
「売上は上がっているはずなのに、なぜか利益が残らない…」
「人を増やしているのに、なぜかいつも忙しい…」
「常に資金繰りが苦しい…」
多くの経営者が直面するこれらの悩み。
原因は、パーキンソンの法則という無意識の罠にあるかもしれません。
パーキンソンの法則とは、「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」という言葉で知られるものです。
この法則は、時間だけでなく、お金や人員といった経営資源にも当てはまります。
つまり、リソースがあればあるほど、人はそれを使い切ろうとし、結果として非効率や無駄が増大してしまうのです。
この記事では、パーキンソンの法則が経営にもたらす具体的な悪影響を解説し、さらに戦略ミスがその罠を加速させるメカニズムについても触れます。
そして、税理士の視点から、その罠から抜け出すための具体的な経営改善策をご紹介します。
このページの目次
1. パーキンソンの法則とは?

パーキンソンの法則は、英国の歴史学者シリル・ノースコート・パーキンソンが提唱した、組織における非効率性を説明する法則です。
この法則は、主に以下の3つの観点から会社の経営資源を無駄に膨張させます。
① 時間の無駄:「忙しい」の正体
仕事の量は、与えられた時間を使い切るまで膨張します。
例えば、あるプロジェクトの締め切りが1ヶ月後と設定されると、たとえ2週間で完了できる内容でも、人は無意識に1ヶ月かけてしまいます。
【具体例】
締め切り延長の繰り返し
期限が緩いプロジェクトほど、作業の途中で無駄な話し合いや、本来不要なタスクに時間を費やし、結局締め切り間際になって慌てて仕上げなくてはいけない状況に追い込まれる。
無駄な会議
「とりあえず定例で会議を開く」という習慣が根付くと、参加者は事前に準備をすることなく、会議時間内に収まるように話が長引き、結論が出ないまま終わることが多くなる。
② お金の無駄:「お金がない」の正体
支出は、収入と釣り合うまで膨張します。
部門に100万円の予算が割り当てられた場合、たとえ50万円で済む仕事でも、「余っている予算を使い切らなければ」という心理が働き、必要性の低い備品を購入したり、無駄なイベントを企画したりしがちです。
【具体例】
年末の駆け込み購入
予算が余っているからと、来年以降に使う予定のない高価な備品や、不要なソフトウェアを年末にまとめて購入する。
接待交際費
「今期の交際費予算がまだ残っているから」という理由で、特に必要のない接待を増やしてしまう。
③ 人材の無駄:「人手不足」の正体
仕事の量は、人員が増えるほど増えます。
人員を増やした結果、社員同士のコミュニケーションや情報共有のためのコストが増大し、本来の業務ではない調整や報告業務が増えていきます。
結果として、「人手不足だから人を増やしたのに、なぜかずっと忙しい」という悪循環に陥ってしまうのです。
【具体例】
タスクの細分化
優秀な社員を増やした結果、誰でもできるような簡単なタスクまで細分化され、一つの業務に複数の人員が関わるようになり、かえって非効率になる。
無駄な管理業務
人員が増えるほど管理職が増え、報告のための報告、承認のための承認といった無駄なプロセスが増加し、本来の業務が進まなくなる。
2. 戦略ミスがパーキンソンの法則を加速させる罠

パーキンソンの法則は、経営戦略の選択を誤ることで、さらに悪影響を及ぼすことがあります。特に、中小企業が大手企業(強者)の戦略を安易に真似ることは、この法則による非効率性を加速させ、経営を圧迫する大きな原因となります。
① 無駄なリソースの過剰な膨張
大企業は、市場全体をカバーするために多くの部門、人員、多額の予算を必要とします。
中小企業がこれを真似て、広範な製品ラインナップや大規模な組織体制を構築しようとすると、限られた経営資源が分散し、以下のような無駄が生じます。
【具体例】
多すぎる商品ラインナップ
大企業のように多くの商品を展開しようとすると、個々の商品開発や在庫管理が中途半端になり、無駄な在庫や廃棄が発生する。
非効率な部門構成
会社の規模に合わない部門(例:マーケティング部、広報部など)を設置することで、本来の業務ではない社内調整や報告業務が増え、時間と人件費が無駄になる。
② 価格競争への巻き込まれと競争優位性の喪失
大企業は、潤沢な資金力とブランド力で総合的なサービスを提供できますが、中小企業が同じことをしようとすると、競合である大企業との差別化が難しくなります。
これにより、本来であれば避けるべき価格競争に巻き込まれてしまいます。
この問題は、ランチェスター戦略の考え方と密接に関係しています。
ランチェスター戦略では、市場の1位のみが「強者」、それ以外は全て「弱者」と定義されます。
弱者である中小企業は、強者の広範囲な戦略を真似るのではなく、特定の市場に経営資源を「一点集中」させる弱者の戦略を取るべきだとされています。
戦略の選択を誤ることは、パーキンソンの法則による無駄を加速させ、自社の強みを活かせないまま、疲弊する経営に陥る大きな原因となるのです。
3. パーキンソンの法則に打ち勝つ、税理士目線の経営改善策

では、この無意識の「無駄」をいかにして排除し、経営を改善すべきでしょうか。
数字と効率の観点から、具体的なアドバイスをします。
① 「時間」と「お金」に厳格な目標を立てる
仕事やプロジェクトには、「現実的かつ少し挑戦的な期限」と「具体的な予算」を設定することが重要です。
「なるべく早く」ではなく「この作業は〇日までに完了」、「予算を使い切る」のではなく「〇〇の成果を〇万円で達成する」と明確にすることで、無駄な時間と出費をなくし、集中力とコスト意識を高めます。
また、予算に関しては予算決めのルールを見直すのも効果的です。
前年の利用実績をベースに予算を組むと、予算を使い切るために不必要な支出が増える傾向があります。
これは「来年度の予算を減らされたくない」という心理が働くためです。
② 業務の費用対効果を可視化する
すべての業務や支出に対して、「その費用は、どれだけの利益や成果に繋がったのか?」を厳密に評価する習慣をつけましょう。
税務上経費になるからといって、不要な出費を増やすことは、最終的に会社のキャッシュを減らし、利益を圧迫します。
税理士の視点から、無駄なコストを洗い出し、利益率を改善するための具体的な数字目標を立てるサポートが可能です。
③ 業務プロセスの徹底的な見直し
目的が明確でない会議や報告業務は、無駄な時間を生む温床です。
「この会議は本当に必要か?」「この報告書は誰が何のために使うのか?」と常に自問自答する習慣をつけましょう。
ITツールを導入してタスクを「見える化」したり、クラウド会計ソフトで経理業務を自動化したりすることで、人件費あたりの生産性を向上させられます。
④ 組織のスリム化と権限委譲
人手を増やす前に、「今いる社員のパフォーマンスを最大化するにはどうすれば良いか?」を考えましょう。
必要以上に人員を増やすのではなく、少数の精鋭で効率的に回る組織を目指します。
また、部下に適切な権限を委譲することで、無駄な調整コストを削減し、組織全体の機動力を高められます。
まとめ:パーキンソンの法則を意識して、強い経営体質へ

パーキンソンの法則は、無意識のうちに会社の成長を妨げる潜在的なリスクです。
しかし、その存在を認識し、自社の立ち位置に合った正しい経営戦略を講じることで、会社はより強い経営体質へと変わることができます。
「なんとなく」の忙しさや支出にメスを入れ、時間、お金、人員といった経営資源を最大限に活用すること。
これこそが、企業を成長させるために不可欠な要素です。
「うちの会社ではどこに無駄があるのか?」
「自社に合った戦略とは?」
「どうやって効率化を進めればいいのか?」
もし、このような疑問や不安があれば、ぜひ一度ご相談ください。
私たちは、あなたの会社の数字を分析し、無駄なコストを削減するだけでなく、より生産性の高い経営体制を構築するための具体的なアドバイスを提供します。
