実績が少ない、融資を受けられなかった小規模事業者」こそ、この制度を上手に利用していただきたいと思います。
2・経営セーフティ共済の加入には「節税と無料のお守り」がついてくる
経営セーフティ共済の掛金は損金(経費扱い)となるため、その分節税ができます。
さらに、40ヶ月以上継続して掛け金を納めていれば、解約時には解約手当金として掛金全額が戻ります。
もしもの時の制度ということで損害保険と似ているところがありますが、経営セーフティ共済は掛け捨てではないというのが損害保険との大きな違いです。
よく損害保険について「お守り代わりだと割り切って掛け捨てで加入する。」という考え方がありますが、経営セーフティ共済というお守りは、解約手当金が全額返ってくるという意味では、実質無料ということになります。
3・会社規模に合わせて掛け金設定ができる柔軟性の高さ
経営セーフティ共済の掛金は月5千円~20万円まで選ぶことができ、増やしたり減らしたりもできるので、企業の拡大や縮小に柔軟に対応することが可能です。
売上が安定していない時期は最低限の掛金額に設定し、事業規模の拡大に合わせて増額するのも良いでしょう。また、決算近くになり何か経費を使わないといけないという場面になった時に一気に増額するのも一つの方法です。節税のために必要ないものを無理して購入するよりも、現金を上手に確保する方が良いと考えられる経営者も多くいらっしゃいます。
以上の理由から、経営セーフティ共済は小規模事業者にとって非常に魅力的な制度と言えるでしょう。
事業の成長を支え、未来を切り開くためにも、経営セーフティ共済の加入を検討してみてはいかがでしょうか。
経営セーフティ共済3つの注意点
経営セーフティ共済は中小企業の資金調達に非常に有用な制度ではありますが、その活用にはいくつかの注意点があります。
以下に小規模事業者だからこそ起こり得る事例を元にして3つ紹介します。
1・返済義務があることを忘れないこと
経営セーフティ共済は、あくまで借入金であり、返済義務があります。
保険金や補助金が下りた感覚で利用すると、返済の問題で思わぬトラブルを招くことがあります。利用後の返済計画をしっかりと立てておくことが重要です。
2・全ての事例に対応できない
経営セーフティ共済はあくまで取引先の倒産に対応するための制度です。
取引先に夜逃げされた場合や、倒産せずただ支払いを滞納している状態であったり、取引に関するトラブルが発生して支払いを巡り争いになった場合などは、制度の対象にはなりません。
利用する際にはその点を理解し、適切な対応を心がけましょう。
3・取引の証明が必要
経営セーフティ共済を利用する際には、取引が実際に行われたことを証明する必要があります。これには発注書や納品書、契約書などが必要となります。
フリーランスや小規模事業者でよくあるトラブルの一つに、口約束で仕事を受けてしまったことによるトラブルです。万一、相手が取引の事実はないから支払いはしない」と主張してきた場合、発注書や契約書がない場合、取引の証明が難しくなり、制度が利用できないということが起こります。
どんな取引であっても、適切な書面による取引証明を作成するようにしましょう。
以上のように、経営セーフティ共済は非常に有用な制度ではありますが、その特性を理解し、適切に利用することが求められます。
利用前には十分に調査を行い、小規模事業者は激しい競争を生き残るためにも今回紹介した制度を上手に活用していきましょう。
経営セーフティ共済の詳細・加入・お手続きについては山本聡一郎税理士事務所にご相談ください
山本聡一郎税理士事務所では、経営セーフティ共済の取次を行っています。
お手続きの際には、事業規模に合わせた、制度の上手な活用方法についてもアドバイスさせていただきますので、加入を検討してみたいとお考えの方は、お気軽にご相談ください。
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