中小企業のための「使える税額控除」徹底解説

「節税」と聞くと、まず「経費を増やす」ことを思い浮かべる経営者の方も多いかもしれません。

しかし、経費(所得控除)は利益を減らすことで税金を安くする手段であるため、やり過ぎによりキャッシュフローの悪化を招く恐れがあります。

一方で「税額控除」は、算出された税金から直接差し引かれるため、より直接的で大きな節税効果が期待できる制度です。

中小企業の成長を後押しするため、国は様々な優遇税制を設けています。

これらの制度を賢く活用すれば、法人税の負担を軽減し、手元に残る資金を増やしてさらなる事業投資に繋げることができます。

今回紹介する、中小企業が「本当に使える」代表的な税額控除について、知ることで、あなたは利益を減らさずに節税が可能となるかもしれません。

1・なぜ「税額控除」が節税の切り札なのか?

税金対策には、主に「所得控除」と「税額控除」の2種類があります。

所得控除(経費)

売上から差し引かれ、所得(利益)を減らすことで、結果的に税金を安くするものです。例えば、利益が100万円で税率が20%なら、10万円の経費を使うと利益は90万円になり、税金は2万円減ります。

税額控除

算出された法人税額から、直接決められた金額を差し引くものです。

例えば、法人税が20万円と算出された後に10万円の税額控除があれば、支払う税金は10万円に減ります。

この違いからわかるように、同じ10万円でも、税額控除の方が企業の手元に直接残る金額が大きい場合が多いのです。

まさに中小企業の資金繰りを助ける「切り札」と言えるでしょう。

2・中小企業が「本当に使える」主要な税額控除4選

ここでは、中小企業が活用しやすい具体的な税額控除を厳選してご紹介します。

① 所得拡大促進税制(賃上げ促進税制)

従業員の給与総額を増やした企業を支援する優遇税制です。

賃上げは従業員のモチベーション向上にも繋がり、企業の成長にも貢献します。

内容

雇用者全体の給与等支給額を、一定割合以上増加させた場合に、その増加額の一部を法人税から税額控除できます。

従業員の奨学金の代理返還を行なった場合も対象になります。

対象

青色申告書を提出する中小企業等

【活用事例】

具体的な賃上げ実施

基本給のベースアップや賞与の増額など、従業員への還元を積極的に行った企業。

節税効果のイメージ

例えば、前年比で給与総額を1.5%以上アップさせたら、その増加額の15%(※)を法人税から差し引ける、といった形です。

(※要件や年度により控除率は変動します)

●参照URL:中小企業庁 中小企業向け「賃上げ促進税制」

② 研究開発税制(研究開発費の額に係る税額控除)

新しい技術や製品開発に積極的に投資する企業を支援する優遇税制です。

未来に向けたDX投資やイノベーションを後押しします。

内容

新製品の開発や新技術の研究、サービスの改善などに投じた費用(研究開発費)の一部を、法人税から税額控除できます。

対象

青色申告書を提出する企業

【活用事例】

IT関連の研究開発

AIを活用した新サービスの開発費用、自社システムの改善費用。

新素材・新技術の研究

既存製品の性能向上に向けた研究費、新素材の試作費用。

節税効果のイメージ
例えば、1,000万円の研究開発費を投じた場合、その最大14%(※)が法人税から控除されるといったケースがあります。

(※要件や規模、研究開発費の増減により控除率は変動します)

●参照URL:経済産業省 研究開発税制について

③ 中小企業投資促進税制

中小企業の生産性向上やDX投資を促すための優遇税制です。

事業の拡大や効率化のために設備投資を検討している企業は必ず確認するようにしましょう。

内容

特定の機械装置や器具備品、ソフトウェアなど(一定の要件を満たすもの)を取得した場合に、取得価額の30%を特別償却するか、または7%(※)の税額控除のどちらかを選択できます。

対象

青色申告書を提出する中小企業等

【活用事例】

生産設備導入

最新の自動化機械やロボットの導入費用。

ITツール導入

業務効率化のための会計ソフト(インストール型)、生産管理システム、顧客管理システム(CRM)などのソフトウェア購入費。

DX投資促進

AIやIoT関連の設備など、デジタル化を推進するための投資。

●参照URL:中小企業庁 中小企業投資促進税制

④ 中小企業経営強化税制

特定中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の所得税額等の特別控除です。

中小企業の「経営力向上計画」の認定を受け、特定の設備を導入した場合に受けられる優遇税制です。

内容

経営力向上計画に沿って取得した、生産性向上設備や収益力強化設備などの特定の設備に対し、即時償却(全額費用化)または10%(資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%)の税額控除が選択できます。

対象

青色申告書を提出する中小企業等

【活用事例】

生産性向上に資する設備

業務効率化のための最新のPOSシステム、高効率な省エネ設備。

収益力強化に資する設備

新たな顧客獲得を目指すための分析ツール、サービス改善のためのAIシステム。

●参照URL:中小企業庁 中小企業経営強化税制

3・税額控除を適用するための「落とし穴」と注意点

税額控除は強力な節税手段ですが、適用にはいくつかの注意点があります。

① 青色申告が必須

ご紹介したほとんどの税額控除は、青色申告書を提出している中小企業が対象です。白色申告の場合は適用できません。

② 複雑な要件と手続き

各税額控除には細かな適用要件があり、税法の改正で内容が変わることも頻繁にあります。

必要書類の準備や申請手続きも複雑なケースが多いため、自己判断はリスクが伴います。

③ 書類の整備と保管

税額控除の適用を受けるためには、その根拠となる書類(契約書、領収書、請求書、導入計画書など)をきちんと整備し、保管しておくことが不可欠です。

税務調査時に説明を求められることもあります。

④ 他の税制との併用不可

一つの投資や行動に対して、複数の優遇税制が適用できる場合がありますが、多くの場合、どちらか一方しか選択できないといったルールがあります。

どちらが企業にとって最も有利かを見極める必要があります。

まとめ:税額控除を賢く活用し、強い会社を作ろう

まとめ

税額控除は、単なる節税のテクニックではなく、中小企業の未来への投資を国が後押しする重要な優遇税制です。

積極的な賃上げ、研究開発、設備投資、そしてDX投資など、事業を成長させるための行動が、そのまま法人税の軽減に繋がるのです。

しかし、その複雑さから「うちには関係ない」と見過ごされているケースも少なくありません。 「どの税額控除が自社に適用できるのか」「どうすれば最も効果的に節税できるのか」といった判断は、専門知識が不可欠です。

法人税の負担を軽減し、手元の現金を最大化するためにも、ぜひ一度、税理士にご相談ください。

貴社の財務状況や今後の事業計画を詳細に分析し、最適な税額控除の活用法をご提案させていただきます。

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税理士 山本聡一郎
山本聡一郎税理士事務所 代表税理士。1982年7月生まれ。名古屋市中区錦(伏見駅から徒歩3分)にてMBA経営学修士の知識を活かして、創業支援に特化した税理士事務所を運営。クラウド会計 Freeeに特化し、税務以外にも資金調達、小規模事業化持続化補助金などの補助金支援に力を入れている。

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