中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)は中小企業にとって有用な制度ですが、その利点だけでなく欠点や注意点も知っておく必要があります。
この記事では、その概要から加入手続き、そしてメリット・デメリットについて詳しく解説します。
このページの目次
中小企業倒産防止共済の基礎知識
制度の概要
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)は、中小企業が取引先企業の倒産による経済的な損失から守ることを目的とした制度です。
これは、中小企業の経営安定を図り、取引先の倒産による連鎖的な倒産を防ぐために、1969年に設立されました。
中小企業倒産防止共済は、全国の中小企業が加入できる制度であり、中小企業庁が所管しています。
貸付制度の種類
倒産防止共済には、取引先企業の倒産によって生じた経済的な損失を補償するための、大きく分けて2種類の貸付制度があります。
それぞれの特徴を理解し、自社の状況に合わせて適切な制度を選択することが重要です。
1.共済金貸付
取引先企業が倒産した場合に、その企業に対する債権の回収が困難になった際に、共済金が貸し付けられます。
この貸付金は、倒産した取引先企業への債権回収を目的とし、事業の継続や新たな取引先の開拓などに活用できます。
2.一時金貸付
取引先企業の倒産によって、自社の事業が大きな影響を受けた場合に、一時金が貸し付けられます。
この貸付金は、事業の立て直しや経営の安定化を目的とし、資金繰りの改善や新たな事業への投資などに活用できます。
どちらの貸付制度を利用するかは、取引先企業の倒産状況や自社の経営状況によって判断する必要があります。
それぞれの制度の詳細については、中小企業倒産防止共済組合に問い合わせて確認することをおすすめします。
加入条件と手続き
中小企業倒産防止共済に加入するには、いくつかの資格と条件を満たす必要があります。
具体的には、以下の条件を満たしている必要があります。
加入ができる会社の業態
中小企業倒産防止共済を加入できる会社の業態は以下の通りとなります。
- 会社法に定められた会社。
- 引き続き1年以上事業を継続している中小企業者。
上述の通りに、1年以上事業を続ければ、どの会社でも加入できるという幅広く利用することができることがわかります。
中小企業倒産防止共済への加入が認められるかどうかの判断基準
加入の判断基準として、資本金(出資総額)または使用する従業員の数が要件を満たしている以下の会社となります。
株式会社 | 出資者である株主に対し、株式を発行することで設立している |
---|---|
有限会社 | 2006年5月1日以前に設立され、特例有限会社として存続している |
合名会社 | 無限責任社員のみで構成されている |
士業法人 | 監査法人、弁理士法人、弁護士法人、税理士法人、土地家屋調査士法人、司法書士法人、社会保険労務士法人、行政書士法人 |
合資会社 | 有限責任社員と無限責任社員の両方で構成されている組合類似の組織 |
合同会社 | 社員全部が有限責任社員で構成されている(2006年5月1日会社法により新設) |
なお、以下の次の事業形態は加入することができないので、注意が必要です。
× 医療法人 × 農事組合法人 × NPO法人 × 外国法人等
加入資格を有する業種および従業員数
中小企業倒産防止共済においては、業種や従業員の数においても加入できるか判断されます。
次の各業種において、「資本金の額または出資の総額」、「常時使用する従業員数」のどちらかに該当する中小企業者であることという要件です。
業種 | 資本金の額または 出資の総額 |
常時使用する従業員数 |
---|---|---|
製造業、建設業、運輸業 その他の業種 |
3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
ゴム製品製造業 (自動車または航空機用タイヤおよびチューブ製造業と工業用ベルト製造業を除く) |
3億円以下 | 900人以下 |
ソフトウェア業または 情報処理サービス業 |
3億円以下 | 300人以下 |
旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
なお、「常時使用する従業員」とは、原則として2ヶ月を超えて雇用される方であり、かつ、週当たりの所定労働時間がその企業の通常の従業員とおおむね同等である方をいいます。
ですので、以下の方は除きます。
- 法人の役員
- 雇用期間が2ヶ月以下の方(アルバイト等)
様々な要件がありますが、大きな会社でない限り、加入できることがわかります。
加入することができない具体例
上述において、加入要件を紹介しましたが、その他に以下の要件に当てはまる場合には、加入できません。
- 住所または主たる事業の変更を繰り返し行ったため、継続的な取引の状況把握が困難な場合
- 事業に係る経理内容が不明の場合
- すでに貸付を受けた共済金または一時貸付金の返済を怠っている場合
- 中小機構から返還請求を受けた共済金、一時貸付金または解約手当金の返還を怠っている場合
- 納付すべき法人税を滞納している場合
- 掛金を12か月以上滞納したために中小機構によって共済契約を解除され、解除された日から12か月を経過していない場合
- 不正行為により共済金もしくは一時貸付金の貸付け、または解約手当金の支給を受け、または受けようとした日から12か月を経過していない場合
- すでに中小企業倒産防止共済の共済契約者となっている方(重複加入はできません)
加入手続きの流れ
倒産防止共済に加入するには、以下の手順で手続きを進める必要があります。
1.加入申込書の提出
まず、加入を希望する中小企業倒産防止共済組合に加入申込書を提出します。申込書には、企業情報や取引先企業の情報、財務状況などの情報が記載されます。
この申込用紙は、最寄りの金融機関や顧問税理士がついている場合には、税理士会でも代理店として取り扱っていますので、確認してみましょう。
2.書類審査
組合は、提出された申込書に基づいて書類審査を行います。審査では、上述の加入資格や条件を満たしているかどうかが確認されます。
4.加入承認
審査等の結果、加入が承認されると、加入手続きが完了します。
5.掛金の納付
加入が承認されると、掛金の納付が始まります。掛金の金額は、加入する共済の種類や企業規模によって異なります。
加入手続きには、一定の期間を要します。早めの手続き開始がおすすめです。
また、中小企業倒産防止共済を扱っている代理団体の中には、加入したい月の〇〇日までと締め切っている場合がありますので、加入を検討したら、早めに手続きを開始または、相談をしましょう。
掛金と返戻金の取り扱い
掛金の納付方法
倒産防止共済の掛金は、原則として毎月納付します。納付方法は、銀行振込や口座振替など、組合が指定する方法で行います。
掛金の金額は、加入する共済の種類や企業規模によって異なります。また、掛金は全額損金計上することができるので、節税効果も期待できます。
掛金の納付を滞納した場合には、ペナルティが課せられることがあります。そのため、納付期限までに確実に納付することが重要です。
解約時の返戻金
倒産防止共済を解約する場合には、一定の期間が経てば、解約時に返戻金が受け取れます。返戻金の金額は、納付した掛金の総額から、解約手数料などを差し引いた金額となります。
ただし、納付月数が40ヵ月未満の場合は、元本割れになる可能性があります。解約を検討する際には、返戻金の金額や元本割れの可能性などを考慮する必要があります。
中小企業倒産防止共済のメリット
節税効果
多くの中小企業が中小企業倒産防止共済を加入検討する理由の一つが、倒産防止共済の掛金は、全額損金計上することが可能です。
そのため、企業の税金負担を軽減することができます。節税効果は、企業の利益や税率によって異なりますが、大きなメリットと言えるでしょう。
例えば、年間100万円の掛金を納付した場合、法人税率が23.2%の場合、約23万円の税金が軽減されます。この節税効果は、企業の資金繰り改善にも役立ちます。
無担保・無保証での貸付
倒産防止共済では、取引先企業が倒産した場合に、無担保・無保証で貸付を受けることができます。これは、通常の金融機関からの融資と比べて、大きなメリットです。
取引先企業が倒産した場合、金融機関は、担保や保証を求めることが一般的です。
しかし、倒産防止共済では、担保や保証なしで貸付を受けることができるため、迅速な資金調達が可能となります。これは、特に中小企業にとって、資金繰りが厳しい状況下で非常に大きなメリットとなります。
解約時の手当金受取
倒産防止共済を解約する場合には、解約手当金を受け取ることができます。解約手当金の金額は、納付した掛金の総額や加入期間によって異なります。
解約手当金は、企業の資金繰り改善や新たな事業への投資などに活用できます。ただし、解約手当金は課税対象となるため、その点に注意が必要です。
中小企業倒産防止共済のデメリット
元本割れのリスク
倒産防止共済は、掛金を全額返戻される制度ではありません。納付月数が40ヵ月未満の場合は、元本割れになる可能性があります。
例えば、100万円の掛金を納付し、30ヵ月後に解約した場合、返戻金は80万円程度になる可能性があります。元本割れのリスクを理解した上で、加入を検討する必要があります。
解約手当金の課税
倒産防止共済を解約した場合に受け取る解約手当金は、課税対象となります。そのため、解約手当金を受け取った際には、税金を支払う必要があります。
ですので、中小企業倒産防止共済は節税対策ではなく、課税の将来の繰延となる制度です。
解約時に思わぬ損失を出してしまった、または過大な繰越欠損金があるという状態であれば、本当の節税対策になると言えるでしょう。
解約手当金の課税は、企業の利益や税率によって異なります。解約を検討する際には、解約手当金の課税について、事前に税理士などに確認しておくことが重要です。
倒産防止共済には運用の機能はない
倒産防止共済は最大800万円を上限に掛金ができます。しかし、解約時において、掛金に対し、利息や運用益がつくことはありません。
ですので、掛金は簿外資産として計上しているのみで、今後の企業を発展させるための投資などに回せないということもデメリットと言えるでしょう。
もし、節税かつ運用をしたいと検討している場合には、小規模企業共済またはiDeCoを検討するのも一つでしょう。
まとめ
中小企業倒産防止共済は、取引先企業の倒産によって生じる経済的な損失から中小企業を守るための制度です。
無担保・無保証で貸付を受けられることや、掛金の全額損金計上による節税効果など、多くのメリットがあります。しかし、加入制限や元本割れのリスク、解約手当金の課税など、デメリットも存在します。
中小企業は、倒産防止共済のメリットとデメリットを理解した上で、自社の経営状況やニーズに合わせて、この制度を活用すべきかどうかを判断する必要があります。
税理士などの専門家の意見や他の企業の事例を参考に、自社の状況に合った判断をすることが重要です。
山本聡一郎税理士事務所では、中小企業倒産防止共済のみならず、様々な節税対策を提案させていただいております。もし、ご興味等がありましたら、お気軽にお問い合わせください。