企業や個人事業主が初めて人材募集を行うというのは、事業規模の拡大・大きな一歩を意味しています。しかし、求人を出す前に「パート・アルバイト」と「業務委託」それぞれの違いと、どちらが自分のビジネスに適しているかを正しく理解することが大切です。
今回は「パート・アルバイト」と「業務委託」の違いについて、主に「お金」の視点で解説していきます。
今後、人材募集をする際に、今回の記事が判断基準になれば幸いです。
このページの目次
「パート・アルバイト」と「業務委託」の違いとは
こちらでは、簡単に両者の違いについて解説していきます。
パート・アルバイト 3つの特徴
定期的な勤務
パート・アルバイトは「雇用契約」を結びます。勤務時間や曜日・場所など、働く条件がはっきりと定められ、給与も固定された額が支払われるのが一般的です。
給与と福利厚生
パート・アルバイトには最低賃金が決まっており、働いた時間に応じた給与を支払います。また、通勤交通費についても支給するのが一般的です。一定の条件を満たした場合は、社会保険や雇用保険にも加入が必須となります。
指導と教育
パート・アルバイトスタッフは「内部の人」という扱いになります。つまり、企業側が仕事の進め方やルールを指導し、教育する責任があるのです。
業務委託 3つの特徴
自由な勤務形態
業務委託は、「業務委託契約」を結び、特定の業務を請け負います。請負人は勤務時間や場所は固定されず、業務達成に向けて自由に作業を進めることができます。
請負報酬
報酬は業務の成果に基づいて支払われ、最低賃金の適用はありません。
特定の業務を完遂することを条件に報酬が支払われるため、請負人がその仕事を1日で完了させても、5日かけたとしても、決められた報酬額を支払うだけです。業務で移動が必要になった場合も、基本的に交通費は請負人負担になります。また、社会保険の加入を始めとした福利厚生なども対象外となります。
自己責任
業務委託者は「外注」扱いになるため、自己責任で業務を進める必要があり、企業は直接的な指導や管理を行いません。雇用契約を結んでおらず「解雇」という概念もないため、契約書の内容に反していなければ、自由に契約を解除することも可能です。(実際は人間同士のやり取りになりますので、そこまで簡単な話ではありませんが、契約上そのような対応は可能ということです。)
「パート・アルバイト」と「業務委託」の税法上の取扱いの違い
パート・アルバイトは「給与」で処理
税法上の仕訳では、社員の給料の勘定科目には「給与手当」を使用しますが、パート・アルバイトの給料は「雑給」として処理するのが一般的です。けれども雇用形態が違うだけで、社員と同じ働き方をしているのであれば「給与手当」にしても問題はありません。
これらは特に厳格に定められているわけではありませんが、使い分けを行うのであれば社内で明確な基準だけは作っておきましょう。
「雑給」と「給与手当」を分けて仕訳することのメリットとしては毎年の金額を比較してデータ分析に利用したり、人件費の調整をするのに役立つというのがあります。
パート・アルバイトの給与には源泉徴収が発生します。消費税は対象外です。
業務委託は節税になる?
業務委託の仕訳では、主に「外注費」「業務委託費」が使用されます。
業務委託契約では、相手が法人の場合は源泉徴収は発生しませんが、個人相手の場合は一部発生します。判断ができない場合は税理士に確認をするようにしましょう。
また、業務委託の報酬には消費税がかかるため、仕訳では「業務委託費」に追加して「仮払消費税等」を入れる必要があります。つまり、消費税を納めている扱いになるため、同額を支払う場合は給与よりも業務委託費として処理した方が消費税分の支払いが少なくなるということです。
「業務委託」として税務署に認められるための注意点
ここまで読まれると、消費税の節税もできて、社会保険に加入させる義務もない「業務委託」の方が採用側にとってはメリットが大きいと思われるかもしれません。しかし注意点がいくつかあります。
税金・社会保険ともにメリットがあるように思える「業務委託」について、当然税務署や社会保険事務所は目を光らせています。
業務委託契約のメリットを享受するのであれば、正式に「業務委託」として認められなければいけないのです。「業務委託」かどうかの判断基準は、雇用契約・業務委託契約のどちらを結んでいるかという書類上の話よりも、実態がメインとなります。「雇用」と判断されてしまう事例を3つほど紹介しましょう。
業務委託契約を結んでいるが、待遇が社員と変わらない場合
請負人に対して、業務に必要な物品の無償提供や、現場までの交通費の支給、食事代を負担したことで「社員と同じ待遇である」と判断され、業務委託が認められなかったケースがあります。
働き方が社員やパート・アルバイトと変わらない場合
企業側が、指定した時間と場所に請負人を拘束し、業務内容なども全て企業側が指定した内容で業務を行わせているなど、全般を会社の監督下に置く場合も業務委託と認められません。
例えば、とあるマッサージ店で、店がスタッフと業務委託契約を結んだものの、スタッフを店に常駐させるためにシフト制で勤務時間を指定していました。さらに施術メニュー・料金も全て店側が指定して、トラブルが発生した場合は全て店が対応していました。
これは業務委託の働き方とは言えないのです。
専属で仕事をさせていた場合
リモートワークで、時間も場所も定めていないものの、自社専属で仕事を請け負うように指定し、副業・複業を一切禁止とした契約を相手に結ぶ場合も、業務委託として認められません。
他の仕事をさせずに専属契約を結んでいる時点で「それであれば雇用すべきだ」という話になるからです。
このように、業務委託契約を結んでいても実態が社員やパート・アルバイトと同じような働き方であれば、「業務委託」として認められませんので、ご注意ください。
正しい仕訳を行わないとペナルティのリスクも
納付する税金額は仕訳方法によって大きく変わります。
間違った仕訳で、本来治めるべき税金額を逸脱した場合はそれ相応の指導が入ります。最悪の場合、「脱税」したものとして、刑事罰を受けることにもなりかねません。
初めての人材募集は自己判断せずにぜひ一度ご相談ください。
初めて人材募集を行う場合は、決して自己判断せずにハローワークなどの採用専門窓口や税理士・社会保険労務士などの専門士業に相談するようにしましょう。
「パート・アルバイトか、業務委託か」の判断は非常に重要な要素ではありますが、人材募集は事業拡大であっても資金繰りに大きく影響を及ぼします。人件費は経理では「流動負債」に該当するものですが、この流動負債を増やすのであれば、計画的に進めていくことが健全な資金繰りを維持する上で何よりも大切なのです。
募集をかける前に、ぜひ一度ご相談ください。
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