「フリーランスだけど、収入が不安定だからパートも掛け持ちしている。」
「法人の社長だけど、会社の事業と同じ内容で個人的にアルバイトもしている。」
このような状況のあなたは、税務上の大きな落とし穴に気づいていますか?
近年、副業や兼業が一般的になる中で、税務署のチェックは年々厳しくなっています。
特に、「フリーランスや法人の事業内容と関連するアルバイト収入」の申告は、税務調査で指摘されやすい盲点の一つです。
「単なるアルバイトだから給与所得として申告すれば大丈夫」と安易に考えていると、後から追徴課税の対象になることも。
今回は、そんな副業収入の正しい申告と注意点について、税務調査で指摘されやすいポイントを交えながら徹底解説します。
このページの目次
そもそも フリーランス や 社長 はアルバイトをしても大丈夫?
結論から言えば、大丈夫です。
フリーランスの方が本業の収入を補填するためにアルバイトやパートを掛け持ちすること、あるいは社長が個人としてアルバイトをすること自体には、法的な問題はありません。
しかし、注意すべきは、そのアルバイトやパートで得た収入を「どのように税務申告するか」という点です。
特に、本業の事業内容と関連性の高い業務で収入を得る場合は、税務署が見る目が厳しくなります。
税務署が着目するのは、形式的な契約(「アルバイト」という名称や時給制かどうか)だけではありません。
「実質的にどのような活動で得られた収入か」を重視します。
なぜなら、税務署は、形式的な契約形態(時給制や「アルバイト」という名称、さらには指揮命令系統の有無)だけでなく、その業務が「あなたの独立した事業活動の延長線上にあるのか」、それとも「本業とは関係なく、純粋な雇用労働として提供されたものなのか」という『実態』で判断するからです。
特に、行っている仕事があなたの本業と同一または密接に関連する内容であれば、形式がどうであれ、事業所得(または法人の売上)と見なされる傾向が非常に強まります。
さらに、そのアルバイト業務で使っているパソコンや通信費、関連書籍代などを、本業の事業経費として計上しているのであれば、その収入も事業所得として申告すべきという論理になるわけです。
フリーランスの「アルバイト収入」が事業所得と判断されるケース
フリーランスの方、特に本業の事業所得がある方は、アルバイト収入を給与所得として安易に申告してしまいがちです。
しかし、税務調査で「これも事業所得である」と指摘される主なケースを知っておきましょう。
① 本業と「同種・類似」の業務内容である場合
あなたが普段から行っているフリーランスとしての事業内容と、アルバイトとして行っている業務が同じ、あるいは非常に似ている場合、税務署は「実質的に事業活動の延長ではないか」と判断します。
【具体例】
・フリーランスのライターが、別の出版社で時給制のライティング業務を掛け持ちする。
・フリーランスのITエンジニアが、別のIT企業で派遣や契約社員としてシステム開発業務を行う。
・フリーランスのデザイナーが、特定の企業のインハウスデザイナーとして週数日勤務する。
これらの場合、形式は給与であっても、その業務内容や専門性があなたの事業と密接に結びついているため、税務署は「事業所得」として合算すべきと判断する可能性が高いのです。
② 事業経費との「整合性」が問われる場合
あなたが本業のフリーランス活動のために購入したパソコン、ソフトウェア、通信費、交通費、書籍代、セミナー参加費などを事業経費として計上している場合、それらがアルバイト業務でも使われていると、税務署は「なぜこのアルバイト収入だけを事業所得としないのか」と疑問を抱きます。
特に在宅業務の場合はより注意が必要です。
【具体的な疑問点】
・事業用PCでアルバイトの仕事もしているのに、そのアルバイト収入だけは給与所得?
・本業で使っている会計ソフトや通信契約の一部を事業経費にしているのに、アルバイト収入は給与所得?
税務署からすれば、経費だけは事業活動として計上し、収入の一部を給与として分離することで、税負担を不当に軽くしようとしているのではないか、と疑われる原因になります。
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③ 事業規模との兼ね合い
フリーランスとしての事業収入がまだ少なく、アルバイト収入が主であるような場合でも、本業として継続的に事業活動を行っていると税務署が判断すれば、アルバイト収入を事業所得に含めるよう指導されることがあります。
特に、青色申告で事業所得の赤字と給与所得を損益通算しているようなケースは、税務署の調査対象になりやすい傾向があります。
法人の場合は特に注意!社長のアルバイト収入の取り扱い
社長が、その法人の事業内容と同一、または密接に関連する業務でアルバイト収入を得る場合、さらに注意が必要です。
【具体例】
ITコンサルティング業の法人。
代表が、別の企業で個人的にITコンサルタントのアルバイトを行い、(時給でも)給与として収入を得た場合。
この収入は、実質的に「法人の事業活動の一環」と見なされ、法人の売上(益金)として処理すべきと税務署から指導されることがあります。
なぜなら、法人の事業内容と関連性の高い業務を、わざわざ個人名義で給与として受け取ることは、法人税の負担を不当に軽減しようとしている、と疑われかねないからです。
これは、個人の所得税の誤りだけでなく、法人の売上計上漏れとして法人税の追徴課税に繋がり、さらに重加算税などのペナルティが課されるリスクもあります。
税務調査が入った際に「知らなかった」では済まされない事態になることもあります。
税務調査で指摘されないためのポイント
それでは、このような副業収入について、税務調査で指摘されないためにはどうすればいいのでしょうか?
①正確な所得区分の判断
本業とは関係なく、雇用契約に基づき、指揮命令系統の下で働く場合は給与所得で問題ありません。
(ライターが飲食店で調理・カメラマンがドラッグストアで販売など)
独立した事業として、自分の裁量で業務を行う場合は事業所得(または雑所得)として申告する必要があります。
迷ったら、契約内容や業務の実態を客観的に判断することが重要です。
自己判断せずに顧問税理士に相談するようにしましょう。
②経費計上の整合性
アルバイト収入を給与所得として申告するなら、そのアルバイトに直接かかった経費(交通費など)以外は、本業の事業経費とは基本的に切り離して考えましょう。
もし、本業の機材や通信環境など、事業経費として計上しているものがアルバイトにも使われている場合は、そのアルバイト収入も事業所得として合算すべき、という判断になる可能性が高まります。
③法人の場合
法人の事業と関連する業務を社長が個人で請け負う場合は、原則として法人の売上として計上することを検討しましょう。
法人からの役員報酬として受け取る形にするのが一般的です。
どうしても個人で受ける必要がある場合は、事前に税理士に相談し、適切な契約形態や申告方法を確認することが不可欠です。
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まとめ:不安なく活動を続けるために
フリーランスや社長がビジネスが安定するまでパートやアルバイトで収入を補填することは、一つの手段として有効です。
しかし、税務上のルールを正しく理解していないと、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。
特に、本業の事業内容と関連するパート・アルバイト収入については、その所得区分と税務調査のリスクを慎重に考える必要があります。
「こんなはずじゃなかった」とならないためにも、ご自身の状況が少しでも複雑だと感じたら、安易な自己判断は避け、必ず専門家である税理士に相談することをおすすめします。
「顧問税理士にアルバイトの相談をするなんて、恥ずかしくて抵抗がある。」
そう思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、税理士は「ビジネスが安定するまでパートやアルバイトで収入を補填することは、生き残るための非常に重要な戦い方の一つである」と考えています。
今回はフリーランス・社長のパート・アルバイト収入に関する正しい申告について解説しました。
本業とは別で収入を得る場合、社会保険についても考慮する必要がありますが、これについてはまた別の機械に解説したいと思います。
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