フリーランスや一人社長が健康診断を受けた際、その費用が経費として認められるかどうかは、税法上の規定に基づいて判断されます。
結論として、個人事業主(フリーランス)や一人社長の健康診断費用は経費として認められません。
ただし、一人社長に関しては、一定の条件を満たせば経費として認められる可能性があります。
ここでは、健康診断や人間ドックを経費にできるかどうか、その基本ルールや条件について詳しく解説します。
このページの目次
健康診断を経費計上するための3つのルール
一般的に、健康診断の費用は「福利厚生費」として処理できますが、従業員がいることが前提です。
一人社長・フリーランスには従業員がいないため、そもそも「福利厚生」という概念は存在しません。
また、福利厚生費は、すべての従業員に対して平等に提供されるものでなければなりません。
そのため、特定の役員・社員だけが健康診断を受ける場合は、福利厚生費として認められません。(福利厚生費の対象者はパート・アルバイトも含まれています。)
また、労働基準法では、従業員に対して健康診断を受けさせることが企業の義務とされています。
この義務に基づき、健康診断費用が経費として認められているのです。
ルール1・健診費用は全額会社が負担すること
健康診断の費用は、すべての従業員に対して平等に提供され、会社が全額負担しなければなりません。
役員や正社員だけではなく、パート・アルバイト従業員を含めた全従業員が対象である必要があります。
※福利厚生費の要件:機会の平等性
ルール2・健診費用は妥当な金額であること
健康診断の基本的な費用については会社が負担する必要がありますが、高額なオプション検査や特別な診断は自己負担にするのが一般的です。
これは経費として認められる範囲を適切に維持するためです。
※福利厚生費の要件:金額の妥当性
ルール3・医療機関への直接支払いが原則
健康診断費用は、会社が直接医療機関に支払う必要があります。
従業員に現金を渡して支払わせる形式にすると、経費として認められないため注意が必要です。
※福利厚生費の要件:現物支給でないこと
個人事業主・フリーランスの健康診断
なぜ経費にできないのか?
個人事業主が受ける健康診断は、プライベートな支出とみなされるため、経費として認められません。
健康維持や診断は個人の生活に関連する支出であるため、これは事業に直接関連しないと判断されるからです。
健康診断だけでなく、医療費やサプリメント代も同様に経費として計上できません。
従業員がいる場合
個人事業主であっても、従業員の健康診断費用に関しては福利厚生費として認められています。
前述しました通り、事業主は従業員に対して健康診断を受けさせることが労働基準法で義務付けられているからです。
家族専従者は対象外
ただし、家族(青色事業専従者)の健康診断費用は、経費としては認められません。
今回のテーマに限らず、青色事業専従者とその他の従業員は扱いが異なるため、迷った際には専門家に相談するようにしましょう。
●国税庁 No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除
一人社長の健康診断
なぜ経費にできないのか?
一人社長の場合、従業員がいないため「福利厚生費」は適用されません。
そのため、個人事業主と同様に、社長個人の健康診断費用はプライベートな支出とされ、経費として認められません。
もしも社長の健康診断費用を会社が負担して、経費計上できなければ「役員賞与」とみなされ社長個人の所得税に課税されることになります。
健康診断費用を経費として認めてもらうには?
ただし、以下の条件を満たすことで一人社長の健康診断費用でも経費として認められる場合があります。
福利厚生制度の明確化
福利厚生費として健康診断を経費にするためには、会社として明確な福利厚生制度を設けることが重要です。
・将来従業員を雇用することを前提とし、健康診断規程を含む就業規則を整備する。
・規定通りに健康診断を実施。さらに、その内容が他の企業と同等のものである。
ただし、この件に関しては税務調査などで指摘されるリスクを避けるためにも、専門家のアドバイスが欠かせません。
トラブルを未然に防ぐためにも、自己判断で行わずに、専門家に相談しながら進めていくことをお勧めします。
健診の費用負担を減らすための工夫と対策
「経費にできないのならば、少しでも健診費用を抑えたい」と思われる方も多いかと思います。
基本的な健診内容であれば、加入している健康保険を使って費用負担を下げられる場合があります。
また、年齢別対象者には特別健診(がん検診などのオプション)を無料で行っている自治体もあります。
人間ドック費用の割引サービスを提供している民間の生命保険もありますので、ぜひ一度調べてみてください。
健康診断費用は医療費控除の対象外
健診費用を経費にできないのならば、医療費控除できないかとお考えの方は多いですが、健診費用は医療費控除の対象にはなりません。
一般的な健康診断は「予防」を目的としているため、医療費控除の対象外となることが多く、控除を受けるためには「治療」が必要と判断された検査や治療のみが対象となります。
●過去コラム 医療費控除はどこまで対象?「自分は病院に無縁」でも医療費控除が受けられるかもしれません
まとめ
健康診断の費用は、基本的に一人社長や個人事業主(フリーランス)の場合、経費として認められることは難しいですが、法人の場合は特定の条件を満たせば経費計上が可能になるケースもあります。
特に福利厚生制度の整備や、健康診断を業務の一環として位置づけるなど、適切な対策を取ることが重要です。
健康診断や経費計上に関して不安や疑問がある場合は、ぜひ山本聡一郎税理事務所にご相談ください。
最適な対応方法をアドバイスいたします。
また、「これを機に就業規則を整備したい」という場合も、労務の専門家と一緒にサポートさせていただきます。