「食品の消費税が1%になる」
そんなニュースを聞くと、消費者にとっては「食品が安くなる」という喜ばしいイメージが先に来るのではないでしょうか。
一方、食品を販売したり仕入れたりする事業者にとっては、必ずしも単純なメリットになるとは限りません。
消費税は、売上にかかる消費税だけでなく、仕入れや経費にかかった消費税もあわせて計算する仕組みだからです。
この記事では、食品の消費税引き下げを題材に、事業者にどのような影響が考えられるのかを見ながら、消費税の基本的な仕組みをわかりやすく解説します。
このページの目次
食品の消費税1%への引き下げはいつから?
2026年9月現在、政府は2027年4月1日から2年間、現在軽減税率(8%)が適用されている飲食料品の消費税率を1%に引き下げる基本方針を示していますが、関連法案はまだ成立していません。
2026年8月5日に閣議決定された基本方針では、物価高への対応として、軽減税率の対象となっている飲食料品の消費税率を1%とする方針が示されました。
消費税1パーセントへの引き下げは、今後の法案提出・国会審議によって実際の制度内容が確定するため、この記事では「仮に1%になった場合」を前提に、事業者への影響を考えていきます。
●参照:内閣官房 「給付付き税額控除」の制度導入の基本方針(令和8年8月5日閣議決定)
そもそも消費税はどう計算される?「売上の消費税-仕入の消費税」が基本
消費税を理解するうえでまず押さえておきたいのが「仕入税額控除(課税仕入れにかかった消費税額を、納付する消費税額から差し引ける制度)」です。
納付税額は、次のように計算します。
課税売上にかかる消費税額-課税仕入れにかかった消費税額=納付する消費税額
例えば、100万円の商品を消費税率10%で販売し、仕入れに60万円(消費税率10%)かかったとします。
売上にかかる消費税は10万円、仕入れにかかった消費税は6万円なので、差額の4万円を納付します。
反対に仕入れにかかった消費税額のほうが多ければ、一定の要件のもとで還付を受けられます。
●参照:国税庁 消費税のしくみ
食品の税率が1%になっても、仕入れがすべて1%になるわけではない
ここで注意したいのは、食品の税率が1%になるからといって、事業者が行うすべての取引が1%になるわけではないという点です。
現在の軽減税率制度では、酒類を除く飲食料品の販売に8%の軽減税率が適用され、外食やケータリングなどは対象外で標準税率10%が適用されています。
また、食品を販売する事業者が購入するパック(包装資材)や機械・設備なども、食品そのものではないため、原則として標準税率10%の課税仕入れになります。
つまり仮に食品の税率が1%になった場合、食品の売上・食品の仕入れは1%になる一方、パック(包装資材)や機械・設備などには10%となるものがあり、外食の売上は10%のままになります。
このように、取引ごとに税率を確認する必要があります。
食品小売・食品製造業では、消費税率の引き下げで何が変わる?
食品の売上と食品の仕入れがどちらも1%になると仮定すれば、この部分だけを見た税率差は小さくなります。
一方、パック(包装資材)や冷蔵設備・製造機械などを購入する場合には10%の消費税を支払うことになります。
例えば、食品の年間売上1,000万円(税抜)・食品の年間仕入700万円(税抜)の食品小売店が、冷蔵設備を200万円(税抜)で購入したケースで考えてみましょう。
仕入れの本体価格(消費税を除いた金額)は、食品仕入700万円+設備投資200万円=900万円です。
ここでは、税率が変わっても本体価格は変わらないものとします。
まず、売上にかかる消費税を比べてみましょう。
現在(食品の税率8%):食品の売上にかかる消費税=80万円
仮に食品が1%になった場合:食品の売上にかかる消費税=10万円
食品の税率が8%から1%に下がれば、消費者が支払う税込価格がその分下がる場合、事業者が売上時に受け取る消費税額も70万円減少します。
一方、事業者が納める消費税も、仕入税額控除との関係で変わります。
したがって、「納税額が70万円減った=事業者の利益が70万円増える」というわけではありません。
消費税率の引き下げによる影響を考えるときは、納税額だけでなく、販売価格、仕入れ価格、仕入税額控除、そして実際にお金が入る・出るタイミングまで含めて考える必要があります。
また、消費税率が8%から1%に下がった場合でも、実際の販売価格がどのように変わるかは、事業者の価格設定などによって異なります。
例えば、本体価格1,000円の商品について、税率引き下げ分をそのまま販売価格に反映すれば、税込価格は1,080円から1,010円になります。一方で、税込価格を維持する場合など、価格設定によって事業者や消費者への影響は変わります。
このため、「消費税率が7ポイント下がる=事業者の利益率が7ポイント上がる」ということではありません。
さらに、設備投資を行う場合には、仕入先への支払いと消費税の還付を受けるタイミングにズレが生じることがあります。
設備投資の消費税20万円分は購入時に一括して支払いますが、仕入税額控除による還付を受けるのは、原則として確定申告後です。
そのため、最終的に還付を受けられる場合でも、還付されるまでの間は一時的に資金を用意しておく必要があります。
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農家はどうなる?農産物が1%でも、すべての仕入れが1%になるわけではない
農家についても考え方は同じです。
農産物の販売に1%の消費税が適用されても、農業機械や設備などがすべて1%になるわけではありません。
例えば、農産物の年間販売額500万円(消費税率1%)の農家が、農業機械を150万円で購入したとします。
まず、現在の軽減税率8%で、お金の流れを順番に見てみます。
| ①仕入先への支払い(消費税込み) 農業機械:150万円+消費税15万円(10%)=165万円 支払い合計:165万円②消費税の申告・納税 売上にかかる消費税:500万円×8%=40万円 差し引ける仕入税額:15万円(機械) 納付額:40万円-15万円=25万円③消費税の精算まで含めた支出額 165万円+25万円=190万円 |
続いて、仮に農産物が1%になった場合も、同じ手順で計算します。
| ①仕入先への支払い(消費税込み) 農業機械:150万円+消費税15万円(10%)=165万円 支払い合計:165万円②消費税の申告・納税 売上にかかる消費税:500万円×1%=5万円 差し引ける仕入税額:15万円(機械) 納付額:5万円-15万円=▲10万円(10万円の還付)③消費税の精算まで含めた支出額 165万円-10万円(還付)=155万円 |
現在の8%から1%に税率が下がると、農産物の売上にかかる消費税は40万円から5万円に減少します。
一方、農業機械の購入時には10%の消費税15万円を支払いますが、本則課税の課税事業者であれば、一定の要件のもとで仕入税額控除の対象となります。
このため、今回の単純化した例では、1%への引き下げによって消費税の納付・還付額が大きく変わります。
ただし、「35万円得をする」と考えるのは適切ではありません。
農産物の販売価格が税率引き下げ分だけ変われば、顧客から受け取る税込売上も変わるためです。
このように、消費税率の変更による事業者への影響は、納税額や還付額だけでなく、販売価格や仕入れ価格を含めたお金の流れ全体で考える必要があります。
ただし、この還付を受けられるのは課税事業者に限られます。
政府の基本方針でも、仕入税額控除の還付を受けられない農業従事者等への影響を見極めたうえで対応を検討する方針が示されています。
免税事業者(課税売上高が一定以下などの理由で消費税の申告・納税義務がない事業者)は、そもそも還付を受けられないため、10%の仕入れにかかった消費税がそのままコストとして残ってしまう点に注意が必要です。
飲食店はどうなる?食材が安くなっても、資金繰りのリズムが変わることに注意
店内飲食などの外食は軽減税率の対象外なので、売上にかかる消費税は10%のままです。
一方、仕入れる食材は軽減税率の対象になるため1%になります。
「食材が安くなる分、飲食店も得をするのでは」と思うかもしれませんが、仕入先への支払いまで含めて計算すると、単純にそうとは言えません。
年間売上1,000万円(消費税率10%)、食材の年間仕入れ400万円の飲食店で考えてみます。
まず、現在の軽減税率8%で、お金の流れを順番に見てみます。
| ①仕入先への支払い(消費税込み) 食材:400万円+消費税32万円(8%)=432万円 支払い合計:432万円②消費税の申告・納税 売上にかかる消費税:1,000万円×10%=100万円 差し引ける仕入税額:32万円(食材) 納付額:100万円-32万円=68万円③消費税の精算まで含めた支出額 432万円+68万円=500万円 |
続いて、仮に食材が1%になった場合も、同じ手順で計算します。
| ①仕入先への支払い(消費税込み) 食材:400万円+消費税4万円(1%)=404万円 支払い合計:404万円②消費税の申告・納税 売上にかかる消費税:1,000万円×10%=100万円 差し引ける仕入税額:4万円(食材) 納付額:100万円-4万円=96万円③消費税の精算まで含めた支出額 404万円+96万円=500万円 |
今回のように、仕入先が税率の引き下げ分を販売価格に反映し、飲食店が本則課税で仕入税額控除を受ける場合、年間の資金流出額は単純化するとほぼ変わりません。
食材の税率が下がった分、仕入先への支払いは減りますが、その分だけ仕入税額控除も小さくなるため、納付する消費税額が増える方向に働くからです。
ただし、これはあくまで単純化したケースです。
仕入先が価格を据え置く場合や、飲食店が簡易課税を選択している場合などは、結果が異なります。
簡易課税の場合や、仕入先が価格を据え置く場合はこの限りではありません。
とはいえ、「年間合計が同じだから問題ない」わけでもありません。
仕入先への支払いは仕入れのたびに少しずつ発生する一方、消費税の納税は確定申告のタイミングでまとまった金額を一度に納める必要があります。
この支払いのリズムのズレこそが、飲食店にとっての本当の資金繰りの論点です。
簡易課税を選択している飲食店は計算方法自体が変わらない
簡易課税を選択している場合は事情が異なります。
飲食店業は簡易課税の「第4種事業」に区分され、みなし仕入率は60%です。
この計算方法では売上高だけをもとに納税額が決まるため、食材の仕入れ税率が変わっても計算方法そのものは変わりません。
●参照:国税庁 No.6102 消費税の軽減税率制度(外食の定義)
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同じ事業者でも、本則課税と簡易課税で結果が変わる
ここまでの例は、実際の仕入れにかかった消費税額を控除する「本則課税」が前提です。
簡易課税制度※を選択している事業者は、実際の仕入税額ではなく、売上にかかる消費税額に業種ごとの「みなし仕入率」を乗じて仕入控除税額を計算します。
※簡易課税を選択できるのは、基準期間(原則2期前)の課税売上高が5,000万円以下の事業者に限られます。
先ほどの「食品小売・食品製造業」のパートで見た食品小売店の例を、今度は簡易課税で計算し直してみましょう。
| 食品の年間売上1,000万円(消費税は1%で 10万円)食品の年間仕入700万円(消費税は1%で 7万円)冷蔵設備投資200万円(消費税は10%で 20万円) |
この例では、売上にかかる消費税は10万円でした。
食料品の譲渡に係る小売業は「第2種事業」に区分され、みなし仕入率は80%です。
仕入控除税額は10万円×80%=8万円となり、納税額は10万円-8万円=2万円です。
本則課税であれば、食品仕入・設備投資の実際の消費税額(27万円)をもとに計算されるため、10万円-27万円=▲17万円、つまり17万円の還付になります。
一方、簡易課税では売上にかかる消費税だけをもとに機械的に計算されるため、実際の仕入れの内容が反映されず、2万円の納税になります。
この例に限って言えば、17万円の還付が受けられる本則課税のほうが、簡易課税より19万円有利という結果です。
ただし、これは今回の例(設備投資という大きな10%の課税仕入れがある年)に特有の結果です。
設備投資のような大きな買い物がない年や、10%の課税仕入れが少ない事業者では、簡易課税のほうが有利になることもあります。
同じ売上・仕入れでも、課税方式によって結果が大きく変わることがある、という点は覚えておきたいところです。
とはいえ、簡易課税には計算・申告の事務負担を軽減できるメリットもあります。
「簡易課税は不利」と単純に決めつけず、自社の売上・仕入れ構成をもとに本則課税との有利不利を確認しておくことをおすすめします。
消費税引き下げのメリット・デメリットは「売上・仕入れ・課税方式」で変わる
消費税引き下げのメリット・デメリットは、すべての事業者に同じように現れるわけではありません。
売上にどの税率が適用されるのか、仕入れや経費にはどの税率が適用されるのか、さらに本則課税か簡易課税かによって、影響は変わります。
そのため、「食品の消費税が1%になれば事業者は得」「飲食店は損」と単純に判断することはできません。
ここまでの内容を、事業者目線のメリット・デメリットとして整理してみましょう。
消費税引き下げのメリットとしては、食品小売業・食品製造業・農家のように、自社の売上そのものが軽減税率の対象となる事業者では、税率が下がることで消費税の納付額が減少する可能性があることが挙げられます。
また、本則課税の事業者が大きな設備投資を行った場合には、売上にかかる消費税額よりも仕入税額控除の対象となる消費税額が大きくなり、結果として還付が生じることがあります。
ただし、これは食品の税率引き下げそのものによって「設備投資が得になる」という意味ではありません。
設備投資に伴って10%の消費税を支払う一方、売上側の消費税率が1%になることで、控除しきれない仕入税額が生じる可能性があるということです。
一方、消費税引き下げのデメリットとしては、飲食店のように売上には10%、仕入れた食材には1%が適用される事業者では、食材にかかる仕入税額控除が小さくなり、納税額が増える方向に働く可能性があることが挙げられます。
また、仕入先への支払いと消費税の納税は同じタイミングで行われるとは限らないため、税率変更によって資金が出ていく時期と納税する時期の関係が変わる可能性があります。
また、税率変更に伴うレジや会計システム、請求書・価格表示などの対応が必要になることも考えられます。
ただし、これまで見てきたとおり、「消費税の納付額が減ること」と「事業者の手元に残るお金が増えること」は同じではありません。
メリット・デメリットのどちらであっても、税率変更によって売上・仕入れ・経費・資金繰りがどのように変わるのかを個別に確認することが大切です。
消費税率が変わるとき、事業者が確認したい4つのポイント
ここまで見てきたように、食品の消費税引き下げの影響は業種ごとに異なり、「納税額が増える/減る」だけで損得を判断することもできません。
税率が変更されることになった場合、まずは次の4点を確認しましょう。
- 自社の売上にどの税率が適用されているか(食品だからといって、すべてが1%になるとは限りません)
- 仕入れ・経費にどの税率が適用されているか(食品の仕入れだけでなく、機械・設備、外注費、包装資材なども確認)
- 本則課税か簡易課税か(同じ売上・仕入れでも、計算方法によって結果が変わります)
- 納税額・還付額だけでなく、資金が出ていく・戻ってくるタイミングも確認する
まとめ
食品の消費税引き下げは、「税率が下がる=事業者の負担が軽くなる」「納税額が増える=事業者が損をする」と単純に判断できるものではありません。
消費税の影響を考えるには、①売上にかかる消費税、②仕入れ・経費にかかる消費税、③仕入税額控除、④本則課税・簡易課税の違いを分けて考える必要があります。
さらに、消費税の納付・還付は、実際の売上代金や仕入代金の支払いとはタイミングが異なるため、税額だけでなく資金繰りまで含めて考えることが重要です。
食品の消費税が実際に1%へ引き下げられる場合には、自社の売上・仕入れ・経費にどの税率が適用されるのかを確認し、税率変更による影響を事前にシミュレーションしておきましょう。
自社にとってどんな影響があるのか判断に迷ったときは、早めに専門家へ相談してみましょう。
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※本記事の税率・制度情報は2026年9月時点の情報に基づいています。今後の国会審議等により、内容が変更される可能性があります。
山本聡一郎税理士事務所 代表税理士。1982年7月生まれ。名古屋市中区錦(伏見駅から徒歩3分)にてMBA経営学修士の知識を活かして、創業支援に特化した税理士事務所を運営。クラウド会計 Freeeに特化し、税務以外にも資金調達、小規模事業化持続化補助金などの補助金支援に力を入れている。
