「今期の我が社の売上は右肩上がりで、給与も大幅アップのはずだったのに…!」
思ったように売上が伸びないどころか、まさかの業績不振。決算後に意気揚々と事前確定届出給与を設定したのに、このままでは賞与の支給ができない…。
これは、起業したばかりの社長であれば、誰もが陥る可能性があることです。
資金繰り計画や、売上アップの戦略を立てるのにまだ慣れていないのが主な原因です。
実はこのような事態になった時、税法に従った対応をしなければ、税負担が2倍になるという恐ろしいペナルティを受けることになります。
けれども、そんな時こそ慌てず、正しい方法で対処していけば、2倍の税負担を避けられます。
今回は法人経営をする誰もが経験する可能性のある、事前確定届出給与が支給できない際の対処法と注意点についてお伝えします。
このページの目次
「事前確定届出給与」とは
まずは「事前確定届出給与」がどのようなものかを簡単に説明します。
一言で表現すると、社長・役員の賞与(ボーナス)のことです。
経営者や役員の給与・賞与は、一般社員のそれとは違い、金額が大きくなる傾向があります。役員の給与や賞与を自由に設定できると会社の利益操作をされてしまう恐れがあるため、厳格なルール(税法)で縛っているのです。このルールを無視して社長・役員に支給した賞与は損金として扱うことができませんので注意が必要です。
賞与に関しては支給日・支給額を事前に決定し、税務署に届け出ることで「事前確定届出給与」として、損金とすることができるのです。
※毎月支給される役員の給与(役員報酬)は「定期同額給与」と呼ばれています。
【重要】放置厳禁!事前確定届出給与の支給ができないとどうなるのか
事前確定届出給与が支給できない場合でも、「ただ払わなければ良い」わけではありません。
事前確定届出給与に定められた厳格なルールとは
もしも事前確定届出給与を支給できなくなった場合は、所定の手続きを行う必要があります。
毎月支給される役員報酬は、もしも資金繰りの都合上支給できない場合は、一旦未払金として計上して、後で支給することは可能です。
しかし、事前確定届出給与というものは、届出をした通りに守らなければ、損金算入ができないのです。
例えば、3月31日に30万円の賞与を支給すると決めた場合は、必ずその日付で30万円を支給しなくてはいけないということです。
「とりあえず20万円支給して、残りは売上入金後に」ということは認められません。
また、「31日が日曜日で金融機関が休みだったので、2日早い29日に支給した」というのもNGです。
つまり、1日たりとも支給日をずらしてはいけませんし、一円たりとも金額の違いがあってはいけないのです。
このように、賞与に関しては役員報酬と違い、厳格な決まりがあるのです。
損金算入できないことで税負担は2倍になる
上記を読むと、「それなら、その回の賞与は諦めて一切支給しなければ良いんじゃないか。」という考えになりますが、それだけでは足りないのです。
支給しない、仕訳にも入れない、これで良いのではと思われている方は多くいらっしゃいます。
確かに「現金は動いていないので、仕訳する必要があるのか?」と誰もが思うでしょう。けれども、届出をしている以上は仕訳を入れなくてはいけないのです。
届出をしている以上は、賞与は支給しなくてはいけませんし、仮に支給できなかった場合でも、課税対象になります。
そして、その税負担は2倍になるのです。
事前確定届出給与不支給の仕訳について
なぜそのようなことになるのか、仕訳で解説していきます。
事前確定届出給与が30万円の場合
借 方 貸 方
役員賞与 30 / 未払金 30
未払金 30 / 債務免除益 30
未払金は、会社が支払いの義務を負っているもので支払いが完了していないときに使われる勘定科目です。負債扱いになります。
見慣れないのが「債務免除益」という言葉です。
「債務免除益」とは、債務者(今回の場合は会社)の資金繰りの悪化により債権者(社長)が持つ債権の全部または一部の債権放棄がされた場合に債務者が(支払い)を免除されるという利益のことです。
今回の場合は、社長が賞与に対する請求権を放棄して、会社は賞与の支給義務を免除されたということで、収益として扱われます。
少しややこしくなってきましたね。
つまり、賞与を支給しないことで、本来出ていく予定だったお金を手元に残すことができたということです。
けれどもこれにより、受ける税法上の影響がこちらです。
①支給予定額の全額(30万円)は損金不算入になる
②会社の会計上は賞与30万円が支給された扱いになり、社長に対して源泉徴収を行う必要がある
③債務免除益30万円は会社の収益扱いとなり課税される
①については、特に問題はないかと思いますが、②③で驚かれた方も多いことでしょう。
②は社長個人が賞与30万円を受け取ったことになって課税されるということです。
③は、30万円は支給しなかったけれど、30万円収益を得た扱いになり課税されるということです。
このような事態になってしまうと、せっかく日々積み重ねてきた節税対策が意味をなさないほどに大きなペナルティになります。
ここまで読まれてかなり恐ろしくなりましたね。
けれども大丈夫です。
支給予定日が来るまでに事前に適切な対応をすることで、このような恐ろしい影響を受けないですみます。
次では、具体的にどのような対策を行えば良いかをお伝えしていきます。
賞与が支給できないと分かったらすぐにやるべきこと
ここから先もとても大切です。
該当される方は、これから書かれている内容を参考にしていただければと思います。
支給日到来前に臨時株主総会で不支給の決議をする
事前確定届出給与の支給が難しいという場合は、支給日が来る前に臨時株主総会を開き、賞与全額不支給の決議をするようにしましょう。
これにより、事前に社長が受領を辞退したことになり、税負担が2倍になるという恐ろしい事態を回避することができます。
それでは、その際の仕分けはどのようになるのか見ていきましょう。
支給日までに事前確定届出給与不支給を決議した際の仕訳
同じく30万円で説明します。
借 方 貸 方
役員賞与 0 / 未払金 0
未払金 0 / 債務免除益 0
①支給予定額の全額(30万円)は損金不算入になる
②支給日より前のタイミングで賞与の受領を辞退をすれば社長個人は課税されない
③不支給賞与の債務免除益は会社の益金扱いにならない
これでOKです。
税務署に特別に不支給の届出を出す必要はありません。
慌てずに所定の対応をすれば、「お金が入っていないのに課税される」というペナルティを受けることはありません。
正しく手続きをすれば税務上の影響を受けずにすみます。慌てず落ち着いて対応しましょう。
また、税理士事務所と契約している場合は、早めに担当税理士にも相談するようにしましょう。
事前確定届出給与に関する注意点
臨時株主総会の議事録は必ず残しておきましょう
会社というのは、「人の集まり=組織」です。例え代表者と言えども会社の方針・人事・財務などについて、勝手に一人で決めることはできません。定期株主総会・臨時株主総会・取締役会など開いで決議する必要があります。一人社長・実質的支配権も自分一人だけ、そのような場合でも法人である以上は同じように正式な手順を踏む必要があります。スケジュールを設定して議事録は必ず残すようにしましょう。
特に一人社長の場合は注意が必要です。「どうせ自分一人だけだから。」と、決議や議事録作成を後回しにしてしまわないようにしましょう。いつの間にか作るのを忘れてしまい、いざ税務調査が入ってしまうと言い逃れはできません。
直前になって慌てて書類を作る人もいますが、用紙が新しく綺麗な状態であると、調査に備えて慌てて準備したことがすぐにバレてしまいます。
法人としての運営に規模は関係ありません。ルールに従うことが大切です。
給与・賞与の設定は、プロと相談しながら計画的に行いましょう
今回は、事前確定届出給与が支給できない際の対処法をお伝えしましたが、これは本当に最後の手段です。このようなことがないように計画的な資金繰り・現実的な給与設定を行うようにしましょう。
資金繰りの計画や売上に対する適正給与額の設定は、すぐにできるようになるものではありません。専門のコンサルタントや税理士と相談しながら進められることをお勧めします。
経営にはさまざまな疑問がつきものです。例えば、資金調達の方法や税務処理の仕方など、専門的な知識が必要な場面が多々あります。こうした質問には、専門家の回答が頼りになります。オンラインでのQ&Aサイトや書籍なども参考にすると良いでしょう。
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個人事業から法人に変えることで、数多くのメリットがある反面、税法の厳しさや、社会保険の負担、インボイス登録・決算など、会社経営は複雑化します。
一人社長は売上を作ることも必要ですし、どうしても外部の協力者は欠かせません。
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