「起業したら、月収100万稼ぎたい!」
「まずは年収1000万円を目指したい!」
このように、「年収1000万円」は、多くの人々にとって特別なイメージがあります。
実際、起業して「年収1000万円」を目標の一つに掲げる方は少なくありません。
国税庁の「令和4年民間給与実態統計調査」によると、年収1000万円を超える方は全体の5%ほどで、20人に1人と言われています。
そこで、今回は、「年収1000万円」をテーマにして、主に税金や経理の視点から実状をお伝えしたいと思います。
これから起業して年収1000万円を目指したいという方や、年収1000万に向かって着実に収入を増やされている方は、今回の記事をぜひ参考にしていただければ幸いです。
このページの目次
1.年収1000万円を超えると何が変わるか
年収が1,000万円を超えると、社会面や税務面での扱いが大きく変わります。
具体的なメリットとデメリットについて挙げていきましょう。
年収1000万円を超えるメリット
・経済的な余裕
年収が1000万円まで増えると、経済的余裕が生まれます。
より良い住居や高品質な商品・サービスを利用することが可能になり、生活の質が向上することは間違いありません。
余裕ができるので、自己資金も増えていきます。
・社会的信用の向上
年収が高いと金融機関からの信用も高まり、ローンの審査が通りやすくなります。経営者個人の年収が高い、自己資金が多いと、ビジネスでの資金調達もスムーズです。
高収入の経営者は、銀行からの融資や投資家からの信頼を得やすく、事業の拡大や新規プロジェクトへの投資がしやすくなります。
・投資の機会
余裕資金が増えるため、事業拡大や新規投資の選択肢が広がります。
例えば、新しい事業への投資、不動産購入、株式投資など、将来的な収益を見込んだ投資活動が可能になります。
・高額の社会保険料の支払いによる老後の安心感
年収が高いと、社会保険料も多く支払うことになりますが、その分将来受け取れる年金額も増えるため、老後の生活に対する安心感が得られます。
高額な年金を受け取れることで、リタイア後の生活費や医療費の心配が軽減され、経営者としての長期的なライフプランが立てやすくなるのです。
年収1000万円を超えるデメリット
年収1000万円を超えることで得られるのはメリットだけではありません。
デメリットについても正しく知っておきましょう。
・高額な所得税
年収1000万円を超えると所得税率は最大45%に達します。さらに住民税(所得割の税率は、所得に対して10%)も加わるため、税負担は非常に重くなります。
高収入であっても、税金の負担が増え手取りが大幅に減少するため、人によっては「実際の生活水準がそれほど向上しない」と感じることもあります。
・社会保険料の増加
年収に比例して健康保険や厚生年金の保険料負担が増えるため、手取り額が大きく減少します。
会社経営をしている場合、社会保険料が上がると会社側の負担も大きくなります。一人社長の場合、会社のお金も100%一人で稼いだお金であるため、二重で高い保険料を支払わされている感覚になります。
・税務管理の複雑化と専門家への報酬が発生
高額所得者向けの税制が適用されるため、税務管理が複雑になります。
税務申告や経費計上の際に、税理士などの専門家のサポートが欠かせなくなり、顧問料が必要です。
・各種手当の削減と福祉サービスの負担増
年収1000万円あたりから、様々な手当が減額されたり、受給資格を失うことになります。
・中学卒業までの子どもがいる家庭に支給される「児童手当」
・障がいを持つ子どもに支給される「特別児童扶養手当」
・ひとり親家庭に支給される「児童扶養手当」
など
これらは全て所得制限があり、年収が上がることで減額されたり、受給資格がなくなります。
特に「児童扶養手当」は年収が400万円ほどで不支給になり、その他の2つの手当てについても年収800~900万円の辺りで一部制限が設けられ、それ以上に年収が増えていくと不支給となります。
※こちらは2024年7月時点の情報です。
ニュースにもある通り、国の子育て支援に向けた取り組みとして、児童手当や児童扶養手当の所得制限が緩和される予定です。
福祉サービスの負担増としては、保育園や児童発達支援・放課後デイサービス等の利用料が挙げられます。
これらは、利用料の大部分を国や自治体が負担することになっていますが、一定の所得を超えることで、個人の負担が増えることになるのです。
・支出が増える
収入が増えると、それに伴ってどうしても支出は増えていきます。
年収が上がるということは、社会的立場が変わるということです。お付き合いの範囲も広くなるので、お金を使う機会が増えていくことになります。
また、生活の質を上げると支出はどうしても増えるものです。「年収1000万円でも、お金を貯めたいから年収600万円の生活をする!」と思っていても、ほぼ困難だと考えた方が良いでしょう。
このように年収1000万円になることで、良い面もあれば、金銭的な負担が増えることもあります。「収入は上がっているのに、思ったほどお金が手元に残らない…。」というのはこれらの理由からです。
2.会社員にはない「経営者」だからできる手取りの増やし方
それではここまでお伝えした内容を踏まえて、どうすれば手取りを増やすことができるか、アドバイスしていきたいと思います。
①事業の経費を活用した節税
経営者には、会社員にはない多くの節税方法があります。
正しい知識を持って「経費」を活用することで節税が可能です。
例えば、プライベート利用しているもので一部でも業務に使用しているものは支出を経費として計上することができます。(家事按分と呼ばれています。)
経費分は会社負担になるため、その分の報酬額を減らして課税対象額を下げていくという方法です。そうすることで税負担を下げることができますし、社会保険料を下げることが可能です。
具体的には以下のような経費の活用方法があります。
②業務用車両の購入・維持費
業務で使用する車両の購入費やガソリン代、保険料などを経費に計上します。
例えば、新しい車を購入する際に、業務用として使用することを明確にして家事按分で経費計上すれば、節税効果を得ることができます。また、車両のメンテナンス費用や駐車場代も経費として計上できます。
③自宅を会社名義で契約して社宅にする
賃貸住宅に住んでいるのならば、会社名義で契約して社宅扱いにすることが可能です。
家賃の一部を会社負担にして、その分報酬額を下げることで個人の所得税や社会保険料の負担を下げることができます。
⚫︎過去コラムはこちら
会社経営者必見!自宅を社宅に変えることで節税と家賃軽減を実現
④小規模企業共済の加入
これは、個人事業主や小規模企業の経営者向けの退職金の積立制度です。
掛け金の全額が控除されるので、経営者個人が「節税しながら将来に備えられる」という、とてもお勧めの制度です。
⚫︎過去コラムはこちら
起業するなら加入しよう!小規模企業共済への加入の7つのメリット
⑤役員賞与の比率を上げる
役員報酬・賞与を適切に設定することで、社会保険料の負担を軽減できます。
例えば、年収が1200万円とします。「毎月100万円ずつ均等に役員報酬で支給する」場合と、「毎月の報酬は50万円で、賞与で年2回300万円ずつ支給する」場合では、社会保険料の負担が違います。
なぜなら社会保険料は、所得税と違い上限額が設定されているためです。
厚生年金の等級は第32級(標準報酬月額650,000円)までとなります。また、健康保険の等級は第50級(標準報酬月額1,390,000円)までです。
つまり、それ以上の金額を受け取っても、上限の等級と同じ負担で済むということです。
そこで、普段はできるだけ等級を下げる形で報酬を受け取り、年2回の賞与の時に上限を遥かに超える額を受け取るという形を取れば、年間トータルの社会保険料負担は少なく済ませることができるのです。
⑥各種手当の活用
会社から支給される手当の中には、所得税非課税のものが数多くあります。
・通勤手当
・在宅勤務手当
・資格取得手当
・食事手当
・出張手当
これらの手当は、会社から個人に現金支給されても所得税はかかりません。
もちろん、制度を設けるには社内規定を作り、業務に必要であること客観的に証明する必要があります。
けれどもこの制度は、個人の手取りを増やす手段としてぜひお勧めしたい方法です。
会社で手当を活用するのであれば、必ず専門士業に相談するようにしましょう。
⑦家族従業員に給料を分散させる
家族を従業員として雇用し、自分の給与の一部を家族の給与に充てます。それにより所得の分散を図り、所得税の負担を軽減を軽減させることができます。
1人で年収1000万円の場合、所得税率は33%になります。
一方、2人で500万円ずつ分けて合計1000万円の場合、所得税率は20%です。
計算がややこしいので、ぞれぞれ手取り(所得)として考えます。
1000万円 × 33% = 330万円
500万円 × 20% = 100万円 さらに × 2人 = 200万円
このように同じ金額でも、所得を分散した方が税金が少なく済むことが分かります。
3.最後に 経営者にしかできない節税・工夫で上手に手取りを増やそう
ここまで書いて、年収1000万円を稼ぐというのは、メリットだらけに見えて、デメリットもあることが伝わったかと思います。
けれども、経営者にしかできない節税や工夫で、手取りを減らさずに、負担を軽減させることが可能です。
「年収1000万円」は一つの基準でしかありません。
経営者はサラリーマンにはない「手取りを増やす手段」をたくさん持っていますので、それを上手に活用していきましょう。
今回は以上です。
この記事が、少しでも皆さまにとってお役に立てれば嬉しいです。税務についてのお悩みやご相談がありましたら、いつでもお気軽にご連絡ください。