少し前までは「主婦が働く」といえば、短時間勤務やパートタイマーのどちらかを選ぶという形が主流でした。
けれどもここ数年は「主婦起業」がブームとなり、家庭や育児の負担がある一方で、「自分の才能やスキルを活かして働きたい」と考える主婦が増えてきました。
その背景には、これらの3つが要因であるとされています。
- 「自分らしさ」という価値観を大切にする人が増えたこと
- 晩婚化・核家族化が進み、家事・育児・介護の「ワンオペ」が増えたこと
- インターネットの普及も後押しして、起業のハードルが下がったこと
そのため、「自分らしい、自由な働き方」を求めて、業務委託やフリーランス・起業という道を選ぶ方が増えてきたのではないでしょうか。
主婦の起業は、通常の起業とは少し違います。
スタートアップの社長がよくやる「睡眠時間以外を仕事の時間に費やすような長時間労働」ではなく、家事・育児、介護の両立を前提とした働き方が求められている故に「夫の扶養内で起業する」という考え方があるのです。
そこで今回は、夫の扶養内で起業する方法と、扶養内起業のメリット・デメリットをそれぞれ3つずつご紹介します。
今回の内容は、サラリーマンの妻に焦点を当てています。
自営業者の妻の場合、また少し条件が異なってきますので、ご注意ください。
このページの目次
主婦が夫の扶養内で起業する方法
収入を130万円以内(さらに夫の収入の1/2以内)に抑える
起業しても夫の扶養に入るためには、収入が130万円以内かつ、夫の収入の半分以下であることが必要です。
夫の収入にもよりますが、月に10万円程度に抑えられれば問題ないでしょう。
ここでいう年収とは、個人事業主の場合は「売上金額から必要経費を差し引いた所得金額」を指します。
給与所得者の手取りとは少し違いますので、ご注意ください。
健康保険組合に扶養家族だと認められる
起業しても夫の扶養に入るためには、夫の加入している健康保険組合に扶養家族として認められなければいけません。多くの場合は、条件を満たしていれば扶養に入ることができますが、一部の健康保険組合では認められないケースもあります。
特に起業の場合は、青色申告で自宅の家賃の一部や携帯電話料金などの家事按分が認められているため、同じ年収額のパート主婦と同じ条件で見てもらえない場合があるからです。
そのため、起業する前に夫の会社の人事担当者や健康保険組合に確認しておくことをお勧めします。
個人事業主のままでいる
扶養内で起業する場合は、個人事業主のままでいることが望ましいです。
法人化させた場合、役員に該当するため社会保険は強制加入になります。収入が130万円以内でも扶養を外れてしまいます。
法人の場合「役員報酬を0円にすれば社会保険に加入しなくて良い」とは言われてますが、それでは何のために働いているのか分からなくなってしまいますよね。
扶養内起業を希望される間は、個人事業主を継続していきましょう。
主婦が夫の扶養内で起業するメリット
年金と健康保険料を払わなくていい
扶養内で働く場合、年金や健康保険料を自分で負担する必要がありません。これにより、経済的負担を軽減することができます。
夫の会社から扶養手当(家族手当)がもらえる
扶養内で働くと、夫の会社から扶養手当を受け取ることができます。これにより、家計の収入が増えることが期待できます。
この扶養手当(家族手当)は企業により条件や金額が大きく異なります。
収入制限を設けずに支給する企業もあれば、扶養手当自体がない企業もあります。
また、多くの企業では扶養手当を見直す動きが増えており、扶養手当を廃止した企業も数多く存在します。
日本全体が経済的に厳しい状況に置かれていることもあり、大手企業さえも生き残りをかけて戦うこの令和時代では、社員に対して昭和・平成時代のような待遇を維持することが難しくなってきているのです。
また、共働き世帯が増えてきたこともあり、扶養を外れて働いている主婦も多い中で、扶養に入っているサラリーマンの妻(第3号被保険者)だけが優遇されることに対して「不公平である」という主張が増えてきたことも背景としてあります。
このような現状を十分理解した上で、扶養内起業を選択する必要があります。
配偶者の扶養控除が受けられる
扶養内起業で収入を抑えると、配偶者の扶養控除を受けることができます。これにより、節税効果が期待できます。
扶養控除が外れる年収は150万円以上ですが、夫の扶養に入るためには収入を130万円以内に抑える必要があるため、扶養に入る条件を満たしていれば配偶者扶養控除は問題なく受けることができます。
主婦が配偶者扶養控除を活用することは想像以上にメリットがあります。
認可保育園の保育料やこども手当(児童手当)支給の有無や、福祉サービスの利用料なども前年の所得額で決定します。
税金にはさまざまな控除がありますが、中でも配偶者控除の金額は大きいのでその辺りもしっかり加味した上で「扶養内か・扶養を外れるか」を決めていきましょう。
主婦が夫の扶養内で起業するデメリット
事業を拡大することができない
扶養内の起業では収入を抑えなくてはいけないため、事業を拡大にどうしてもブレーキがかかります。そのため、せっかく事業を大きくするチャンスが来ても、「扶養内」という制限によりそのチャンスを逃してしまうことがあります。
事業を長く続けていると、多くの場合は扶養を外れる時期が来ます。
なぜなら、事業を誠実に続けていると、実績が積み上がり、信用が高まっていくからです。
それにより扶養を超える金額を「稼げるようになってしまう」のです。
(それはそれで非常に良いことであります。)
けれども、小規模事業が一気に成長することは稀です。
そのため、もしも扶養を外れた際には保険料や年金支払いの負担割合が高い時期を耐え忍ぶ期間がどうしても必要になります。
しかし、国民年金保険料は収入額によって変動しないため、収入が多くなるにつれて保険料の負担割合は徐々に小さくなります。
(国民健康保険料は収入額によって変動しますが、上限があります。)
そのラインを突破できれば、扶養を外れることの負担を気にする必要がなくなります。
事業を長く続けていくと、
・扶養内で働き続けることを選択して、事業拡大の可能性を断つ
・扶養を外れて、保険料・年金の支払い割合が大きい期間を耐えて、事業を拡大していく
このどちらかを選ぶことになります。
どちらを選ぶかは、自由です。
どちらかが正解ではありません。
ただ、扶養内起業は「事業拡大が難しい」というデメリットがあるということをお伝えしておきます。
収入を上げられないので、モチベーションの維持が難しい
前項に関連しますが、事業を拡大できないということは、収入を上げることができません。
扶養内起業では収入を月10万円ほどに抑えなくてはいけません。
けれども起業は例え一人だけの小規模であっても事業で必要な一通りの業務は発生します。起業家は想像以上に忙しいものです。
始めたばかりの頃はあまり知識もないので、経理作業などバックオフィスの業務に時間がかかります。
営業や集客活動も慣れていない場合は、結果に結びつくまでに試行錯誤を繰り返す必要があります。
また「起業」は自分で道を切り拓いていかなくてはいけないため、「どうすればうまくいくか」「あの件はどうだったか」など、考えることが膨大にあります。
「気が付いたら一日中仕事のことを考えていた」というのはよくある話です。
このようなことをしていると、毎日が忙しく「時給換算したらパートの時給よりもずっと低かった!」ということがよくあります。
事業を拡大できれば、その時給が大幅に上がることが期待できますが、扶養内と決めている場合は時給を大幅に上げることが難しくなります。
その時にモチベーションの維持ができるかどうかが鍵となります。
「なんだか忙しいばかり。」
「結局、毎日長時間労働になっているのに、収入は10万円以上は上げれない。」
「それだったらパートしている方がお金になったし楽だった。」
起業して長時間労働が続くと、どうしてもこのようにモチベーションが低下することがあります。
扶養内で働く場合は、その点に注意が必要です。
個人の信用がない・事業として認めてもらえない
扶養内で起業を行うと、周囲から「本気で事業をしていない」「ただの趣味」というレッテルを貼られることがあります。これは、自分の努力や才能が正当に評価されない原因となり、自身のサービスについて高めの価格設定ができない、法人から相手にしてもらえないなどのデメリットがあります。
また、扶養内での起業では、個人の信用力や資産が資金調達の際に制約となることがあります。つまり銀行融資や投資家からの資金調達が非常に難しくなるのです。
扶養内起業をされる方は「事業での融資は考えていない」という方も多いかと思いますが、個人で融資を受けることがこの先「全くない」とは言えない以上、事業でも個人でも必要な時に資金調達ができる信用力はあるに越したことはありません。
さらに、このデメリットは外部だけでなく、家族間でも問題を発生させることがあります。
扶養内起業を「趣味」だと言われ「仕事」だと認められないことで、家庭内での家事や育児の分担について正当に自分の権利を主張できなくなることがあります。
特に日本は「家事・育児・介護は女性の仕事」という意識が諸外国よりも強く、「仕事を理由にそれらの分担を求めるなら、それなりの金額を稼がないと受け入れてもらえない」ということが実際に家庭内でよく起こっています。
夫の扶養内で起業することは、経済的な負担を軽減するメリットがありますが、事業の成長や周囲からの評価についてはデメリットも存在します。
自分の目標やライフスタイルに合わせて、扶養内での起業が適切かどうか慎重に検討することが重要です。
最後に 扶養内起業でも必ず開業届を出し、確定申告を行いましょう。
主婦起業の場合、長時間を費やせない分どうしても事業の成長速度は緩やかになります。
けれども「月の売上が数万円しかない」というような小規模であっても、起業したらすぐに開業届を出し、必ず確定申告をするようにしましょう。
よく「ある程度売上られるようになってから開業届を出した方が良い」という情報が出回っていますが、これは税理士としてはおすすめしていません。
事業家には会社員やパートタイマーでは受けられない恩恵が数多くあります。それらは開業届を提出して正式に事業家と認められることで活用することができるのです。せっかく起業をして事業家となったのです。恩恵は十分に活用していただきたいと思います。
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