中小企業向け|M&Aで新規事業を獲得するメリットとデメリット

事業の成長や拡大を目指す中小企業にとって、「M&A(エムアンドエー)」は有力な選択肢の一つです。

M&Aは、新規事業を短期間で獲得できる効果的な手段であり、ゼロからの立ち上げに比べてリスクや時間を大幅に削減できるメリットがあります。

特に、過去に新規事業をゼロから立ち上げた経験を持つ経営者の中には、次の事業展開ではM&Aを積極的に検討する方も少なくありません。

しかし、M&Aは大きな可能性を秘める一方で、注意すべきリスクや課題も存在します。
今回の記事では、中小企業の経営者に向けて、M&Aの基本的な仕組みからメリット・デメリット、具体的な進め方までを詳しく解説します。



 M&Aとは?その基本的な仕組み

M&Aとは「Mergers and Acquisitions(合併と買収)」の略で、他の企業を統合したり、その事業や資産を取得することを指します。

中小企業が取り組みやすい形態は以下の3つです。単純に「会社ごと買う」というだけではなく、様々な形があります。

株式譲渡
地元の小さな印刷会社が、デジタルデザイン会社の株式を70%取得し、新しい事業領域に進出するケース

事業譲渡

IT企業が、老舗の web制作部門のみを買い取り、即座に新しいサービスラインを構築するパターン

合併

地域密着型の小売店2社が統合し、仕入れ力や店舗展開力を強化するような事例

これらの方法により、中小企業でも新たな市場や技術を短期間で取り込むことが可能になります。

⚫︎国税庁 営業の譲渡をした場合の対価の額



中小企業がM&Aを活用するメリット

① 新規事業の迅速な立ち上げ

ゼロから事業を構築するよりも、M&Aを利用すれば既に運営されている事業をそのまま引き継げるため、新規事業を短期間で立ち上げることができます。

例えば、自動車部品メーカーが電子部品製造の小規模企業を買収することで、半年かかる立ち上げプロセスを数週間に短縮できるケースもあります。

ゼロから事業を立ち上げて成長させた経験のある経営者が新規事業でM&Aを検討する理由の一つに、ゼロからの立ち上げの大変さをすでに経験していることが挙げられます。

 ② 既存資源やノウハウの活用

M&Aで獲得した企業には、優れた人材、設備、顧客基盤、技術などが既に整っています。

例えば、従業員10名の町工場が、50名規模の同業他社を買収したとします。

・新たに5名の熟練技術者を獲得

・最新の加工機械を導入

・既存の大手取引先ネットワークを継承

限られたリソースを持つ中小企業にとって、これらの経営資源を一度に自社に取り込めることは、競争力を劇的に高める大きなチャンスとなります。

③ 市場シェアの拡大

競合企業や同業他社を買収することで、自社の市場シェアを一気に拡大できます。

例えば、地方の建設会社が同規模の競合会社を買収することで規模を拡大し、地域での受注能力を倍増させ、より大型の公共工事にも参入可能になるケースがあります。

 ④ 事業承継問題の解決

少子高齢化により各業界で後継者不足が深刻な問題となっています。
後継者がいないために、せっかく長く続けてきた事業の廃業を検討する中小企業が増加しています。

けれどもM&Aにより後継者のいない老舗和菓子店が、同じ地域の若い経営者に事業を引き継ぐことで、

・100年続いた伝統技術の存続

・地域の雇用維持

・新しいアイデアによる事業革新

を実現できるのです。



M&Aのデメリット

① 初期費用が高額になる場合がある

M&Aでは、企業や事業の買収費用、手続き費用、専門家の報酬など、多額の初期投資が必要です。
例えば、数千万円の買収費用に加え、デューデリジェンスや法務手続きで数百万円の追加費用が発生するケースもあります。

ただし、小規模M&Aでは数百万円から取引可能な場合もあり、事業規模や投資資金を考慮して適切な金額を設定することが重要です。

M&A資金調達の選択肢

M&Aは自己資金だけでなく、融資を活用することも可能です。
代表的な資金調達方法として、以下のような選択肢があります。

・銀行融資(M&Aローン・事業承継ローン)

・政府系金融機関(日本政策金融公庫など)

・投資ファンド・ベンチャーキャピタル(VC)

買収後のキャッシュフローを考慮し、無理のない返済計画を立てることが重要です。
資金調達については、金融機関やM&A専門家と相談しながら進めましょう。

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② 統合プロセスの難しさ

買収後、企業文化や経営方針の違いから従業員のモチベーションが低下するリスクがあります。

例えば、IT企業と伝統的な製造業が合併した際、働き方や評価制度の違いから従業員の半数が退職するといった事例もあります。

③ 買収先のリスクを引き継ぐ可能性

買収先企業に隠れた負債や法的問題がある場合、中小企業は大きな経営リスクを背負うことになります。

実際に、表面上は好調に見えた企業が、数年分の未払い税金や係争中の訴訟を抱えていたというケースも少なくありません。

④ 収益性が期待通りにならない場合がある

M&Aによって取得した事業が想定していたほどの収益を上げられない場合、限られた経営資源を持つ中小企業にとっては大きな打撃となります。

例えば、新市場への進出を目指して買収した事業が、市場環境の変化により予想を大きく下回る収益しか上げられないリスクがあります。



M&Aを活用した新規事業取得の具体的な流れ

① 買収の目的を明確化する

新規事業の目的(市場拡大、技術獲得、顧客基盤の確保など)を明確にし、自社の経営戦略に合致する買収対象の条件を具体的に設定します。

② 買収候補の選定

M&A仲介会社や専門家の協力を得ながら、自社の条件に合う企業を探します。

公開情報やネットワークを活用して、候補企業をリストアップします。

 ③ デューデリジェンスの実施

デューデリジェンス(Due Diligence)とは、M&A(企業の買収や合併)を実施する際に、対象となる企業について詳細に調査・分析を行うプロセスを指します。

買収や統合を進める前に、対象企業のリスクや価値を把握し、意思決定を行うためにとても重要な手続きです。

財務状況、法務リスク、事業内容などを徹底的に調査します。中小企業にとっては、税理士や弁護士、会計士の協力が成功の鍵となります。

⚫︎国税庁 合併に伴うデューディリジェンス費用の取扱い

④ 契約の締結

買収条件に合意した後、正式な契約を締結します。支払い方法や引き継ぎ条件を明確にし、リスクを最小限に抑えます。
そのためにも専門家の力は積極的に借りるようにしましょう。

⑤ PMI(統合プロセス)の実施

買収後、企業や事業を円滑に統合するための計画を実行します。特に従業員への丁寧な説明と業務プロセスの統合が重要です。



中小企業がM&Aを成功させるためのポイント

1・専門家の積極的な活用

M&Aは複雑な手続きが伴うため、信頼できる税理士、弁護士、M&Aアドバイザーなどの専門家と緊密に連携することが成功の近道です。

2・買収後のシナジーの明確化

買収対象の企業や事業が自社にもたらす具体的なメリットを明確にし、それを実現するための現実的な計画を立てましょう。

3・慎重な財務計画

初期投資額や運転資金、統合コストなどを綿密に見積もり、自社の経営を圧迫しない資金計画を立てることが重要です。

ROI(投資利益率)を算出し、何年で投資回収が可能かを見極めるとともに、予想されるリスクも考慮した計画を策定することが欠かせません。

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創業計画書の書き方・記入例と作成のメリットと注意点



まとめ

M&Aを活用した新規事業取得は、中小企業が成長を加速させるための有力な戦略です。

しかし、多額の投資や複雑な統合プロセスなど、慎重な検討が必要な側面もあります。

成功のカギは、明確な目的意識を持ち、デューデリジェンスやPMIなどのプロセスを適切に進めることです。

また、専門家の知見を借りることで、リスクを最小限に抑えることができます。

M&Aは単なる買収ではなく、新たな成長への挑戦です。

慎重かつ前向きに取り組むことで、これまでにない事業機会を切り開くことができます。

興味があるという方は、ぜひ専門家にご相談ください。



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税理士 山本聡一郎
山本聡一郎税理士事務所 代表税理士。1982年7月生まれ。名古屋市中区錦(伏見駅から徒歩3分)にてMBA経営学修士の知識を活かして、創業支援に特化した税理士事務所を運営。クラウド会計 Freeeに特化し、税務以外にも資金調達、小規模事業化持続化補助金などの補助金支援に力を入れている。
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