しっかりできていますか?物販をしなくても棚卸は必要です

小さな会社・個人事業主でも棚卸は必要です

棚卸とは、事業の資産として保有する在庫や設備の数量と状態を確認し、記録する作業のことです。これにより、財務報告を正確に行い、資産の損失や盗難を防ぐことができます。

棚卸に関して「うちは物販していなから関係ないよ。」「棚卸は大きな会社がやるものでしょ?」と認識されている方も少なくありませんが、棚卸とは、事業の種類や大小に関わらず、経営の透明性を確保するために欠かせないものです。

資産を正確に把握することで、在庫過多や在庫不足といった問題を未然に防ぐことができます。また、正確に税金を納めるためにも、棚卸は重要な業務です。

これらの理由により、小さな会社や個人事業主でも棚卸業務について理解しておく必要があります。

しかし、多くの小規模事業者は、この重要な業務を十分に行えていないのが現状です。

物販をしていなくても棚卸は必要?

棚卸の対象となるものは、物販用に仕入れた商品だけでなく、事業の運営に必要なさまざまな資産が含まれます。

つまり、物販をしていない事業者でも、オフィス用品や設備など、定期的な管理が必要な資産を保有している場合が多いため、棚卸は必須です。

棚卸の対象になるものはどんなものがあるのか

ここでは一般的に棚卸の対象となるものを紹介します。

原材料

製品製造に使用される素材や部品。これらは加工される前の状態で保管されています。

仕掛品(製作途中の製品)

製造プロセスの途中段階にある製品。これらは完成品ではなく、さらに加工が必要です。

完成品

販売可能な状態にある、製造または加工が完了した製品。

販売用商品

販売目的で購入した商品。これは小売業者や卸売業者が主に扱うものです。

消耗品

事業で消費される物品。事務用品、掃除用品、パッケージング材料などがこれに含まれます。

備品や設備

継続的な使用が想定される物品や機器。例えば、オフィス家具、コンピューター機器、製造設備などがこれに該当します。

広告宣伝費

会社パンフレット・DM・ノベルティグッズなど、広告宣伝に使われているものも対象です。

その他

切手・収入印紙・タクシーチケット、制服なども棚卸が必要です。

棚卸はこれらの資産の量と価値を定期的に記録し、管理するプロセスです。これにより、資産を適切に管理して損失・盗難を防止し、財務報告を正確に行うことができるのです。

安価な消耗品はどこまで棚卸対象にするべきか

先ほど、棚卸の対象として消耗品を挙げましたが、実際に消しゴムやペン・コピー用紙など全ての消耗品を棚卸するとなると大変な作業になります。日常的に消費するもので、一定の購入量を超えないものに関しては、取得した年度の損金として問題ありません。

小さな会社・個人事業主の棚卸の現状

多くの小さな会社・個人事業主は、時間・労力が限られているため、棚卸を十分に行えていないのが現状です。適切な棚卸を実施している事業者は限られています。特に初期段階の小規模なビジネスでは、棚卸に関する知識不足や、日常の業務の忙しさに追われ、棚卸を実施しない傾向が見られます。

一方で、例え小規模であっても、財務管理や業務効率化の重要性を理解している事業者は、適切なプロセスを確立し、定期的に棚卸を実施しています。そのようなところでは、在庫管理ソフトの導入や業務のマニュアル化など、ツールや仕組みをうまく活用しています。

棚卸を行わないリスク

棚卸を怠ると、在庫の過剰や不足、資産の誤った評価、財務報告の誤りなど、様々な問題が生じます。これが原因で、税務上の違反や法的なトラブルに発展する恐れがあります。

以下に、具体的なリスクと実際の事例を挙げて説明します。

①在庫の過剰または不足

リスク

在庫が過剰になると資金が余計な在庫に固定され、他の運営資金が不足する可能性があります。逆に在庫不足では、需要を満たせず売上機会を逃すことになります。

事例

あるアパレル小売店では、棚卸を定期的に行わなかった結果、実際の在庫数がシステム上の記録と大きく異なっていることが発覚しました。特に人気商品が実際には売り切れているにもかかわらず、システム上では在庫があると表示されており、顧客の不満が増大しました。

②財務報告の誤り・税金の過払い・不足

リスク

棚卸を行わないと、財務諸表における在庫の評価が不正確になります。これが原因で、利益の過大または過少報告につながり、本来の税金額よりも払い過ぎたり、不足してしまうことが起こります。

事例

中規模の製造業者が、棚卸を怠ったために古くなった在庫を過大に評価してしまいました。その結果、実際の利益よりも多くの税金を支払う羽目になり、会社のキャッシュフローに大きな影響が出ました。

③法的リスクと信用の失墜

リスク

棚卸を正確に行わないことで、法的措置を受けるリスクがあります。また顧客や取引先からの信用を失うことで、ビジネスの機会が減少するリスクがあります。

事例

小規模食品製造業者が棚卸を怠り、期限切れの原材料を使用してしまったことがあります。これが原因で、健康被害を引き起こし、製品の回収命令が下されました。さらに損害賠償請求を受けたり、企業の評判が大きく損なわれるなど、長期的なダメージを受けることとなりました。

④オペレーションの非効率化

リスク

正確な在庫データがないと、製造や発注のスケジューリングが乱れ、全体の業務効率が低下します。

事例

ハードウェアストアが棚卸を怠り、必要な工具の在庫が不足していることに気づかずに顧客の大型プロジェクトを受注してしまいました。納期遅延により顧客の信頼を失い、その後の受注機会にも影響が出ました。

これらのリスクはビジネスを続けていく上で非常に重大なものばかりです。このような事態を未然に防ぐためにも棚卸を定期的に行うようにしましょう。

小さな会社・個人事業主の棚卸の課題と解決策

棚卸管理の課題

小さな会社・個人事業主のような小規模事業者が直面する棚卸管理の課題には、以下のようなものがあります

リソースの不足

人的資源や時間が限られているため、定期的な棚卸を行うことが困難です。

知識と技術の不足

棚卸に関する知識や技術が不足していることで、効率的に作業が行えないケースがあります。

コストの問題

棚卸に必要な技術やシステムの導入には初期費用がかかり、小規模事業者にとって大きな負担となることがあります。

問題の解決策

これらの課題に対処するための具体的な解決策は以下の通りです。

テクノロジーの活用

在庫管理ソフトウェアを導入することで、在庫の追跡と管理が簡単になります。多くのソフトウェアは低コストで提供されており、クラウドベースのものであれば、大きな初期投資を必要としません。

定期的なスケジュールの設定

棚卸を日常業務の一部として定期的に行うことで、在庫管理を常に最新の状態に保つことができます。

教育とトレーニング

従業員に対する在庫管理のトレーニングを実施することで、棚卸の質を向上させることができます。また手順をマニュアル化させることで、知識がなくても正確なオペレーションが可能になります。

棚卸は面倒な作業に思えるかもしれませんが、小規模事業者が市場で競争力を維持し、持続可能な成長を遂げるためには欠かせない業務です。適切なツールとマニュアル・仕組みを導入することで、この挑戦を乗り越え、事業の効率を大きく向上させることが可能です。

棚卸については税理士にご相談ください

事業規模や業種によっても棚卸業務の内容は少し違ってきます。

棚卸に関連する相談は、専門家である税理士が適任です。税理士のアドバイスをもとに、正しい方法で棚卸を実施し、事業の健全性を維持するようにしましょう。

このコラムを通じて、小規模事業者が棚卸の重要性を理解し、より効率的で健全な経営を行うための参考になれば幸いです。

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税理士 山本聡一郎
山本聡一郎税理士事務所 代表税理士。1982年7月生まれ。名古屋市中区錦(伏見駅から徒歩3分)にてMBA経営学修士の知識を活かして、創業支援に特化した税理士事務所を運営。クラウド会計 Freeeに特化し、税務以外にも資金調達、小規模事業化持続化補助金などの補助金支援に力を入れている。
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