個人で事業をされている方の中には、「いつかは法人にしたい」と思われている方も多くいらっしゃると思います。
今回の記事では、「そろそろ法人化」と、お考えの個人事業主の皆さんに、法人化のメリットとデメリットを分かりやすくお伝えします。
個人事業主と法人の違いや、法人化のメリット・デメリットそれぞれの知識を身につけていただき、正しい判断をするためのお手伝いができれば幸いです。
このページの目次
個人事業主と法人の大きな違いとは
まず、法人化をすると何が変わるのでしょうか?
個人事業主としての運営と、法人としての運営にはいくつかの大きな違いがあります。
違い① 法人は有限責任である
個人事業主の場合、事業主自身が事業すべての責任を負います。
これは、万が一事業がうまくいかなくなった場合、個人の財産を使って負債を返済する義務があることを意味します。
一方、法人化すると、法人自体が一つの独立した存在として認められます。
つまり、法人が負う責任は法人の財産の範囲内であり、個人の財産は保護されるのです。
違い② 法人化で税金の取り扱いが変わる
法人化すると、法人税を納めることになります。
個人事業主の場合は、所得税が課されますが、法人になると法人税が適用されます。
法人税率は利益に対して一定の割合で課されるため、利益が一定額を超えると、個人事業主としての所得税よりも法人税の方が有利になる場合があります。
※法人化しても、そこから一定額を超える報酬を受け取っている場合は、個人の所得に所得税がかかります。
違い③ 経理や帳簿の複雑化
法人化すると、経理や帳簿の管理が複雑化します。
法人は、会計監査や税務申告のために厳密な帳簿を維持する必要があります。
そのため、ほとんどの法人は税理士をはじめとした専門家のサポートが必要になります。
違い④ 法人化により社会保険加入の義務が発生
法人は規模関係なく社会保険加入の義務があります。
国民健康保険は、個人事業主個人で納めるものですが、社会保険は給与天引きで会社が本人に代わって納めます。
保険料は半分は会社が負担するため(法定福利費)、保険料は折半になります。
違い⑤ 法人特有の厳格なルールがある
法人には、個人事業主にはない財務関係や、各種手続きに関する厳格なルールがあります。
株式会社では毎年決算書を作成し、株主総会で承認を得る必要があります。
また、定期的な会計監査が義務付けられている場合もあり、これに対応するためのコストや労力がかかります。
法人化のメリットは、信用力の向上によるビジネス拡大の可能性である
法人化には多くのメリットがあります。
以下に代表的なものを挙げてみましょう。
メリット① 法人の責任範囲は限定的である
先ほど述べたように、法人化すると事業の責任が法人に限定されます。
これは、個人の財産を保護し、事業リスクを軽減する上で非常に重要です。
例えば、新しい製品を開発し市場に投入する際、もしその製品に欠陥があり大きな損害賠償が発生した場合でも、法人としての責任に限定され、個人の財産には影響がありません。
そのため、リスクを恐れずに新しい挑戦をすることができます。
メリット② 法人化で節税効果が期待できる
法人税率は、個人事業主が支払う所得税率よりも低くなる場合があります。
特に利益が一定額を超える場合、法人化することで節税効果を得られることがあります。
また、法人にはさまざまな経費計上が認められており、経費として認められる範囲が広がります。これも節税に寄与しているのです。
たとえば、法人では代表者の給与を経費として計上できるため、所得分散を図ることができます。
また、法人としての経費には、役員報酬や退職金、社用車の費用などが含まれ、これらを適切に計上することで課税所得を減少させることができます。
●過去コラム
メリット③ 信用力向上で資金調達がスムーズになる
法人化することで、取引先や金融機関からの信用力が向上します。
法人は一般的に信頼性が高いと見なされるため、融資を受けやすくなり、ビジネスチャンスも拡大します。
たとえば、大手企業との取引や公的な入札に参加する際、法人であることが条件となる場合があります。
また、銀行からの融資も個人よりも法人の方が受けやすいとされています。
これにより、事業拡大のための資金調達がスムーズに進みます。
メリット④ 法人化で従業員の雇用が有利に
法人化すると、従業員の雇用がしやすくなります。
法人は、社会保険や労働保険などの制度に加入することが義務付けられているため、従業員に対する福利厚生も充実させることができるのです。
たとえば、法人では健康保険や厚生年金保険に加入する必要があり、これにより従業員の安心感が高まります。
さらに、法人としての信用力が向上することで、優秀な人材を確保しやすくなるというのもメリットの一つです。
メリット⑤ 法人化により融資以外の資金調達方法が増える
法人化すると、金融機関からの融資が受けやすくなります。
これは個人事業主と比べて、法人は信頼性が高く、融資の審査が通りやすくなるためです。
また、法人は株式や社債の発行が可能となり、幅広い資金調達手段を利用できます。
これにより、大規模な投資や事業拡大が容易になり、成長の機会が増えていきます。
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会社設立時に活用したい新創業融資制度とは?必要な自己資金額や自己資金の要件について解説!
メリット⑥ 法人にすると事業承継が容易になる
法人は独立した法的存在であるため、事業承継が容易になります。
個人事業主の場合、事業を引き継ぐ際にはさまざまな手続きが必要ですが、法人の場合は株式の移転などでスムーズに承継できます。
たとえば、親から子へ事業を引き継ぐ場合、個人事業主ではすべての資産や負債を個別に引き継ぐ必要がありますが、法人の場合は株式の譲渡を行うだけで事業全体を引き継ぐことができます。
これにより、手続きの簡素化とコストの削減が可能です。
メリット⑦ 法人化することで事業拡大のチャンスが増える
法人化することで信用が上がり、取引先の層が大きく変化するでしょう。
法人は信頼性が高いと見なされるため、大手企業や公的機関との取引が可能になり、これまでとは異なるビジネスチャンスが生まれるのです。
例えば、大手企業との契約や業務提携は、法人でないと受け入れられない場合が多く、法人化することでこれらのチャンスが広がります。
また、法人だからこそ築ける繋がりが増え、これにより新たなビジネスパートナーや顧客との出会いが増えます。
これは、法人同士のネットワークや業界団体への参加が可能となるためです。
さらに、法人化することで事業の信頼性が向上し、投資家やベンチャーキャピタルからの資金調達も容易になります。
これらの要素が組み合わさることで、よりビジネス拡大のチャンスが増え、事業の成長を加速させることができます。
法人化によって生まれる様々な可能性を活用し、新たな市場や事業分野への進出を図ることができるでしょう。
法人化のデメリットは主に全体的なコストが増えること
もちろん、法人化にはデメリットも存在します。
以下に主要なものを挙げてみます。
デメリット① 法人の設立にはコストがかかる
法人を設立するには、登記費用や定款作成費用など、一定の初期コストがかかります。
また、法人設立後も継続的に維持費が発生します。
たとえば、株式会社を設立する場合、登録免許税や司法書士への報酬、定款の認証費用などがかかります。
さらに、設立後も年次報告や税務申告に伴うコストが継続的に発生します。
デメリット② 法人の経理には税理士が必須
法人化すると、経理や税務申告が複雑になります。
会計帳簿の作成や決算書の作成、法人税の申告など、専門的な知識が必要となり、税理士のサポートが欠かせません。
たとえば、法人では複式簿記の採用が義務付けられており、個人事業主の単式簿記よりも複雑です。
時々、法人の決算を自分で行おうとされる方がいらっしゃいますが、決算書の作成には専門的な知識が必要であり、これには時間とコストがかかるため、おすすめしていません。
1日でも早いビジネス拡大のためにも、専門家を上手に活用してください。
●過去コラム
デメリット③ 法人化で社会保険の負担が増える
法人になると、社会保険への加入が義務付けられます。
これにより、法人としての保険料負担が発生し、経費が増加します。
たとえば、法人では健康保険や厚生年金保険の加入が必須となり、これに伴う保険料負担が企業側に発生します。
これにより、従業員一人あたりのコストが増加します。
社会保険料は半分会社が負担するため、従業員が増えればその分負担が増えるのです。
デメリット④ 法人ならではの厳格なルール
法人にはさまざまな法的制約があります。
例えば、定款の変更や増資、減資など、株主総会での承認が必要となる事項が多く、柔軟な経営が難しくなる場合があります。
新しい事業を始める際や、事業内容を変更する場合にも株主総会の承認が必要で、これにより迅速な意思決定が難しくなることがあります。
さらに、これらの手続きを行う際には、議事録の作成などの事務的な仕事が増える点も考慮しなければなりません。
株主総会や取締役会の議事録を正確に作成し、適切に保管することが求められ、これらの作業には時間と労力がかかります。
これらの事務作業の増加も、法人化のデメリットの一つと言えます。
デメリット⑤ 代表者の責任
法人化メリットの一つとして「法人の責任範囲は限定的である」とお伝えしましたが、法人化しても代表者としての責任が完全に免除されるわけではありません。
特に、法人の不正行為や重大な過失があった場合、代表者自身が責任を問われることもあります。
例えば、会社が法律に違反した場合、代表取締役がその責任を問われることがあります。
また、会社の経営が悪化した際にも、代表取締役としての責任が問われることもあります。
さらに、代表者が保証人になった融資が返済できない場合、会社が有限責任であっても、社長個人の財産で返済しなければならないことがあります。
これは、保証人としての責任があるため、法人の負債が代表者個人にまで影響を及ぼす可能性があることを意味します。
デメリット⑥ 法人化により、給与は定額制の「役員報酬」になる
法人化すると、代表者の給与は「役員報酬」として定額制になります。
個人事業主とは異なり、役員報酬は基本的に1年間変更できません。
そのため、自由度が低く、途中で売上が上がったからと言って役員報酬を増やすことができない点がデメリットです。
役員報酬を設定する際には、計画的に決める必要があります。
さらに、役員報酬の変更や設定は株主総会で決議を得なければならず、手続きが複雑で時間がかかります。
これにより、臨機応変な対応が難しくなるため、事業の状況に応じた柔軟な給与設定が困難になります。
具体例として、事業が急成長し収益が大幅に増加した場合でも、役員報酬をすぐに増額することはできません。
こうした場合でも、次の株主総会まで待たなければならず、迅速な対応が難しいのです。
このような手続きの煩雑さも、法人化のデメリットとして挙げられます。
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デメリット⑦ 法人は赤字でも税金を納めなくてはいけない
法人化すると、たとえ赤字であっても一定の税金を納める義務があります。これには法人税や消費税などが含まれます。
法人税
法人税には、利益に対して課税される部分と、最低限納めるべき税額が設定されています。
赤字であっても、一定の均等割が課されるため、全く税金を支払わずに済むわけではありません。
均等割は、資本金や従業員数に基づいて計算されるため、事業の規模に応じて負担が発生します。
消費税
消費税も、法人が赤字であっても納める必要があります。
消費税は売上に対して課される税金であり、事業活動を通じて得た収益に対して課税されます。
赤字であっても売上がある場合、その売上に対する消費税を納める義務があります。
例えば、事業が赤字で利益が出ていない場合でも、売上が発生している限り、その売上に対して消費税が課税されます。
これにより、事業の収益がマイナスでも消費税を納める必要があり、経営の負担となることがあります。
※消費税に関しては、個人事業主でも同じルールになります。
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最後に 法人化はメリット・デメリットを考慮して慎重に行いましょう
法人化には多くのメリットとデメリットがあります。
自営業や個人事業主として活動している方が、法人化を検討する際には、これらのポイントを十分に理解した上で判断することが重要です。
法人化は事業の成長やリスク管理において大きな助けとなる一方で、新たな責任やコストが発生することを忘れてはいけません。
例えば、カフェを経営している個人事業主が法人化を検討する場合、法人化によってリスクを分散し、税金を節約することができる反面、初期コストや経理業務の増加などを考慮する必要があります。
しかし、一方で法人化することで取引先からの信用が向上し、新しいビジネスチャンスを得ることも期待できます。
最終的には、自分の事業の規模や将来の展望、リスク許容度などを考慮し、専門家のアドバイスを受けながら決定することが最善の方法です。
法人化を検討している方は、ぜひ一度、信頼できる税理士や法律の専門家に相談してみてください。
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