今年の10月からインボイス制度が始まりました。
小規模事業者の中にはインボイス登録について「するしない」の判断に迷われている方も多くいらっしゃるかと思います。
そこで、今回はインボイス登録を「するしない」で迷われている方に3つの判断ポイントをお伝えしたいと思います。
このページの目次
インボイス登録のメリット・デメリット
インボイス制度が始まり、起業家の間では「適格請求書(インボイス)の発行が可能なのか」「取引先は登録をしたのか」などの話題で持ちきりです。起業仲間が次々とインボイス登録をしているのを知ると、「自分もやるべきではないか」と思われるかもしれません。けれども、一度登録してしまうと、例え年間売上が100万円だとしても消費税の納税義務が発生します。さらに免税事業者が課税事業者になることで経理処理は煩雑になります。
この10月から2029年9月30日までの間は、インボイス制度導入の特別経過措置により「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出すれば、適格請求書発行事業者として登録を受けた日から課税事業者となります。この方法で課税事業者になった場合、2年間は免税事業者に戻ることができません。
2割特例のように、「売上」の消費税額の2割だけを計算して納めれば良いという処理が簡易的な軽減措置もありますが、それでもこれまでよりも業務負担が増えることには変わりません。
インボイス登録をすることで、自分で確定申告を行なっていた場合は税理士に依頼する必要性が高くなりますし、既に税理士に依頼をしている場合は顧問料が上がる可能性もあります。
つまり登録することで、負担するのは消費税そのものだけではなく、処理の煩雑化によって税理士顧問料・自分自身の手間や時間など、費やさなくてはいけないものが全体的に増えていくのです。
けれども、インボイス登録をして課税事業者になることで、大企業など安定している取引先とビジネスをするチャンスが増えます。課税事業者であることで得られる信用もありますし、納税という形で日本社会に貢献できます。これらは、免税事業者では得られない、事業家としての確固たる自信にも繋がっていきます。
このように、登録するメリット・デメリットはそれぞれあります。
そのため、インボイス登録をするかしないかは、ご自身のビジネスモデルや事業計画、そして自分自身の価値観なども含めてよく考える必要があります。
今回ご紹介する内容が、判断の助けになれば幸いです。
判断基準① 年間の売上金額で判断
前々年の売上が1000万円を超えている場合は、事業者登録をしておきましょう。どのみち消費税を納めなくてはいけません。またそれだけの売上があるということは高額商品を扱っている、または取引先の規模が大手の可能性があります。事業者登録をしないことで取引を断られるリスクも上がりますのでぜひ登録しておきましょう。
けれども、B to C ビジネスをしている場合は別です。
※B to Cとは Business to Consumer の略で Consumer とは一般消費者を指します。
そもそも一般消費者(いわゆる個人客は)は決算をしたり、事業所として消費税を納めることはありませんので、インボイス制度の影響を受けません。
B to Cビジネスで売上が成立している事業者の場合は、インボイス登録は行う必要はないでしょう。
ただし、やはり前々年の売上が1000万円を超えている場合は登録をしておくのが無難です。
美容院や整体などで本当に時々ある事例としては、企業のイベントや福利厚生の一環で利用があった際に課税事業所番号入りの領収書を求められることがあるからです。
では、しばらくの間は年間売上が1000万円超えそうにない場合はどのように判断すれば良いでしょうか。
もう一つの判断基準を次でご紹介します。
判断基準② 取引先の規模と売上の割合で考えてみる
売上以外の判断基準として、取引先の規模と売上の割合があります。
売上全体のうち、何割が課税事業者からもたらされているものかを計算してみましょう。
それが登録するかしないかの判断基準になります。
年間売上が500万として、課税事業者からの売上が100万円、免税事業者からの売上が400万円だとします。
もしも課税事業者登録をした場合、100万円の売上のために400万円の売上からの消費税を納めなければいけなくなります。
単純に計算して500万の売上なので消費税額を50万円とします。(実際の計算はもっと複雑です。)
2割特例を利用して、実際に納める金額が10万円とします。
※インボイス登録をすると、2割特例と呼ばれる負担軽減措置が受けられます。今回のインボイス制度を機に免税事業者から課税事業者登録をした事業者が対象です。けれどもこの2割特例は3年間限定の軽減措置です。3年後の特例がなくなるとそのまま売上に対して10%の消費税を納税しなくてはいけません。
例えば、先ほど挙げたように実際に納める消費税額が10万円であれば、100万円売上がある課税事業者に対して、消費税と同額を値引きするという交渉をしても、負担する金額はあまり変わりませんので、値引きする形で継続取引が可能であれば、そのように対応するのも一つの方法です。(3年後に2割特例がなくなった後は、こちらの方が圧倒的に負担が少なく済みます。)
もしも値引き云々ではなく、無条件に「課税事業者じゃないと取引しない」ということであれば、その時に初めてインボイス登録を検討すれば良いでしょう。
また年間売上500万円以下でそもそも消費税納税義務のラインにまだまだ到達しそうにない、そこまで規模を拡大する気がない、ということであれば次に紹介する項目について検討するのも一つかもしれません。
判断基準③ ターゲット変更の柔軟性が持てるビジネスモデルか
「課税事業者でなければ取引はできない」という取引先しかいない場合は、たとえ年間売上が300万円でも、課税事業者にならざるを得ません。
しかし、もしもそのような取引先が売上の1割も占めていない場合は、思い切って契約を取引を終了させるのも一つです。
売上金額が低い場合、自分の給与分も考えると例え1割でも消費税の納税がある場合、資金繰りはかなり苦しくなります。
もしも自分の事業が、ターゲット変更の柔軟性が持てるものであれば、思い切って客層を変えることも立派な戦略です。特に一人で活動するフリーランスの場合、方針や戦略変更に柔軟に対応できます。
インボイス制度はエンタメ業界で活動するフリーランスを苦しめるものであると度々ニュースに取り上げられてきました。彼らの場合はどうしてもクライアントは課税事業者になるため、ターゲット変更は難しいでしょう。けれどもSNS運用やweb制作、コンサルティングなどの事業の場合はいかがでしょうか。
インボイス登録をせずに、メインターゲットを法人からインボイスの影響を受けない小規模で事業をする個人事業主に切り替えて新しいサービスを作り、結果的に隙間産業にうまく入り込むことができた、という事例もあります。
インボイス事業者登録を「するしない」で迷われる方も多いですが、小規模事業者の場合は、「する」「しない」と決めた上で動き方を変えていくのも一つの戦い方です。
特に個人事業主・一人社長などの小規模事業者は、柔軟性があるのが強みです。
インボイス制度の網の目をうまくくぐり抜けて、自分の規模や強みにあったビジネス展開をしていくことは、この変化の激しい時代を生き残る処世術としてとても価値があることです。
結論 あくまで自己責任で判断しましょう。
インボイス登録をするならする・しないならしないなりに上手に立ち回ることは可能です。
けれども、一部の取引が制限されることも事実です。実は公正取引委員会では、課税事業者が免税事業者に対して消費税分の値引きを強制したり、重圧をかけることを禁止しています。けれども、取引をする・しないの選択までは関与できません。一般的に取引をやめる理由は(サービスに不満足だった、担当者への不満、価格など、)一つではないためです。
それぞれ登録するメリット・デメリットが存在する以上、最終的には自己責任で判断していくしかありません。
今回紹介した判断基準は1つの考え方に過ぎません。全ての方に当てはまる訳ではありませんので、自分のビジネスモデルではどちらが適しているのか自分では判断がつかないという場合は、ぜひ一度山本聡一郎税理士事務所にご相談ください。複雑でわかりにくいインボイス制度の詳細から丁寧に説明させていただきます。
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