知らないと損!小規模企業共済の貸付にある裏ワザと賢い使い方をプロが解説します

小規模企業共済の貸付を単なる緊急時の備えだと思っていませんか?実はこの制度、実質的な無審査・無担保、銀行より圧倒的な低金利で資金を調達できる「裏ワザ」的な活用法が存在します。本記事を読めば、最短即日で借入する方法や節税効果を維持したまま運転資金を確保する賢い使い方など、知っている人だけが得をする資金繰り改善のテクニックが全てわかります。

小規模企業共済の貸付制度とは 経営者のためのセーフティネット

「小規模企業共済」と聞くと、多くの経営者や個人事業主の方は「将来の退職金のための積立制度」というイメージをお持ちではないでしょうか。もちろんそれは大きな魅力の一つですが、実はそれだけではありません。小規模企業共済には、経営の安定に直結する非常に強力な「貸付制度」という、もう一つの重要な側面があります。

この貸付制度は、不測の事態で急に資金が必要になった時や、事業拡大のチャンスが訪れた時に、頼りになるセーフティネットとして機能します。国の機関である独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営しているため、安心感も抜群です。この章では、裏ワザ的な活用法の前提となる、貸付制度の基本的な仕組みと利用対象者について詳しく解説します。

掛金を担保に低金利で借入できる制度

小規模企業共済の貸付制度の最大の特徴は、これまでご自身が積み立ててきた掛金の合計額を担保として、低金利で事業資金を借り入れできる点にあります。これは、銀行や日本政策金融公庫などの他の金融機関からの融資とは根本的に異なる仕組みです。

一般的な融資では、事業計画書や決算書の提出、不動産などの物的担保や保証人が求められます。しかし、この制度では自らの掛金が担保となるため、新たな担保や保証人を探す必要がありません。そのため、手続きが非常にスピーディーで、経営者が直面する「今すぐ資金が必要」という緊急のニーズに応えやすい構造になっています。

制度の基本的な概要を以下にまとめました。

項目 内容
運営主体 独立行政法人中小企業基盤整備機構(通称:中小機構)
担保 自身が納付した掛金の合計額の範囲内
保証人 原則不要
金利 貸付の種類により異なるが、年0.9%~1.5%と非常に低金利(2024年4月現在)
主な特徴 ・手続きが迅速
・決算書の提出などが不要な場合が多い
・国の機関が運営する安心感

このように、小規模企業共済の貸付は、もしもの時の備えとしてだけでなく、事業を前進させるための戦略的な資金調達手段としても非常に有効な選択肢なのです。

貸付制度を利用できる対象者

この便利な貸付制度を利用できるのは、当然ながら「小規模企業共済の契約者」であることが大前提です。その上で、一般貸付けの場合、掛金の納付月数が12か月以上であることが条件となります。

つまり、小規模企業共済に加入さえしていれば、誰でもすぐに利用できるわけではありません。将来の資金調達の選択肢を確保するためにも、事業を始めたら早めに加入し、コツコツと掛金を納付しておくことが重要です。

まだ小規模企業共済に加入していない方のために、加入資格のある「小規模企業の経営者や役員、個人事業主」の具体的な条件を以下に示します。ご自身の事業が該当するか確認してみてください。

業種 常時使用する従業員数 対象となる方
製造業、建設業、運輸業、不動産業、農業など 20人以下 ・個人事業主
・会社の役員(株式会社、合同会社など)
・個人事業主の共同経営者(2名まで)
商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く) 5人以下
サービス業のうち宿泊業、娯楽業 20人以下

上記の条件を満たしていれば、小規模企業共済に加入でき、掛金を1年以上納付することで貸付制度の利用対象者となります。ご自身の加入資格や制度の詳細については、以下の公式サイトで最新の情報をご確認ください。

独立行政法人中小企業基盤整備機構 小規模企業共済

【一覧比較】小規模企業共済の貸付制度7つの種類と金利

小規模企業共済の貸付制度は、事業主の多様な資金ニーズに応えるため、全部で7つの種類が用意されています。それぞれ目的や条件、金利が異なるため、ご自身の経営状況や資金使途に最も適した制度を選ぶことが、賢い資金調達の第一歩です。まずは、各制度の概要を一覧表で比較してみましょう。

各制度の金利や条件は変更される可能性があるため、ご利用の際は必ず中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)の公式サイトで最新情報をご確認ください。

小規模企業共済 貸付制度 比較一覧
貸付制度の種類 借入限度額 金利(年利) 返済期間 主な利用シーン
一般貸付け 掛金納付月数に応じ、掛金の7~9割(10万円以上2,000万円以内) 1.5% 借入額により6ヶ月~60ヶ月 事業用の運転資金・設備資金
緊急経営安定貸付け 50万円以上1,000万円以内 0.9% 借入額により36ヶ月~60ヶ月 売上減少時など、経営の安定化
傷病災害時貸付け 50万円以上1,000万円以内 0.9% 借入額により36ヶ月~84ヶ月 災害や傷病による被害からの復旧
福祉対応貸付け 50万円以上1,000万円以内 0.9% 借入額により36ヶ月~84ヶ月 家族の介護やバリアフリー化対応
創業転業時・新規事業展開等貸付け 50万円以上1,000万円以内 0.9% 借入額により36ヶ月~84ヶ月 後継者の事業多角化や新規事業
事業承継貸付け 50万円以上1,000万円以内 0.9% 借入額により36ヶ月~84ヶ月 事業用資産の購入など事業承継
廃業準備貸付け 50万円以上1,000万円以内 0.9% 12ヶ月 廃業に伴う費用や生活資金

一般貸付け

「一般貸付け」は、小規模企業共済の貸付制度の中で最も基本的で利用しやすい制度です。事業に必要な運転資金や設備資金など、幅広い用途に利用できるのが特徴です。これまで納付した掛金の範囲内で借入額が決まるため、コツコツと掛金を積み立ててきた方ほど、多くの資金を低金利で調達できます。

  • 借入限度額: 掛金納付月数に応じて、納付した掛金合計額の7割~9割(10万円以上2,000万円以内)。
  • 金利: 年1.5%
  • 資金使途: 事業経営に必要な運転資金または設備資金。
  • ポイント: 掛金という「自分の積立」を担保にするため、実質的に無審査・無担保・無保証人で借りられる点が最大のメリットです。

緊急経営安定貸付け

取引先の倒産や売上の急な減少など、経営の安定に支障が生じた際に頼りになるのが「緊急経営安定貸付け」です。経済情勢の悪化や予期せぬトラブルで資金繰りが厳しくなった経営者を支えるためのセーフティネットとして機能します。

  • 借入限度額: 50万円以上1,000万円以内(掛金合計額の範囲内)。
  • 金利: 年0.9%という、一般貸付けよりもさらに低い金利が適用されます。
  • 対象者: 1年間の売上高が前年または前々年比で5%以上減少した方など、特定の要件を満たす必要があります。
  • ポイント: 一時的な資金繰りの悪化に対応するための制度であり、低金利で経営の立て直しを図ることができます。

傷病災害時貸付け

自然災害による事業資産への被害や、契約者本人が病気やケガで入院した場合など、不測の事態に見舞われた際に利用できる制度です。事業の継続や復旧に必要な資金を低利で借り入れることができます。

  • 借入限度額: 50万円以上1,000万円以内(掛金合計額の範囲内)。
  • 金利: 年0.9%
  • 対象者: 災害救助法が適用された地域の災害で被害を受けた方や、疾病・負傷により15日以上の入院をした方。
  • ポイント: 返済期間が最長7年(84ヶ月)と比較的長く設定されており、じっくりと事業の再建に取り組むことが可能です。

福祉対応貸付け

契約者本人または同居する親族の福祉向上のために必要な住宅改修や福祉機器の購入資金に対応する、ユニークな貸付制度です。事業資金だけでなく、生活を支えるための資金にも対応している点が特徴です。

  • 借入限度額: 50万円以上1,000万円以内(掛金合計額の範囲内)。
  • 金利: 年0.9%
  • 資金使途: 契約者本人または同居親族の介護のために、住宅のバリアフリー化工事や介護用車両、福祉機器などを購入する資金。
  • ポイント: 家族の介護というプライベートな資金ニーズにも、事業主のセーフティネットである共済制度が応えてくれる心強い制度です。

創業転業時・新規事業展開等貸付け

事業の多角化や新たな分野への進出を目指す経営者を支援する制度です。個人事業主が法人成りした場合や、後継者が新規事業を始める際などに活用できます。

  • 借入限度額: 50万円以上1,000万円以内(掛金合計額の範囲内)。
  • 金利: 年0.9%
  • 対象者: 共済契約者の事業を継承した後継者が新規事業や事業転換を行う場合や、個人事業主が新たに設立した法人の役員に就任した場合など。
  • ポイント: 事業の成長・拡大フェーズにおける前向きな投資を、低金利で後押ししてくれます。

事業承継貸付け

スムーズな事業承継を資金面からサポートするための貸付制度です。後継者が先代から事業用の資産を買い取る際の資金などに利用できます。

  • 借入限度額: 50万円以上1,000万円以内(掛金合計額の範囲内)。
  • 金利: 年0.9%
  • 資金使途: 共済契約者が営んでいた事業の全部を、その親族または従業員に承継させる際に必要な株式や事業用資産の取得資金。
  • ポイント: 後継者の資金負担を軽減し、円滑な世代交代を実現するための重要な制度と言えるでしょう。

廃業準備貸付け

事業の廃業を円滑に進めるために必要な資金を準備するための制度です。共済金の請求事由である「事業の廃止」を予定している方が対象となります。

  • 借入限度額: 50万円以上1,000万円以内(掛金合計額の範囲内)。
  • 金利: 年0.9%
  • 資金使途: 廃業に伴う設備の処分費用や、事業廃止後の生活資金など。
  • ポイント: 返済期間が12ヶ月と短いですが、廃業というデリケートな時期の資金繰りを支える貴重な制度です。借入金を完済した後に、共済金を受け取ることになります。

知らないと損する小規模企業共済の貸付にある裏ワザ的活用法

小規模企業共済の貸付制度は、単に困ったときに助けてくれるセーフティネットというだけではありません。その仕組みを深く理解することで、経営戦略の一環として積極的に活用できる「裏ワザ」とも言える側面を持っています。ここでは、知っている経営者だけが得をする、貸付制度の賢い使い方を6つの裏ワザとして具体的に解説します。

裏ワザ1 実質「無審査・無担保・無保証人」で借りる仕組み

資金調達と聞くと、まず頭に浮かぶのが金融機関の厳しい審査や担保・保証人の問題ではないでしょうか。しかし、小規模企業共済の貸付は、これらのハードルが実質的に存在しません。

その理由は、借入の担保が「これまでご自身が積み立ててきた掛金」そのものであるためです。すでに積み立てた掛金の範囲内でお金を借りる仕組みなので、新たな不動産担保や第三者の保証人を準備する必要が一切ありません。

もちろん、申込手続きは必要ですが、決算書の提出や事業計画書のプレゼンといった事業性評価を伴う厳格な「審査」はありません。掛金をきちんと納付していれば、赤字決算や債務超過といった状況であっても、掛金の範囲内で借入が可能です。この手軽さと確実性は、他のどの融資制度にもない大きなメリットと言えるでしょう。

裏ワザ2 銀行融資より圧倒的な低金利で資金調達する

事業用の資金を借りる際、金利は最も重要な要素の一つです。金利が高ければ、それだけ返済負担が重くなり、会社のキャッシュフローを圧迫します。その点、小規模企業共済の貸付は、他の金融商品と比較して圧倒的に有利な金利設定となっています。

特に「一般貸付け」の金利は年1.5%(2024年4月1日現在)と、非常に低い水準です。以下の表で、他の資金調達方法と金利を比較してみてください。

資金調達方法 金利(年率)の目安 特徴
小規模企業共済(一般貸付け) 1.5% 掛金範囲内、実質無審査、手続きが迅速
日本政策金融公庫 1.5% ~ 3.0%程度 国の政策金融機関。審査あり。
銀行のプロパー融資 1.0% ~ 4.0%程度 信用保証協会の保証なし。審査が厳しい。
ビジネスローン(ノンバンク系) 3.0% ~ 18.0% 審査は早いが金利が高い。

※金利は経済情勢や各金融機関、個別の条件により変動します。

なぜこれほど低金利が実現できるのか。それは、小規模企業共済が国の機関である中小機構によって運営される、営利を目的としない共済制度だからです。経営者の相互扶助の精神に基づいているため、民間金融機関とは一線を画す有利な条件で資金を調達できるのです。

裏ワザ3 最短即日で借入できる「即日貸付け」を使いこなす

「急に大きな支払いが必要になった」「売掛金の入金が遅れて、明日の支払いが危ない」といった緊急事態は、経営において起こり得ます。そんな時、スピード感のある資金調達は命綱となります。

小規模企業共済の貸付は、商工組合中央金庫(商工中金)の本支店の窓口で手続きをすれば、最短で申込当日に融資金を受け取ることが可能です。これを「即日貸付け」と呼びます。

この裏ワザを確実に成功させるためのポイントは「完璧な事前準備」です。以下のものを事前に確認し、不備なく窓口へ持参しましょう。

  • 登録している印鑑(実印)
  • 印鑑証明書(発行後3か月以内のもの)
  • 本人確認書類(運転免許証など)
  • 共済契約締結証書
  • 借入希望額に応じた収入印紙

午前中の早い時間に手続きを完了させれば、その日の午後には指定口座へ着金する可能性が高まります。いざという時のために、最寄りの商工中金の場所と必要書類をあらかじめ把握しておくことが、この裏ワザを使いこなす最大のコツです。

裏ワザ4 高金利のビジネスローンからの借り換えで返済を楽にする

もし現在、金利の高いビジネスローンやカードローンで事業資金をまかなっている場合、小規模企業共済の貸付は財務改善の切り札になります。

例えば、金利15%のビジネスローンで300万円を借りているとします。これを金利1.5%の小規模企業共済の貸付で借り換えることで、支払う利息を大幅に削減し、月々の返済負担を劇的に軽くすることができます。削減できた利息分は、新たな投資に回したり、会社の内部留保を厚くしたりと、経営をより健全な方向に導きます。

借り換えの手順はシンプルです。

  1. 小規模企業共済の一般貸付けを申し込む。
  2. 貸付金が振り込まれたら、その資金で高金利のローンを一括返済する。
  3. 以降は、低金利の小規模企業共済の貸付を計画的に返済していく。

これは単なる資金調達ではなく、企業のキャッシュフローを改善し、財務体質を強化するための積極的な経営戦略と言えるでしょう。

裏ワザ5 節税効果を維持したまま運転資金を確保する

小規模企業共済の最大の魅力は、掛金が全額「小規模企業共済等掛金控除」として課税対象所得から控除され、高い節税効果がある点です。しかし、急な資金需要で安易に共済を「解約」してしまうと、このメリットを失うことになります。

解約して受け取る解約手当金は、その年の所得(一時所得または退職所得)として扱われ、課税対象となってしまいます。さらに、一度解約すると、それまでの節税メリットも将来の退職金もすべて失われます。

ここで活きるのが「貸付」という選択肢です。貸付制度を利用すれば、共済契約を継続したまま、つまり掛金の全額所得控除という節税メリットを享受し続けながら、必要な運転資金を確保できるのです。これは「解約」と「貸付」の決定的な違いであり、知っているかどうかで手元に残る資金が大きく変わる、非常に重要なポイントです。

裏ワザ6 掛金を増額して将来の貸付限度額を上げる

小規模企業共済の貸付限度額は、これまで納付した掛金の合計額によって決まります。一般貸付けの場合、掛金合計額の7割から9割の範囲内(上限1,000万円)で借りることができます。

この仕組みを逆手に取り、将来の資金調達を見据えた戦略的な活用が可能です。例えば、数年後に設備投資や事業拡大でまとまった資金が必要になることが予測できる場合、前もって毎月の掛金を上限の7万円まで増額しておくことで、計画的に貸付の限度額を引き上げておくことができます。

これは、将来の資金調達に向けた「攻めの積立」です。掛金は月額1,000円から7万円の範囲で500円単位で自由に設定でき、増額・減額も柔軟に行えます。ご自身の事業計画に合わせて掛金額をコントロールすることで、小規模企業共済を「未来の融資枠を育てる貯金箱」として活用することができるのです。

各貸付制度の詳細な条件や最新の金利については、必ず公式サイトでご確認ください。
独立行政法人 中小企業基盤整備機構 – 貸付制度

貸付の裏ワザに潜むデメリットと利用前の注意点

小規模企業共済の貸付制度は、低金利かつスピーディーに資金調達できる非常に便利な制度です。しかし、その手軽さの裏には見過ごせないデメリットや注意点が存在します。「自分の掛金が担保だから安心」と安易に考えてしまうと、思わぬ落とし穴にはまる可能性も否定できません。ここでは、貸付制度を賢く利用するために、事前に必ず理解しておくべき4つの重要なポイントを詳しく解説します。

返済が滞るとペナルティがある

小規模企業共済の貸付は、自身の掛金積立額が担保になっているとはいえ、返済が遅れれば厳しいペナルティが課せられます。具体的には、返済期日を過ぎると、年率14.6%という非常に高い利率の違約金(延滞利息)が発生します。これは一般的な消費者金融の金利に匹敵する水準であり、返済の遅れが長引くほど、返済総額は雪だるま式に膨れ上がってしまいます。

返済が滞ると、まず中小機構から督促状が送付され、それでも返済が行われない場合は、最終的に担保となっている掛金から貸付金の元金と利息、そして延滞利息が強制的に相殺されることになります。これは事実上の「解約」と同じ状態を意味し、将来の備えである共済制度そのものを失いかねない深刻な事態です。手軽に借りられるからこそ、返済計画には細心の注意を払わなければなりません。

(参考:Q.貸付金の返済が遅れた場合、どうなりますか。|小規模企業共済 よくあるご質問 – 中小機構

貸付残高があると解約手当金が減る

小規模企業共済を「経営者の退職金」として活用している方にとって、最も注意すべき点がこの項目です。事業を廃業したり、役員を退任したりして共済契約を解約する際、貸付金の残高(元金および未払利息)がある場合、その全額が受け取るべき解約手当金から差し引かれます。

つまり、「借りているお金」は、将来あなたが受け取るはずだった「退職金」から天引きされるのです。この仕組みを理解していないと、いざ解約した時に「想定していたより手当金がずっと少ない」という事態に陥ってしまいます。貸付を利用する際は、常に「将来の受取額がその分だけ減っている」という意識を持つことが重要です。

具体的にどれくらい影響があるのか、以下の表で確認してみましょう。

解約手当金と貸付残高の関係
状況 本来の解約手当金額 貸付残高(元利合計) 実際に受け取れる金額
貸付を利用していない場合 500万円 0円 500万円
貸付を利用している場合 500万円 200万円 300万円

このように、貸付残高があるだけで、手元に残る資金は大きく変わってきます。運転資金の確保は重要ですが、それが将来の生活資金を削る行為であることは忘れないでください。

あくまで借金であることを忘れない

「実質無審査」「掛金の範囲内」といった手軽さから、小規模企業共済の貸付を「積立金の一時的な引き出し」のように錯覚してしまう経営者も少なくありません。しかし、これは明確な誤りです。小規模企業共済の貸付は、紛れもなく利息の発生する「借金」です。

この認識が甘いと、安易な借入を繰り返してしまい、気づいた時には返済が経営を圧迫するほどの負担になっているケースがあります。特に、返済期間が長期にわたる場合、毎月の返済額は小さく見えても、総支払利息額は決して無視できません。

貸付を利用する前には、必ず以下の点を自問自答してください。

  • この資金は本当に今、必要不可欠か?
  • 他の資金調達手段(例:日本政策金融公庫の融資など)と比較検討したか?
  • 明確で実現可能な返済計画は立てられているか?

借入のハードルが低いからこそ、より一層の自己規律が求められます。事業のキャッシュフローを正確に把握し、無理のない返済計画を立てた上で、計画的に利用することが鉄則です。

共済契約が失効するケース

貸付制度の利用とは直接的な関係はありませんが、共済制度そのものを維持する上で最も基本的な注意点です。小規模企業共済は、掛金の払込みが12ヶ月以上滞ると、共済契約そのものが「みなし解約」として扱われ、契約が失効してしまいます。

契約が失効すると、当然ながら貸付制度を利用することは一切できなくなります。それだけでなく、掛金の納付月数が240ヶ月(20年)未満でみなし解約となった場合、受け取れる解約手当金が納付した掛金の合計額を下回ってしまう可能性があります。

資金繰りが厳しい状況で貸付を利用している際に、貸付金の返済を優先するあまり、毎月の掛金の支払いを滞納してしまうのは本末転倒です。共済制度のメリットを享受し続けるためにも、何よりもまず毎月の掛金を遅延なく納付することを最優先に考えましょう。

(参考:Q.掛金を払い忘れた(滞納した)場合、どうなりますか。|小規模企業共済 よくあるご質問 – 中小機構

小規模企業共済の貸付申込から入金までの流れ

小規模企業共済の貸付制度は、いざという時に頼りになる心強い味方です。ここでは、実際に貸付を利用する際の申込から入金までの具体的なステップを、誰にでも分かりやすく解説します。特に「即日貸付け」を希望する方は、スムーズに手続きを進めるためのポイントをしっかり押さえておきましょう。

ステップ1 申込書類の準備

貸付手続きの第一歩は、必要書類を正確に準備することです。書類に不備があると手続きが遅れる原因になるため、事前にしっかり確認しましょう。一般貸付けの場合、主に以下の書類が必要となります。

一般貸付けの主な必要書類一覧
書類名 入手方法 備考
貸付金借入申込書(様式 小共301) 中小機構のウェブサイトからダウンロード、または商工中金の窓口で入手 借入希望額や返済方法などを記入します。
金銭消費貸借契約証書(借用証書)(様式 小共302) 借入金額に応じた収入印紙の貼付が必要です。
印鑑証明書 市区町村の役所で発行 発行後3ヶ月以内の原本が必要です。法人の場合は法務局で発行する印鑑証明書となります。
収入印紙 郵便局やコンビニなどで購入 借用証書に貼付します。金額は借入額によって異なります。

これらの書類は、独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)の公式サイト内にある「各種様式ダウンロード」ページから入手可能です。書類を記入する際は、共済契約の申込時に登録した印鑑(登録印鑑)と、印鑑証明書の実印を正確に使い分ける必要がありますので、十分に注意してください。記入漏れや押印ミスがないか、提出前に必ず再確認しましょう。

借用証書に貼付する収入印紙の金額は、以下の通りです。

借入金額と収入印紙税額
借入金額 印紙税額
10万円超 50万円以下 400円
50万円超 100万円以下 1,000円
100万円超 500万円以下 2,000円
500万円超 1,000万円以下 10,000円
1,000万円超 5,000万円以下 20,000円

ステップ2 商工組合中央金庫(商工中金)の窓口で手続き

必要書類がすべて揃ったら、申込窓口である商工組合中央金庫(商工中金)の本支店へ持参します。小規模企業共済の貸付申込は、他の金融機関や商工会では受け付けていないため注意が必要です。

窓口での手続きは、原則として共済契約者本人が行う必要があります。代理人による手続きは認められていませんので、必ずご自身で足を運んでください。窓口に持参するものは以下の通りです。

  • 記入・押印済みの申込書類一式
  • 登録印鑑(書類に訂正があった場合に使用します)
  • 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど顔写真付きのもの)

窓口担当者が書類の内容を確認し、不備がなければ申込手続きは完了です。手続き自体は、混雑していなければ30分程度で終わることがほとんどです。

ステップ3 審査と入金

申込手続きが完了すると、中小機構による審査が行われます。ただし、この審査は銀行融資のような事業内容や収益性を問う厳しいものではありません。掛金の範囲内での貸付であるため、提出書類に不備がなく、掛金の滞納といった契約上の問題がなければ、審査で断られることはほぼありません

審査完了後、貸付金が指定の口座に振り込まれます。入金までの期間は、申込方法によって大きく異なります。

  • 通常の場合:申込から約1週間~2週間程度で入金されます。
  • 即日貸付けの場合:裏ワザとしても紹介した「即日貸付け」を利用すれば、最短で申込当日に資金を受け取ることが可能です。これを実現するには、「商工中金の普通預金口座を振込先に指定する」「平日の午前中に手続きを完了させる」といった条件を満たす必要があります。急な資金需要に応えたい場合は、この方法が極めて有効です。

無事に貸付金が入金されたら、契約時に定めた返済計画に沿って返済がスタートします。借入は将来の退職金を前借りしている状態と同じです。計画的に返済を進め、事業の安定化に役立てていきましょう。

まとめ

小規模企業共済の貸付は、掛金を担保にするため実質無審査・無担保で、銀行融資より低金利かつ迅速に資金調達できる、経営者にとって非常に強力なセーフティネットです。節税効果を維持したまま運転資金を確保できるなど、裏ワザ的な活用法は多数あります。しかし、あくまで借金であり、返済遅延にはペナルティも伴います。本記事で解説したメリットと注意点を正しく理解し、計画的に活用することで、事業の安定と成長に繋げましょう。

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税理士 山本聡一郎
山本聡一郎税理士事務所 代表税理士。1982年7月生まれ。名古屋市中区錦(伏見駅から徒歩3分)にてMBA経営学修士の知識を活かして、創業支援に特化した税理士事務所を運営。クラウド会計 Freeeに特化し、税務以外にも資金調達、小規模事業化持続化補助金などの補助金支援に力を入れている。
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