多様な働き方が広まる中で「マイクロ法人」という言葉を耳にする機会が増えてきました。最近では、副業が認められる企業も増えており、会社員でも節税や社会保険料の削減を目的に設立するケースが見られます。
本記事では、マイクロ法人とは何かについて分かりやすく説明し、一般的な法人・個人事業主との違いやメリットについても詳しく解説します。
このページの目次
マイクロ法人とは? 一般的な法人や個人事業主との違いは?
マイクロ法人とは、従業員を雇用しないで代表者が一人で経営する会社のことで、「株式会社」「合同会社」「合資会社」として設立できます。
ただしこの言葉は、会社法(会社の設立・運営・清算などの規定や手続きを定めた法律)で定められた正式な法律用語ではありません。
また、一般的な法人との主な違いは、以下の2点です。
- 株主・役員・従業員が自分以外にいない
- 活動の目的が事業の拡大かどうか
例えば株式会社などの一般的な法人は、株主を集め、役員や従業員を抱えて事業の拡大を目指し、得た利益を株主に分配します。
一方でマイクロ法人は、代表者が出資者である株主や役員の役割も担い、事業のすべてを可能な限り一人で運営します。
なお、株式会社と合同会社のどちらが良いのか迷われている方はこちらの記事がおすすめです。
・個人事業主との違い
法人を設立せず、個人で事業を行う人との主な違いには、以下の4点が挙げられます。
- 事業の運営形態
- 開業の手続き
- 税金の仕組み
- 経費の範囲
個人事業主の開業手続きは税務署への届出だけで費用はかかりませんが、法人は登記費用がかかり、社会保険にも自分で加入する必要があります。
赤字経営になった際も法人住民税を支払う必要がありますが、個人事業主は所得税や住民税は免除されます。また、個人事業主に比べると経費計上できる範囲が広がります。
マイクロ法人のメリットは?
実際にどんなメリットが挙げられるのかというと、主に以下の4点があります。
① 所得税と住民税を節税できる
課税の仕組みが異なり、個人事業主の所得税は収入に応じて7段階の税率が適用されるため、収入が増えると税率も上がります。
しかし、法人税は所得額に関係なく一定の税率が適用されます。この仕組みにより、個人事業主で収入が高くなれば法人化することで節税効果が得られる場合があります。
また、マイクロ法人では、法人として売上を得て役員として報酬を受け取ります。法人からの給与には「給与所得控除」が適用されるため、所得税と住民税を節税することが可能です。
役員報酬の設定について知りたい方はこちらの記事がおすすめです。
② 社会保険料を抑えられる
一般的には国民健康保険の加入が求められますが、マイクロ法人を設立すると立場が会社員に変わるため、公的保険は国民健康保険から健康保険(社会保険)に移行します。
そして個人事業主の場合は、収入が増えれば保険料も上がります。
一方で、マイクロ法人として社会保険に加入して役員報酬の金額を下げると、健康保険と厚生年金の保険料を抑えられる可能性があり節税効果が期待できます。
③経費を計上できる範囲が広い
個人事業主よりも広い範囲で経費を計上できます。個人事業主では経費として計上できない以下の項目も、マイクロ法人ならば損金として計上できます。
損金(そんきん)とは、法人税を計算する際に利益として得たお金である益金(えききん )から差し引ける費用のことです。
<損金算入できる主な項目>
- 生命保険
- 家賃
- 出張手当
- 自動車保険料
- 出張時の日当
個人事業主では、生命保険や医療保険の保険料は最大4万円ずつしか控除できませんが、法人になると支払った保険料の金額に応じて損金として計上できるため、掛け金の大きさに比例して控除額が増します。
また、法人の経営者は役員報酬を受け取りますが、要件を満たせば役員報酬は経費として扱うことが可能です。役員報酬を経費として扱うと法人税の課税対象から外れるため、節税効果が得られる可能性があるのです。
④社会的信用が高まる
法人登記は会社の概要を一般に開示し、法人として正式に認めてもらうための制度です。会社の信用度を高め、取引上の信頼性を担保するために行われます。
登記の内容は、社名(商号)・所在地・資本金・事業目的などの会社に関する情報です。公開された登記内容は誰でも閲覧できるため、個人事業主よりも社会的信用度が高まります。これにより、金融機関からの融資や、法人を対象とした補助金や助成金などを利用しやすくなるでしょう。
マイクロ法人を設立する際の注意点
設立する際に気をつけたいポイントとしては、主に以下の4点が挙げられます。
①法人設立の際、手続き費用がかかる
マイクロ法人を設立するには手続き費用がかかります。
株式会社の場合は最低でも15万円、合同会社の場合は最低6万円の登録免許税(会社情報の登録にかかる税金)が必要です。
紙の定款(会社の目的や組織、経営方法などに関する規定が記載されている会社の設立時に作成される文書)を作成すると、株式会社・合同会社とも4万円の収入印紙代がかかります。
また、合同会社は不要ですが、株式会社なら定款認証手数料(定款の認証にかかる手数料)が3.2万円必要です。
<設立時に必要な初期費用一覧>
費用の項目 |
合同会社 |
株式会社 |
登録免許税 |
60,000円 |
150,000円 |
定款認証印紙代 |
40,000円 |
40,000円 |
定款認証手数料 |
不要 |
32,000円 |
合計 |
100,000円 |
222,000円 |
②赤字でも法人住民税がかかる
法人の場合は、経営が赤字でも法人住民税の均等割を納付する必要があります。
法人住民税の「均等割」とは、法人の所得が黒字か赤字かに関係なく課税される税金のことです。
③会社員の場合は、法人を設立しても社会保険料を節約できない
会社員として働いている人が立ち上げることは可能です。
しかし、雇用されている会社がすでに社会保険料を負担しているため、別途で社会保険料を支払うことはできかねます。
④脱税と疑われないようにする
設立自体は合法です。しかし、事業活動が行われていないと疑われる場合、ペーパーカンパニーや租税回避(税法が想定していない形式で税負担を減少させようとする行為)、脱税とみなされるリスクがあります。
このような場合、税務署からの調査が行われるケースもあります。設立する際は、個人事業主の活動を法人化したり、別の事業を行なったりなどの対策も必要です。
まとめ
マイクロ法人は、従業員を雇わずに代表者一人で経営を行う会社です。社会保険料が抑えられたり所得税や住民税を節税できたりといったメリットがあり、個人事業主以上の節税対策となる可能性もあります。
ただし費用もかかり手続きが煩雑になりがちな上、脱税行為と疑われないように注意する必要もあります。もしも前向きに検討をされているのなら、起業に強い税の専門家に相談することがおすすめです。
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