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税理士が解説!個人所有の金券(切手・商品券)を事業で使用!経理処理と税務調査の注意点
経費利用の際に、個人で所有している切手や商品券、収入印紙などを会社で使いたい、という経験はありませんか?
自宅に置いてある、普段使う機会がない切手・いただきものの商品券、JRの株主優待券などを「事業で活用したい」と誰もが一度は考えることです。
もちろん、個人的に所有していた金券類を会社の経費にすることは可能ですが、正しい経理処理と厳格な管理が不可欠です。
この記事では、正しい金券の取り扱い・経理処理と税務調査で脱税や横領を疑われないためのポイントを税理士が解説します。
1・個人から会社への金券移動:経理処理の基本
個人の切手や金券を会社の経費にする際は、「個人が会社に資産を売却した」とみなして経費精算を行います。
この場合、個人の手元にある領収書を会社に提出し、会社がその代金を個人に支払うという流れになります。
① 金券類は貯蔵品として処理しましょう
借方 / 貸方
貯蔵品 10,000円 / 現金(または普通預金) 10,000円
貯蔵品とは
「貯蔵品」とは、会社の事業で使用・消費する目的で保有しているものの、まだ使っていない未使用の物品を指す勘定科目です。
会計上は、流動資産に区分されます。棚卸資産のため決算期末には棚卸を行う必要があります。
※仕訳入力の際には、摘要欄に個人からの買取の旨を必ず記録しておくようにしましょう。
額面金額を正確に入力します。消費税は非課税です。
●参照 国税庁 No.6229 商品券やプリペイドカードなど
② 株主優待権・無料チケットの経理処理に注意
JRや映画館などの株主優待券は、一般的に「割引券」「無料券」としての性質が強いため、額面金額が存在しないことがほとんどです。
この場合、金額の評価は以下のように行います。
※JRの優待券を例に解説します。
原則:割引前の正規運賃を基準とする
株主優待券は、正規運賃から一定の割合(例えばJRなら20~50%)を割引くものです。
経理処理においては、この「割引かれた金額分を、金券として会社が個人から買い取った」と考えるのが一般的です。
例:正規運賃が10,000円で、優待券利用で8,000円を支払った場合(割引額2,000円)
会社が個人に支払うのは、優待券の価値である2,000円と、実際に支払った8,000円の合計10,000円となります。
借方 / 貸方
旅費交通費 10,000円 / 貯蔵品 2,000円
現金(または普通預金) 8,000円
ただし、個人が優待券の代金として2,000円を受け取るかどうかは、会社の規程によります。
切手・金券類と同じく、実際に使用したときに初めて経費計上します。
勘定科目:旅費交通費(JRの場合)・広告宣伝費(映画無料チケットの配布)など
JRの優待券は、不正経理の温床となりやすいと見なされることがあります。
優待券を使って正規運賃より安く移動したにもかかわらず、割引前の正規運賃を会社に請求して差額を私的に得るという不正が考えられます。
税務調査では、領収書や経費精算書と実際の運賃が一致しているかを厳しくチェックされます。
③ 個人が金券類を無償提供する場合の経理処理
会社が個人から優待券を買い取らず、無償で提供を受けた場合、その優待券の価値分を「雑収入」として計上します。
借方 / 貸方
貯蔵品 10,000円 / 雑収入 10,000円
2・金券使用時の経費処理と勘定科目
ここでは、個人から買い取った(または無償提供を受けた)切手や金券類を使用した際の経理処理について解説していきます。
① 切手・はがき・レターパックの場合
郵便料金として使用した場合に計上します。
切手やレターパックは、購入した時点ではなく、実際に使用した時点で経費として計上するのが原則です。
勘定科目:通信費
借方 / 貸方
通信費 10,000円 / 貯蔵品 10,000円
② 収入印紙
契約書や領収書など、課税文書に貼付して消印をすることで経費にできます。こちらも購入時ではなく、使用時に経費計上します。
勘定科目:租税公課
借方 / 貸方
租税公課 10,000円 / 貯蔵品 10,000円
③ 商品券・ギフト券・金券
VISA、JCBのギフト券、QUOカード、図書カード、旅行券、ビール券、株主優待券、映画無料チケットなどは全て金券としての取り扱いとなります。
取引先への贈答や接待目的の場合は交際費に。
不特定多数の消費者に向けた抽選や景品の場合は広告宣伝費に分類されます。
お客様紹介の謝礼として支払う場合は接待交際費に分類されます。
勘定科目:接待交際費・広告宣伝費など
借方 / 貸方
接待交際費 10,000円 / 貯蔵品 10,000円
(広告宣伝費)
3・税務調査でチェックされるポイント
金券は現金と同様に換金性が高いため、税務調査で横領や脱税を疑われるリスクが非常に高い項目です。
調査官は以下の点を厳しくチェックします。
① 購入時の領収書
個人のクレジットカード明細ではなく、会社名義で購入した領収書があるか。
個人で買ったものを会社経費にする場合は、購入時の領収書と経費精算書がセットで必要です。ただし、自宅に元々あった切手や商品券など、領収書がない場合は、会社が個人から「買い取る」形で経費精算を行うことができます。
この場合、個人の経費精算書と金券の現物が、取引の正当性を証明する重要な証拠となります。
② 使用目的の明確性
交際費として計上する場合は、「誰に、何の目的で、いくら渡したか」を詳細に記録しておくことが不可欠です。
例えば、取引先の担当者名、訪問日、贈答理由などを記録しておきましょう。
記録がない場合は、架空経費や使途不明金とみなされ、追徴課税の対象になります。
③ 在庫管理
切手や商品券の在庫と、購入・使用の記録が一致するかを確認されます。
金券を会社の経費として購入したものの、個人的な飲食代や買い物に使ってしまう私的流用は、税務調査で必ず見抜かれます。
4・金券の厳重な管理とリスクヘッジ
金券類(商品券、ビール券、JR株主優待券、図書券など)は、経理担当者が特に注意して管理すべき項目です。
① 管理台帳の作成
金券の種類、購入日、購入枚数、使用日、使用目的、使用者を記録する管理台帳を作成しましょう。
これにより、いつ、誰が、何のために使ったかが明確になり、社内不正(横領)を防ぐとともに、税務調査の際の強力な証明になります。
② 鍵のかかる場所で保管
現金と同様に、金庫や鍵付きの引き出しで厳重に保管しましょう。
③ 公私混同を避ける
会社名義で購入した金券は、決して個人的な用途で使用しないように徹底してください。
経費精算後も、公私を明確に区別することが重要です。
まとめ
個人の切手や商品券を会社で使うことは可能ですが、現金同等物としての特性を理解し、正確な経理処理と厳重な管理が不可欠です。
これらのルールを怠ると、税務調査で思わぬ追徴課税を受けたり、会社の信用を失墜させたりするリスクがあります。
経理処理や管理方法に少しでも不安がある場合は、専門家である税理士に相談することをおすすめします。
