
「食品ロス」と聞くと、まず「もったいない」「環境問題」といったイメージを抱く方が多いかもしれません。
しかし、飲食店経営者の皆さんにとって、食品ロスは単なる“もったいない”では済まされない、利益を大きく蝕む深刻な経営問題です。
日々発生する廃棄食材は、売上にならなかった「死んだ在庫」であり、購入費用だけでなく、調理の手間、保管コスト、さらには廃棄費用まで、多角的にあなたの店の利益を圧迫しています。
この記事では、食品ロスが飲食店経営に与える具体的な悪影響を数字で示し、今日から実践できる効果的な対策を解説します。
食品ロスを削減し、利益率を向上させるための具体的なヒントと、税理士としての視点から見た会計処理のポイントもお伝えします。
このページの目次
1・なぜ「食品ロス」が飲食店の経営を蝕むのか?

食品ロスは、単なる感情論や環境問題にとどまりません。
あなたの飲食店の原価率を押し上げ、利益を直接的に減少させる、見えにくいコストだからです。
① 数字で見る、食品ロスが招く経営への影響
一般的な飲食店における食品ロスは、仕入原価の3%~10%、場合によってはそれ以上になるとも言われています。
これが売上に換算されると、さらに大きな損失となります。
例えば、月商300万円の飲食店で、もしも仕入れ原価が30%(90万円)だったとします。
食品ロスが仕入れの5%(つまり4.5万円)発生しているとしましょう。
「たった4.5万円じゃないか」と思われるかも知れませんが、この4.5万円分の食品ロスには、さまざまなコストがかかっていますので、単純に「-4.5万円の損失」ではないということです。
この4.5万円は、売上に繋がり得た機会損失であり、さらに以下のような形でコストを発生させます。
原材料費の無駄遣い
4.5万円の食材がそのままゴミに‥。これはそのまま粗利益を減らします。
人件費の無駄
仕込みや調理にかかった従業員の時間と労力が無駄になります。
例えば、4.5万円分のロス食材の調理に3時間かかったとすれば、時給換算で数千円の人件費が無駄になっている計算です。
光熱費の無駄
調理や保管(冷蔵・冷凍)にかかった電気代やガス代も無駄になります。
廃棄処理費用
捨てられた食材は、ゴミ処理業者への費用として別途発生します。
これは、月数万円に上ることも珍しくありません。
これらを合計すると、月数十万円規模の損失が食品ロスによって見えない形で発生していることになります。
これは、年間で数百万円にも及び、利益率を大きく引き下げる要因となります。
② 食品ロスがもたらす見えにくい経営リスク
キャッシュフローの悪化
仕入れた食材が売上にならずに消えるため、資金が滞留し、手元の現金が減ります。
場合によっては次の仕入れに影響が出ることも…。
従業員のモチベーション低下
捨てられる食材を見ることで、従業員の士気が低下する恐れがあります。
特に職人の技術が求められる現場の場合、その傾向が顕著に現れます。
ブランドイメージの悪化
食品ロスが多いと、顧客や社会からのイメージが悪化し、長期的な集客にも影響を及ぼしかねません。
特に近年は、人々のSDGsへの意識が高まり、ビジネスの現場にもサスティナブルな考え方が求められるようになりました。
食品ロスに対して対策を打たない企業や店舗に対して風当たりが強くなってきています。
2・飲食店が今すぐできる!食品ロス削減の具体的な打開策

食品ロスを削減し、利益率を高めるためには、日々の業務における意識改革と具体的な工夫が必要です。
① 発注・仕入れ管理の最適化
最も基本的ながら、最も効果的なのが発注精度の向上です。
需要予測の精度向上
過去の販売データ、天気、曜日、イベント情報などを分析し、より正確な来店数や注文数を予測します。ITツール(POSシステムなど)の活用も有効です。
小ロット・高頻度仕入れ
大量に仕入れて在庫を抱えるのではなく、必要なものを必要な時に、必要な量だけ仕入れるように調整します。
食材の使い切り
仕入れた食材は無駄なく使い切れるよう、メニュー開発や調理法を工夫します。
② ロスが出にくいメニュー開発と提供方法の工夫
ランチェスター戦略の考え方を取り入れ、提供メニューの種類を絞り込むことも有効です。
メニューの絞り込み
多くのメニューを用意するのではなく、得意な料理や人気の高い料理に絞り込むことで、使用する原材料の種類を減らし、発注・在庫管理をシンプルにします。
【実例】
メニューを魚料理に限定した定食専門店や、カンパーニュなど特定の種類のパンに特化したベーカリーなどは、原材料の種類を絞り込み、仕入れや在庫管理を効率化することで食品ロスを抑え、高い利益率を維持しています。
食材の汎用性
複数のメニューで共通して使える食材を増やすことで、発注ロットを大きくしつつも使い切りやすくします。
ポーション(一人前の量)の見直し
顧客が食べきれる適切な量を提供し、食べ残しによる廃棄を減らします。
ハーフサイズや量の調整に対応することも有効です。
フードシェアリングサービスの活用
閉店間際の商品や過剰在庫を、割引価格で顧客に提供するサービスを利用する。
③ 在庫管理と従業員の意識改革
徹底した在庫管理
先入れ先出しの徹底、賞味期限・消費期限の厳密な管理、定期的な棚卸しで死蔵在庫をなくします。
従業員への教育
食品ロスが経営に与える影響や、削減の具体的な方法を全従業員で共有し、意識を高めます。
仕込み段階での歩留まり向上も重要です。
記録と分析
どのような食材が、なぜ、どのくらい廃棄されたのかを記録し、その原因を分析することで、次の対策へと繋げます。
④ ITツールの導入による効率化
近年では、食品ロス削減に特化したITツールも登場しています。
AIによる需要予測システム
過去データから自動で需要を予測し、適切な発注量を提案します。
在庫管理システム
在庫状況をリアルタイムで可視化し、適切な仕入れ時期や量をアラートで知らせます。
フードロス削減アプリ
売れ残った商品を割引価格で販売できるプラットフォームを活用し、新たな収益化を目指します。
3・税理士が解説!食品ロスに関わる会計処理のポイント

食品ロスは会計上も重要な意味を持ちます。
適切に処理することで、税務上のメリットを受けられる可能性もありますが、それ以上に経営状況を正確に把握するために不可欠です。
① 廃棄処理費用と仕訳
食品ロスを処理するためにかかった費用(例えば、廃棄物処理業者への支払い)は、通常「支払手数料」や「雑費」などの勘定科目で経費として計上できます。
食品ロスの廃棄分と通常の廃棄分について、それぞれの費用を明確に把握したい場合は、補助科目を設定することで、後で集計することが可能です。
食品ロスによる廃棄処理費用を正確に把握することで、課題が明確になり目標設定がしやすくなります。
② 棚卸評価損(廃棄損)
期末の棚卸し時に、売れ残って廃棄せざるを得ない食材がある場合、それは「棚卸評価損」として費用処理することができます。
これにより、利益を正確に算出し、適切な税額計算に繋がります。
しかし、これらの処理はあくまで「損失が発生したことを適切に会計に反映する」ためのものです。
税務署は、過度な廃棄損や、その原因となるずさんな管理を問題視することがあります。
重要なのは、これらの費用を計上する前に、廃棄自体を減らす努力をすることです。
まとめ:食品ロス削減は「攻め」の経営戦略

食品ロスの削減は、単なる「もったいない」をなくす活動ではなく、原価率を改善し、利益率を直接的に向上させる「攻め」の経営戦略です。
無駄をなくし、効率を最大化するランチェスター戦略の考え方を取り入れ、メニューの絞り込みや発注管理の最適化を行うことは、集客効果だけでなく、あらゆるコストの削減に繋がり、結果としてあなたの飲食店の「強い利益体質」を作り上げます。
「うちの店の食品ロスはどれくらい利益を圧迫しているのか?」
「具体的な対策をどう進めれば良いのか?」
もし、これらの疑問や不安があれば、ぜひ一度ご相談ください。
私たちは、食品ロス削減を通じた利益率向上策の立案から、適切な会計処理、さらには効率的な経営体質への改善まで、数字の専門家として多角的にサポートいたします。
