「売上は順調に伸びているのに、なぜか手元にお金が残らない…」
「今月は目標を達成したのに、赤字だった…」
このような悩みを抱える経営者は少なくありません。
その原因は、売上という「表面的な数字」だけを見て、経営の重要な羅針盤である「損益分岐点」を正しく把握できていないことにあります。
損益分岐点とは、売上と費用がちょうど同じになり、利益も損失もゼロになる売上高のことです。
この数字を知ることで、「あといくら売り上げれば赤字にならないか」「いくらコストを削減すれば利益が〇万円増えるか」が明確になり、会社の未来を数字で語れるようになります。
この記事では、損益分岐点の基本的な考え方から、具体的な経営指標の改善法、そして税理士がどのように企業の利益体質改善に貢献できるかを解説します。
このページの目次
1. 損益分岐点を正しく把握する3つの概念

損益分岐点を理解するには、「固定費」「変動費」「貢献利益」という3つの概念を把握することが不可欠です。
① 固定費
売上の増減に関わらず、常に一定で発生する費用です。
具体例: 家賃、地代、人件費(固定給)、減価償却費、リース料、広告宣伝費など
② 変動費
売上の増減に比例して、変動する費用です。
具体例: 材料費、仕入原価、外注費、販売手数料、運送費など
③ 貢献利益
売上から変動費を差し引いた利益のことで、固定費をどれだけ賄えるかを示す指標です。
計算式: 貢献利益 = 売上高 – 変動費
※上記の計算で出した数字は、あなたの固定費を賄えていますか?
これらの概念から、損益分岐点は以下の計算式で求められます。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ (1 – 変動費率)
※変動費率は「変動費 ÷ 売上高」で算出されます。
2. 損益分岐点分析がもたらす「数字」で見る経営改善

損益分岐点分析は、単に「いくら売れば黒字になるか」を把握するだけではありません。
この分析は、キャッシュフロー、利益率、経費の費用対効果といった、経営に直結する重要な指標を劇的に改善する力を持っています。
① 利益率の向上:売上目標達成への確信
損益分岐点売上高と実際の売上高を比較することで、自社の収益構造を明確に理解できます。
損益分岐点が月商200万円のラーメン屋の場合、月商250万円であれば50万円が直接利益に繋がります。
しかし、もしこの数字を把握していなければ、「250万円売れたから大丈夫だろう」と安心し、さらに無駄な経費を計上してしまい、せっかくの利益を食いつぶしてしまうかもしれません。
損益分岐点分析は、「あと〇万円売れば、利益が〇万円増える」という明確な根拠を与え、利益目標達成への確信をもたらします。
② キャッシュフローの改善:手元に残るお金を増やす
損益分岐点を把握することで、キャッシュフローを改善する具体的な戦略を立てられます。
例えば、損益分岐点を下げるために、固定費(例:家賃交渉)や変動費(例:仕入れ先の見直し)を削減できれば、同じ売上でも手元に残るお金が増えます。
これは、将来の設備投資や運転資金に回せるキャッシュが増えることを意味し、会社の財務基盤を強くします。
③ 経費の費用対効果を厳しく評価する
「広告宣伝費に毎月10万円使っているが、本当に効果があるのか?」 このような疑問も、損益分岐点分析を応用すれば明確になります。
具体例
ラーメン屋がチラシ広告に10万円かけた場合を考えてみましょう。
固定費の増加: チラシ広告費の10万円は固定費として加算されます。
新たな損益分岐点: 損益分岐点売上高は、この10万円を賄うために増えてしまいます。
費用対効果の判断: このチラシによって、新たな損益分岐点を上回る売上増(例えば、10万円以上の貢献利益)が得られなければ、その広告は費用対効果が低いと判断できます。
また、レストランがキャンペーンとして割引クーポンを配布した場合、割引分は客単価が下がるため、変動費率が上昇します。これも損益分岐点を引き上げる要因です。
損益分岐点分析を用いることで、割引キャンペーンがもたらす売上増とコスト増を比較し、利益に貢献しているかを数字で正確に判断できます。
3. 損益分岐点分析が未来の経営に役立つ理由

損益分岐点分析は、現状の把握だけでなく、未来に向けた経営戦略を立てる上でも強力な武器となります。
① 新規事業・新商品の判断基準になる
新しい事業や商品を始める際、その損益分岐点を事前に計算することで、「どれだけの売上が必要か」「どれだけのコストがかかるか」を客観的に判断できます。
これにより、無謀な投資を防ぎ、成功確率を高められます。
② 目標設定とコスト削減の指針になる
「来期は100万円の利益を出したい」という目標を立てた場合、損益分岐点分析から逆算することで、「そのためには売上をあと〇万円増やすか」「固定費を〇万円減らすか」といった具体的な行動計画を立てられます。
この分析は、単に「コストを減らそう」という漠然とした号令ではなく、「このコストを削減すれば、これだけの利益に繋がる」という明確な根拠を与え、現場の意識改革を促します。
③ 銀行融資や投資家への説明資料になる
損益分岐点分析は、外部のステークホルダーに対しても、事業の健全性をアピールする上で有効です。
資金調達の際、事業計画書に損益分岐点を明記することで、「経営者は自社のコスト構造をよく理解しており、具体的な利益計画を持っている」という信頼感を与えることができます。
まとめ:損益分岐点を把握して、強い会社へ

会社の経営において、「なんとなく忙しい」「なんとなく売上を追う」という状態は、非常に危険です。
損益分岐点を正しく把握することは、会社の現状を客観的に評価し、将来に向けた具体的な戦略を立てるための第一歩です。
損益分岐点分析を通じて、会社のコスト構造を見直し、無駄をなくし、キャッシュフローと利益率が残りやすい「強い会社」に変えていきましょう。
