起業する地域はとても重要です!
起業を志すとき、多くの方がビジネスモデル、業種、事業内容、そして事業規模について深く検討されることでしょう。
もちろんこれらは成功に不可欠な要素ですが、実は「どこで起業するか」という地域選びも、事業の成否を大きく左右する重要な要素となります。
一見すると、どの地域でも起業の条件は同じように思えるかもしれません。
しかし、人口の多寡や客層の違いだけにとどまらず、より解像度を上げて地域の特性を見ていくと、ご自身の事業やビジネスモデルと相性の良い地域が見えてきます。
今回は、地域別の起業に焦点を当て、そのメリットとポイントについて解説します。
このページの目次
法人にかかる税金は地域差がある?
「法人税は全国一律ではないのか?」と思われる方もいるかもしれません。
実は、法人にかかる税金全体で見ると、地域によって差があるんです。
たしかに、国税である法人税(法人税法に基づいて課される所得税)の税率は、国が定めているため日本全国どこで起業しても一律です。
しかし、地方自治体に納める地方税の一部である法人住民税(均等割、法人税割)や法人事業税については、自治体によって税率が異なる場合があります。
●外部リンク
総 務 省 自 治 税 務 局 令 和 6 年 度 法 人 住 民 税 ・ 法 人 事 業 税 税 率 一 覧 表
自治体によっては、地域活性化を目的として、中小企業向けの法人住民税均等割の税率を軽減している場合があります。
例えば、特定の地域では、資本金1,000万円以下の法人に対して、均等割の最低税額を他の自治体より低く設定しているケースがあります。
このように、わずかな差であっても、長期的な視点で見れば税負担の総額に影響を与える可能性があるため、事業計画を立てる際には、開業を検討している地域の地方税率を確認することが重要です。
地域により補助金・助成金が違う
起業を強力に後押ししてくれる補助金や助成金は、国が実施しているものだけでなく、各地方自治体が独自に設けているものも多数存在します。
これらの制度は、地域の活性化や特定の産業の振興、雇用創出などを目的としているため、地域によってその内容や対象、金額が大きく異なります。
事例① 東京都の「創業助成金」
都内で起業する中小企業や個人事業主を対象に、事業の立ち上げに必要な経費(人件費、賃借料、広告費など)の一部を補助する制度です。
補助上限額が比較的大きく、都内での起業を目指す事業者には非常に魅力的です。
●外部リンク
事例② 移住支援金・起業支援金
地方への移住を伴う起業に対して、移住費用の一部や創業費用、住居費などを補助する制度があります。
他にも様々な自治体が、東京圏から移住して起業する方への支援を行っています。
●外部リンク
事例③ 特定の産業に特化した補助金
各地域で力を入れている産業分野に対して、集中的な支援を行う補助金があり、その地域ならではの強みを活かした技術開発や設備導入を支援する制度が見られます。
●外部リンク
神奈川県横浜市 STARTUP PORT YOKOHAMA 横浜市の助成金
これらの情報を事前に収集することで、事業計画に沿った最適な補助金・助成金を活用できる可能性が高まります。
今回は2つほどリンクを紹介していますが、起業を検討している地域の情報をチェックしておきましょう。
補助金・助成金は期間限定のものも少なくないため、タイミングも重要です。
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コロナ禍の多様な働き方に合わせた地域戦略
新型コロナウイルス感染症の拡大により、リモートワークやテレワークが普及し、働き方やライフスタイルに対する人々の価値観が大きく変化しました。
これに伴い、居住地と勤務地を切り離して考える動きが加速し、起業においてもこの変化を戦略的に活用するケースが増えています。
事例① リモートで首都圏の仕事を獲得しつつ地方で暮らす
ITエンジニアやウェブデザイナー、コンサルタントなど、場所を選ばずにビジネスを展開できる職種の場合、東京や大阪・名古屋などの大都市圏で高単価の仕事をリモートで受注しつつ、生活コストの低い地方都市に居住するスタイルが注目されています。
地方には、家賃や生活費が安価なだけでなく、豊かな自然環境や子育てしやすい環境が整っている場所も多く、ワークライフバランスを重視する起業家にとって理想的な選択肢となり得ます。
事例② 補助金・助成金の多い地域を狙って出店・オフィス開設
地方自治体の中には、人口減少対策や地域経済の活性化のために、新たな事業所の開設や移転に対して手厚い補助金や優遇策を設けているところがあります。
例えば、過疎地域での店舗開設費用や、サテライトオフィスの設置費用を補助する制度を活用し、コストを抑えながら事業を拡大する戦略も有効です。
事例③ 地方のコワーキングスペースやシェアオフィスを活用
地方都市には、リモートワーカーや起業家向けのコワーキングスペースやシェアオフィスが増加しています。
これらの施設は、高速インターネット環境や会議室などの設備が整っているだけでなく、地域コミュニティとの交流の場を提供していることもあります。
地方でのビジネス立ち上げにおける初期投資を抑えつつ、情報交換や連携の機会を得られる点がメリットです。
このような多様な働き方に対応した地域戦略は、事業のランニングコストを抑えつつ、より質の高い生活を実現する可能性を秘めています。
地域の強みを活かした起業
それぞれの地域が持つ歴史、文化、自然、産業などの「強み」を活かした起業は、競合との差別化を図り、地域に根差した強いビジネスを構築する上で非常に有効な戦略です。
また、これらの産業は高齢化している場合も多く、新しく事業を立ち上げるだけでなく、後継者として事業を引き継ぐという選択肢もあります。
事例① 地方の観光地での宿泊ビジネス
京都や沖縄のような国内外からの観光客が多い地域では、旅館やゲストハウス、民泊などの宿泊ビジネスが有力です。
地域の歴史的景観に合わせたデザインや、地元の食材を使った料理を提供するなど、その地域ならではの体験を付加することで、高い集客力を見込めます。
事例② 農業・漁業の地域ブランド化
北海道の海産物、山梨県のフルーツ、静岡県のお茶など、特定の農水産物が有名な地域では、それらを活用した加工食品の製造販売、直売所、観光農園などのビジネスが考えられます。
例えば、特定の品種に特化したワイン製造や、地域の特産品を使ったジェラートの製造販売など、地域ブランドを確立することで、高付加価値化を図ることができます。
またECサイトやネット広告を活用して全国各地で販売することも可能です。
事例③ 伝統工芸の継承・発展と体験プログラム
金沢の加賀友禅、岐阜県の美濃焼、京都の西陣織など、地域に根差した伝統工芸の技術を活かし、現代のライフスタイルに合わせた商品開発や、工房見学、制作体験といった体験型観光と組み合わせた工房運営なども有望です。
これにより、伝統文化の魅力を国内外に発信しつつ、新たな収益源を確保できます。
事例④ 温泉地でのヘルスツーリズム
温泉の効能を活かしたリトリート施設や、地元のオーガニック食材を使った健康食を提供するレストランなど、地域の自然や文化と健康を組み合わせたビジネスも注目されています。
例えば、温泉地でのヨガ体験や森林セラピーと組み合わせた宿泊プランを提供することで、新たな顧客層を開拓できます。
これらの事例のように、地域の特性を深く理解し、それを事業に結びつけることで、地域経済の活性化にも貢献し、持続可能なビジネスモデルを構築することができます。
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注意点
起業する地域を選ぶ際には、メリットだけでなく、以下の注意点もしっかりと考慮することが大切です。
徹底したリサーチの必要性
全ての地方で同じ条件で補助金・助成金を受けられるわけではありません。
地域ごとの制度内容や条件は多岐にわたるため、起業を検討している地域の情報を時間をかけて収集し、ご自身の事業と合致するかどうかを徹底的にリサーチすることが不可欠です。
補助金・助成金ありきで考えるのは失敗の元
補助金や助成金は起業にとって非常に有効な支援策ではありますが、これら「だけ」をメリットとして安易に起業を決断したり、地域を選ぶのは失敗の元となります。
補助金や助成金はあくまで「補助」として考え、それらがなくても継続できる、盤石なビジネスモデルを構築することが最も重要です。
都心部と地方、メリット・デメリットのバランス
今回紹介したように、地方には地方ならではのメリットが確かに存在します。
しかし、どの地域も一長一短であることを理解しておきましょう。
地方はコストが安く、競合が少ないという利点がある反面、首都圏と比較して人口が少なく、ビジネスのスケールアップにはより一層の工夫が必要になるケースがあります。
また、補助金や助成金は税金から賄われているため、総人口が少ない地方では予算が限られていることも少なくありません。
一方、首都圏はライバルも多く、コストも高くなる傾向がありますが、人口が集中していることで、明確な差別化やプロモーションの工夫次第では、安定した顧客を獲得できる確率が高まります。
補助金や助成金の予算も多く、種類も豊富である点は魅力的です。
これらの注意点を踏まえて、どの地域で起業するかを慎重に考えるようにしましょう。
最後に
起業にはビジネスモデルや資金調達が欠かせませんが、どこで事業を始めるかという地域選びも、その後の成功を大きく左右します。
税金の違い、独自の補助金や助成金、働き方や地域の強みを活かした戦略など、考えるべき点は山ほどあります。
これらをすべて自分で調べて最適な場所を選ぶのは大変です。
だからこそ、税理士の専門知識を活用するのがおすすめです。
税理士は、税務だけでなく、各地の補助金・助成金制度やビジネス環境にも詳しいです。起業の最初から相談すれば、事業計画、資金調達、税務・会計まで、さまざまなサポートを受けられます。
「ここで起業したい!」というあなたの思いを現実にするため、ぜひ一度税理士に相談してみてください。
- ※各リンク先の情報は掲載時点のものです。
税制や補助金・助成金の制度は変更される場合がありますので、必ず最新情報を各自治体や関連機関の公式サイトでご確認ください。
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