法人経営で常に課題になるのがキャッシュフロー(資金繰り)です。売上を上げることももちろん大切ですが、それだけでは法人は立ち行かなくなることが案外多いものです。
今回は一人社長をメインとしたキャッシュフローを良くするためにできる具体的な節税につながる対策や工夫について9個ご紹介していきます。
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①自宅を社宅にする
賃貸住宅は基本的に法人登記NGの物件が多いですが、(まれにOKな場合もあります)社宅扱いにして経費に計上することが可能です。
他の記事で社宅についてまとめた記事がありますので、参考にしていただけると幸いです。
自宅を社宅にする場合、賃貸借契約を個人から会社に切り替えます。 会社は、家賃を大家さんに支払うと同時に、役員から社宅家賃負担金として、例えば家賃の50%を給料から天引きします。これまで個人で支払っていた家賃を会社負担にして50%分を経費計上することで、節税が可能です。
さらに、社長や役員が支払うべき住居関連費用や安く抑えられるのを利用して、その差額分の役員報酬を下げて、社会保険料を削減することができます。
例えば社長の総支給額が 20万円で、家賃6万円の賃貸住宅に住んでいるとします。
これまでは、手元にある個人のお金で家賃の支払いをしていましたが、社宅扱いにすることで会社が3万円負担し、社長個人の負担は3万円で済みます。
これで会社は、毎月3万円を経費として計上することが可能です。
社長個人は、家賃の支払負担が半分になります。
ここで、家賃負担が減った分、報酬額を減額した(20万円-3万円の17万円にした)場合、社会保険料を下げることができます。
社会保険料は折半なので、少しでも下げることができれば会社側と社長個人の双方にメリットがあります。
つまり「自宅を社宅扱いする」ということは、経費計上による節税と社会保険料の削減の2つでメリットがあるということです。
けれども、「家賃の半分は会社が負担してくれるから」とやたら高い家に住むと、出ていくお金はその分大きくなるので、資金繰りに悪影響を与えます。「会社が半分負担してくれるのだから、もっと良い家に住みたい」と考えるのではなく、通常の家賃の支払い負担を減らしつつ、上手に節税するためにこの制度を活用するようにしましょう。
さらに、もう一つ注意点があります。
社宅制度を導入するのであれば、事前に会社規定をしっかり定めておくようにしましょう。規程がないままに社宅制度を採用してしまえば、会社が特定の社長や役員に便宜をはかっていると捉えられ、税務調査の際に不利となってしまう可能性があるためです。制度を活用するにはルールに従うことが重要です。
②経営セーフティ共済への加入
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、取引先倒産の影響などによる連鎖倒産や経営難に陥ることを防止するための共済制度です。
この共済は加入することで節税のメリットがあるとよく知られています。過去のコラムでも紹介しましたが、今回も簡単に説明していきます。
経営セーフティ共済は、取引先の倒産などで売掛金が回収できないなどのリスクに備えたものです。緊急時には掛金の10倍までの融資が受けられる利点があります。
この共済で支払った掛金は、税金の控除が可能です。
さらに、掛金を前納することもできるので、特に収益が良い年度にはその方法を検討することで税負担を削減できます。
注意しなくてはいけないのは、単に帳簿上で処理しただけでは経費として認められませんので注意しましょう。
経費として認められるには、確定申告書に法人税別表十(七)という様式の「Ⅲ 特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書」を作成する必要があります。
「一体何のことだろう?」と思われますよね。このような作業こそ税理士に依頼するようにしましょう。
また、掛金を経費計上した場合、経営セーフティ共済を解約する際に受け取る返戻金に関しては課税対象となりますので、ご注意ください。
③古い在庫を処分する
古い在庫はただ置いておくだけでマイナスになります。
場所を占拠するだけでなく、(場所も経費として考えることが大切です)そのままだと税金がかかってしまいます。さらに在庫管理の手間もかかります。たとえ当初予定していた販売価格の半額以下でも売り切って処分してしまった方が良いでしょう。二束三文でも現金化させることができますし、在庫管理の手間もなくなり、さらに保管場所が空くことで倉庫の利用料もかからずに済みます。
とにかく「古い在庫をいかに減らすか」を徹底することで資金繰りは良くなっていきます。
在庫は課税対象になるので、とにかく早く処分(売る・激安で売る・譲渡する・廃棄する)する必要があります。
④30万円くらいの設備投資には少額減価償却資産の特例を活用する
会社経営をしていると設備投資が必要になることがあります。設備投資の特徴としては大きなお金が出ていくにも関わらず減価償却のルールにより全額を経費計上できないというデメリットがあります。
けれども、30万円未満の資産は少額減価償却資産の特例を利用することで、取得年度に全額償却できます。この特例が使えるのは青色申告を行う中小企業や個人事業主です。中小企業でも会社の規模によっては対象外の場合もありますので事前に確認をしておきましょう。
一番イメージしやすいのがパソコンやFAX、電話機、プリンター機、エステマシン、エアコンなどの中型のものではないでしょうか。
購入するときはギリギリ30万円以下(29万9990円など)で販売してもらえないか交渉してみましょう。とにかく30万円未満に抑えるということがポイントです。けれども、むやみやたらに「値段を下げろ」というと取引先から嫌われてしまいますので、そのような場合は、他のものとセット購入したり、新規顧客を紹介するなど、相手にもしっかりとメリットがある形で交渉をしていきましょう。
⑤購入ではなくリース契約をする
前項では、30万円未満での設備投資についてお伝えしましたが、どうしてもそれが難しい場合は購入するのではなくリース契約をするのもお勧めです。
分かりやすい例が車ですが、車のような大きなものを購入すると、その分だけ企業の手元資金が減少します。しかし、リースを利用することで手元資金あまり減らさずに車を利用することができます。
購入の場合、一度に価格全額を支払う必要があります。しかし、リース契約の場合は、月々のリース料を支払う形となるため、大きな初期投資が不要になるのです。リース料は契約期間中ほぼ一定ですので、会社の予算計画が立てやすくなります。さらに予想外の修理やメンテナンス費用が発生するリスクもリース会社が負担することが多いため、コストの予測性が高まります。リース代は支払った全額がその期の経費に計上できるため、節税目線でもメリットが大きいのです。
⑥役員報酬(賞与)を事前に高めに設定する
計画を立てたとしても、何があるか分からないのが法人経営。資金繰りをできるだけコントロールできる状態にしておきたいものですよね。役員報酬を高めに設定しておくことで、コントロールが (少しですが)可能になります。
これまでのコラムでも紹介してきましたが、役員報酬や賞与は期首から3ヶ月以内に決定し、それを忠実に守らなくてはいけません。途中の変更は原則として認められませんが、例外として、業績の悪化によって報酬を減額することは可能です。(報酬額を途中で上げることはできません。
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売上計画を立ててそれに合わせた報酬額を設定したものの、実際はあまり業績が良くなかった場合は報酬額を下げることができるので、期の途中で「支払いが間に合わない」「資金ショートしてしまいそうだ」という場合については役員報酬の金額を下げることができます。
賞与に関しても同様で、計画通り潤沢に回っていれば予定通り支給、資金不足で支給ができない場合は、支給を行わないことでコントロールが可能です。
ただし、この方法にはいくつか注意点がありますので、必ず税理士に相談するようにしましょう。
(過去の役員報酬に関するコラムはこちら)
⑦出張手当を導入する
出張が多い場合は、出張手当を設けることをおすすめしています。
出張手当とはどんなものかをまずは簡単に説明しましょう。
出張に伴って発生した宿泊費・交通費などの実費を扱うのが出張経費です。一方、出張手当は出張で発生した交通費・宿泊費などの実費含め、普段と違う場所へ行く相手への労いも含めて一定額支給されるものです。行き先によって手当額は決まっています。
出張手当を導入することのメリットをお伝えしましょう。
1・経費として計上できる為、法人税の節税になる
2・国内出張に対する出張手当は、課税仕入れ扱いになり、消費税の節税になる
3・給与扱いにならないため、社会保険料には影響しない
このように、企業側だけではなく、従業員側にとってもメリットがいっぱいの出張手当について、ぜひ導入を検討してみてください。
出張手当に関する3つの注意点
メリットの多い出張手当ですが、その分注意点もあります。
1・導入前に出張旅費規定を定めておく
この手当に関しては、導入前に必ず旅費規定を作るようにしてください。
なぜかというと、明確なルールに基づいて出張手当を出していると説明できない場合、税務署から指摘を受けて給与であるとみなされてしまうからです。出張手当を給与ではなく、旅費交通費の経費として損金算入し課税仕入れとして処理するためには、公平なルールを設定してそれを遵守しなくてはいけません。
2・あまりに高額だと認められないことも
出張手当は明確に「いくらまで」という決まりはありませんが、あまりに高額な場合は「給与ではないか」と指摘を受けることがあります。出張先までの交通費や宿泊施設の相場からあまりにかけ離れた金額設定にしないようにしましょう。
3・出張手当は従業員全員が対象になる
出張手当の支給対象は従業員全員です。「役員だけ特別支給」ということはできませんので、注意が必要です。一人社長の場合は問題ありませんが、今後従業員を増やしていく予定がある場合は、従業員数や出張回数の増加により、節税どころか逆に資金繰りの悪化を招くので、導入について慎重に検討する必要があります。一度導入してしまうと、従業員がいる場合、簡単にやめることができません。メリットがある制度を廃止する場合、なかなか従業員の同意を得ることが難しいためです。
出張手当はメリットも多く上手に活用すれば節税や社会保険料削減の効果が見込めます。けれどもそれらはやはり資金繰りを良くする為なので、むやみやたら無計画に使用することは避けるようにしましょう。
⑧何か手間がかかる業務を外注して時間を作る
こちらは資金繰りには直接関係しない部分ではありますが、会社が業績を伸ばして余裕のあるキャッシュフローを目指していく上で、「時間」という資源を活用するためにも必要なことです。
経営をしていると登記や経理、社会保険、販売促進活動など、さまざまな分野で「やらなくてはいけないこと」が増えていきます。また取引が増えるとトラブルが発生するリスクも上がります。
一人社長の場合、「規模が小さいから」「お金がないから」と、全て自分で処理してしまおうとする傾向がありますが、それに費やす時間や手間を考えると、本来の業務に従事して売上を増やす為に動く方が効率的です。
最初にお金を出してでも、手間がかかる業務は外注した方が後々会社としては良い方向に行きやすいと言われています。
私が税理士だからこのように主張するわけではありませんが、経理・労務・登記・届出・契約や取引に関するトラブルなど、専門知識が必要な分野については、報酬を支払ってでも士業に任せてしまった方が問題解決は早く済みます。
下手に自分でやろうとして、一から情報収集して、正しいかどうかも分からない状態で長い時間と莫大な労力をかける。確かにお金はそこまでかかっていないかもしれませんが、「時間」と「労力」という大切なものが消費されます。その2つを自社のPRや販売促進に使ったら一体どれだけの売上が作れたでしょうか?
あなたが6時間かけて頭を抱えながら行うことを、専門家はあっさり15分で解決できるかもしれません。お金を少しかけてでも、あなたの大切な可能性を広げる時間を確保して、そこで支払った金額の何倍も売り上げを作ってください。
⑨そもそも計画外・目的外のことにお金を使わない
これまで色々な方法について紹介してきましたが、一番重要なことは、そもそも必要ないことにお金を使わないということです。
経営者というと「お金使いが大胆で、個人の財布のようにチマチマ支払うのは格好悪い」と思われるかもしれませんが、中小企業・大企業関係なく、計画外の出費や目的に合わない出費については慎重すぎるくらいがちょうど良いものです。
経営をしていると、個人では手にしない額のお金が入ることはよくありますが、それでも経費もそれなりにかかっているのでお金はすぐに出ていきます。「これだけ現金があるから、〇〇を購入しても大丈夫」と考えるのではなく、あくまで計画に基づいて必要なことにだけお金を使う。そして、削減できる経費がないか常に見張っておく。それが結局は一番資金繰りを良くするポイントです。
節税の目的は、資金繰りを良くするためで、決して節税そのものが目的ではありません。「節税のため」と言って、必要ないものを買ってもお金がなくなるだけです。自社のキャッシュフローは健全かどうか、常に目を光らせておきましょう。
資金繰りの相談は山本聡一郎税理士事務所にご相談ください
いかがでしたでしょうか?
今回は「一人社長の節税と工夫でキャッシュフローが良くなるおすすめな方法9選」を一気に紹介させていただきました。
中にはメリットが大きいものもいくつか紹介させていただきましたが、これらを実施しようと思うと、事前準備や計画が必要になります。
健全な資金繰りを維持するための工夫や節税は、思いつきで行うものではなく、事前に調べ、準備して計画的に行わなければそのメリットを享受するのは難しいものばかりです。
ネットで情報収集したり書籍から学ぶのも良い方法ではありますが、ぜひ専門家の知識を頼ってみてください。
山本聡一郎税理士事務所では、会社の健全な資金繰りのために各企業に合った方法を提案させていただきます。ぜひ一度ご相談ください。
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