【経営者必見】税金・社会保険料滞納の末路と差し押さえ

経営者の皆様にとって、税金や社会保険料の納付は重要な義務です。

しかし、時に資金繰りの都合などで、これらの支払いが滞ってしまうこともあるかもしれません。

「滞納したらどうなるのだろう?」「差し押さえられるって本当?」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

漠然とした不安を抱えるのではなく、具体的なリスクを理解し、適切な対応を講じることが、健全な事業継続のためには不可欠です。

今回は、税金と社会保険料の滞納について、その定義から差し押さえまでの具体的な流れ、そして事業への深刻な影響について詳しく解説します。

そもそも「滞納」とは?

税金や社会保険料における「滞納」とは、定められた納付期限までに、税金や社会保険料が完納されない状態を指します。

よく「〇ヶ月払わないと滞納になる」といった誤解がありますが、法律上、納付期限を1日でも過ぎれば、その時点から滞納とみなされます。

例えば、法人税の申告期限が過ぎても納付がなければ、その翌日から滞納となり、自動的に延滞税や延滞金が発生し始めるのが原則です。

これは、納付期限が法律で厳密に定められているため、猶予期間のようなものはありません。

たとえ少額であっても、滞納状態であることに変わりはなく、その後の手続きやペナルティの対象となります。

税金を滞納するとどうなる?

ここでは、事業に関連する主な税金(法人税、消費税、所得税など)に焦点を当ててご説明します。

① 滞納の始まり:督促状の送付

納付期限を過ぎると、税務署から「督促状」が送付されます。

この督促状には、未納の税額と新たな納付期限が記載されており、これが差し押さえへの最初の一歩となります。

督促状は、滞納者に対する最終的な警告であり、この段階で速やかに対応することが極めて重要です。

場合によっては、督促状の前に電話での催告や、納税緩和措置に関する案内が届くこともあります。

② 自動的に加算される延滞税

納期限の翌日から、その税金を完納する日までの日数に応じて「延滞税」が加算されます。

延滞税の税率は、時期によって変動しますが、納期限から2ヶ月を経過すると税率が高くなるのが一般的です。

例えば、納期限から2ヶ月間は年率2.4%程度ですが、それを過ぎると年率8.7%程度(令和6年時点の特例基準割合による)に跳ね上がります。

これは、税金が返済されていない期間が長くなるほど、企業にとって大きな負担となることを意味します。

延滞税は、借入金の利息に似ていますが、税法上のペナルティであり、通常の金利よりも高い設定になっていることが多いです。

国税庁 No.9205 延滞税について

③ 最終手段:財産調査と差し押さえ

督促状を送付してもなお滞納が続く場合、税務署は滞納者の財産を調査し、差し押さえの手続きを進めることになります。

④ 財産の強制執行:差し押さえとは?

差し押さえとは、国や地方公共団体が、税金を滞納している人の財産(預貯金、不動産、売掛金、給与債権、有価証券、自動車など)を強制的に確保し、滞納された税金に充当する手続きのことです。

裁判所の判断を必要としない「強制執行」にあたるため、税務署の権限で行うことができます。差し押さえの時期は、具体的な状況や税務署の判断によって異なりますが、一般的には督促状の送付から10日を経過しても納付がない場合、差し押さえが可能になります。

しかし、すぐに差し押さえが行われるわけではなく、電話での催告や職員による訪問調査など、段階を踏んで最終的な差し押さえに至ることがほとんどです。

売掛金が差し押さえられると、取引先に税務署から通知がいくため、会社の信用問題に大きく影響します。

これにより、今後の取引継続が困難になったり、新たな取引先を見つけることが難しくなったりする可能性があります。

また、預金口座が差し押さえられると、事業の運転資金が凍結され、従業員の給与支払いや仕入れ代金の決済ができなくなるなど、資金繰りが一気に厳しくなり、事業継続が極めて困難になります。

社会保険料を滞納するとどうなる?

健康保険料、厚生年金保険料などの社会保険料も、税金と同様に納付義務があり、滞納した場合のペナルティも税金と共通する部分が多くあります。

① 督促状の送付

年金事務所などから「督促状」が送付されます。
健康保険組合によっては、独自の催促が行われる場合もありますが、税金と同様に、この督促状が届いた時点で、速やかに対応することが重要です。

② 延滞金の発生

納期限の翌日から、完納される日までの日数に応じて「延滞金」が発生し、税金の延滞税と同様に、滞納期間が長引くほど高額になります。

●日本年金機構 延滞金について

③ 財産調査と差し押さえ

社会保険料も税金と同様に、滞納が続けば差し押さえの対象となります。

差し押さえの対象となる財産も、預貯金、不動産、売掛金、給与など多岐にわたるのが実情です。

税金の場合と同様に、事業資産が差し押さえられれば、事業活動そのものが停止に追い込まれるリスクがあります。

特に、銀行口座の凍結や売掛金の差し押さえは、日々の事業運営に壊滅的な影響を与えるでしょう。

④ 保険証や従業員への影響

社会保険料の滞納は、会社だけでなく従業員にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。

・健康保険証が使えなくなる可能性

会社の滞納が続くと、年金事務所や健康保険組合が従業員の健康保険証を一時的に差し止める、あるいは「資格証明書」に切り替えることがあります。

その場合、従業員は医療機関を受診する際に、医療費を一旦全額自己負担しなければならなくなり、後で払い戻しの手続きをしなければなりません。

これは、従業員にとって大きな負担となり、会社への不信感につながる恐れがあります。

・将来の年金受給額への影響

厚生年金保険料の滞納は、従業員の将来の年金受給額に影響を与える可能性があります。

滞納期間が長引けば、従業員は本来受け取れるはずの年金額が減額されたり、最悪の場合、年金受給資格を失ったりするリスクも生じます。

これは、会社の社会的な責任を問われる事態に発展しかねません。

従業員の生活に直結する問題であるため、経営者としては絶対に避けなければならない事態です。

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自己破産したら滞納した税金はどうなる?知っておくべき税金のルール

資金繰りで滞納をするのはアリなのか?

資金繰りが厳しくなると、「税金や社会保険料を目の前の支払いに充てて一時的に難を逃れよう」とか、「延滞税(延滞金)が跳ね上がる2ヶ月以内までに納付すれば大丈夫だろう」などと考える場合があるかもしれません。

しかし、結論から申し上げると、資金繰りのために安易に税金や社会保険料を滞納することは避けるべきです。

滞納は延滞税や延滞金という余分なコストを生み出すだけでなく、企業の信用を著しく低下させます。

一度信用を失うと、金融機関からの融資が受けにくくなったり、取引先との関係悪化に繋がったりするなど、事業の存続そのものが危ぶまれる事態になりかねません。

特に、金融機関は企業の税金や社会保険料の納付状況を重要な審査項目としています。

滞納があれば、融資の審査に通りにくくなるだけでなく、既存の借入金の借り換えも困難になる可能性があります。

また、取引先によっては、信用調査の一環として滞納の有無を確認する場合もあり、滞納が発覚すれば取引停止に繋がることも考えられます。

さらに重要な点として、所得税や社会保険料には、従業員から預かっている源泉所得税や社会保険料の本人負担分が含まれています。

これらは、従業員から徴収したものであり、会社が一時的に預かっているに過ぎません。

これらに手をつけ、流用することは決して許される行為ではありません。

目先の資金繰りのために滞納を選択することは、将来の事業展開に大きな負の遺産を残すことになります。

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差し押さえを回避するには

滞納は決してあってはならないことですが、それでもやむを得ない事情で支払いが困難になった場合は、差し押さえを回避するための行動を速やかに起こすことが最も重要です。

① 速やかに納付相談へ行く

税務署や年金事務所は、滞納者から相談があれば、状況に応じて納付の猶予や分割納付(分納)に応じてもらえる可能性があります。

大切なのは、滞納を放置せず、自ら積極的に相談に行くことです。

連絡を無視したり、逃げたりすることは、状況を悪化させるだけです。

② 支払う意思を示す

相談の際に、現在の財務状況や今後の支払計画を具体的に説明し、支払う意思があることを明確に伝えることが重要です。

誠実な態度で臨めば、担当者も親身になって相談に応じてくれるでしょう。

③ 約束した分納を厳守する

分納の合意が得られた場合は、約束した期限と金額を毎回厳守して支払いを続けることが、差し押さえを回避する上で最も重要です。

一度でも約束を破ると、信頼を失い、差し押さえに移行するリスクが高まります。

これらの対応は、税務署や年金事務所との信頼関係を築き、差し押さえという最悪の事態を回避する可能性を高めます。

納税・保険料納付の意義と専門家への相談

税金と社会保険料を期限内にきっちり納めることは、公共サービスを維持し、私たちの社会を支える上で不可欠な費用です。

医療、教育、社会保障といった国のサービスを運営するためには、皆さまが納める税金や社会保険料が欠かせません。

これらを支払うことは国民の義務であり、特に経営者としては、事業を通して社会に貢献するという大切な社会的責任でもあります。

税金や社会保険料の滞納は、企業の存続を揺るがす大きなリスクです。

もし、既に滞納してしまっている、あるいは滞納しそうだと感じているのであれば、できるだけ早く税理士にご相談ください。

早期の相談が、事業を守るための第一歩となります。

専門家である税理士に相談することで、精神的な負担も軽減され、冷静に状況を打開するための道筋が見えてくるはずです。

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税理士 山本聡一郎
山本聡一郎税理士事務所 代表税理士。1982年7月生まれ。名古屋市中区錦(伏見駅から徒歩3分)にてMBA経営学修士の知識を活かして、創業支援に特化した税理士事務所を運営。クラウド会計 Freeeに特化し、税務以外にも資金調達、小規模事業化持続化補助金などの補助金支援に力を入れている。
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