以前のコラム「年商だけではわからない!利益が本当に重要な理由とは?」では、「なぜ売上だけを追うのではなく、利益が重要なのか」について解説しました。
単に売上を伸ばしても、利益が伴わなければ意味がありません。
むしろ、赤字のまま売上だけが伸びてしまう「肥満体質の経営」は、時に「黒字倒産」という悲劇を招くことさえあります。
では、どうすれば赤字から脱却し、安定して利益を生み出せる「利益体質」の会社になれるのでしょうか?
今回は、売上を増やすこと以上に大切な「利益体質」を作るための3つの秘訣を、具体的なステップとともにご紹介します。
このページの目次
STEP1・利益を最大化する「粗利率」を見直す
利益体質を作る上で、まず注目すべきは「粗利率(売上総利益率)」です。
粗利とは、売上高から売上原価(仕入れた商品の代金や製造にかかった費用など)を差し引いたものです。
この粗利率が高いほど、稼ぐ力が強いと言えます。
計算式:粗利率 = (売上高 – 売上原価) ÷ 売上高 × 100
具体的な見直しポイント
①仕入れ値・製造コストの交渉・見直し
仕入先との交渉で単価を下げる、代替品を探す、製造工程の無駄をなくすなど、原価そのものを削減する努力が重要です。
わずかな原価の削減でも、売上が大きければ粗利益へのインパクトは絶大です。
【具体例】
飲食店の場合
食材の仕入れ先を複数比較検討し、より安価で品質の良い業者に切り替える。
または、旬の食材を活用して原価を抑えつつ、メニューに季節感を出す。
製造業の場合
部品の調達先を見直して大量購入割引を交渉する、または製造ラインの改善で不良品率を下げ、材料ロスを削減する。
②商品・サービスの価格設定の最適化
ただ安く売るだけでなく、自社の商品やサービスの「価値」を再評価し、適正な価格を設定しましょう。
競合他社の価格だけを気にするのではなく、顧客が感じる価値に基づいて価格を見直す勇気も必要です。
場合によっては、価格を上げることで粗利率が改善し、売上が一時的に下がっても利益が増えることがあります。
【具体例】
コンサルティング業の場合
他社より高い料金でも、明確な実績や専門性を提示することで高単価での契約を目指す。
パッケージングを見直し、基本サービスに加えて「特別サポート」などを上乗せして単価を上げる。
小売業の場合
顧客層や商品特性に合わせて、プレミアム価格帯の商品を導入し、ブランドイメージと粗利率の向上を図る。
③付加価値の向上による高価格帯商品の開発
「この商品なら高くても買いたい」と思わせるような、独自性や専門性の高い商品・サービスを開発することで、高単価でも顧客に選ばれるようになります。
これは、量に依存しない利益構造を作る上で非常に有効です。
【具体例】
ウェブ制作会社の場合
単なるホームページ制作だけでなく、SEO対策やコンテンツマーケティング、SNS運用までを一貫して請け負う高付加価値サービスを開発し、単価を大幅にアップさせる。
美容室の場合
通常のカット・カラーに加え、特定の髪質改善技術やヘッドスパなど、専門性の高い特別メニューを開発し、指名料や追加料金で客単価を上げる。
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STEP2.・無駄をなくし「固定費」を徹底的に見直す
粗利を確保できても、固定費(売上に関わらず毎月発生する費用)が大きすぎると、利益は残りません。
固定費は、売上が減った時にも発生するため、経営を圧迫する大きな要因となります。
具体的な見直しポイント
①人件費の適正化
人件費は最大の固定費となることが多いです。
業務の効率化やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進による生産性向上で、最小限の人数で最大の成果を出せる体制を目指しましょう。
ただし、従業員のモチベーション維持も重要ですので、削減ありきではなく、適正化がポイントです。
【具体例】
事務部門の場合
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)ツールを導入し、経費精算やデータ入力といった定型業務を自動化。
結果的に、同じ人数でより多くの業務をこなせるようになり、採用コストを抑制することが可能に。
店舗運営の場合
セルフレジや予約システムを導入し、従業員のレジ業務や電話対応の時間を削減。
より顧客対応や商品陳列に集中できるようになり、顧客満足度と生産性を同時に高める。
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②家賃・地代の見直し
オフィスや店舗の家賃は固定費の中でも大きな割合を占めます。
テレワークの導入によるオフィス規模の縮小、賃料の再交渉、より安価な場所への移転などを検討しましょう。
【具体例】
IT企業の場合
フルリモートワークに移行し、都心の一等地のオフィスを解約。
コワーキングスペースやバーチャルオフィスに切り替えることで、家賃を大幅に削減する。
サービス業の場合
賃貸契約の更新時期に、周辺相場や空室状況を調査し、家主との賃料引き下げ交渉に臨む。
③外注費・業務委託費の最適化
定期的に発生する外部への委託費用やコンサルティング費用などについて、その効果と費用対効果を検証し、削減や内容の見直しを検討します。
【具体例】
マーケティング費用の場合
広告代理店への委託費用や広告効果を定期的に検証し、費用対効果の低い媒体や施策を中止・見直しする。
あるいは、内製化できる部分を増やす。
システム保守費用の場合
複数の業者から相見積もりを取り、サービスの質を維持しつつコストを削減できる業者に切り替える。
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STEP3. 資金繰りを改善し「キャッシュフロー」を強化する
利益が出ていても、手元の現金が不足すると「黒字倒産」の危険性があります。
利益とキャッシュ(現金)はイコールではありません。
売掛金の回収サイト、買掛金の支払いサイト、在庫の状況などが、キャッシュフローに大きく影響します。
具体的な見直しポイント
①売掛金の早期回収
売掛金の回収サイト(支払いまでの期間)を短縮するよう交渉する、入金確認を徹底する、支払いの遅延がないか定期的にチェックするなど、早期に現金化できる体制を整えましょう。
【具体例】
BtoBビジネスの場合
請求書の支払い期日を「月末締め翌月末払い」から「15日締め翌月15日払い」のように短縮を交渉する。
サービス業の場合
契約時に前払い金を設定したり、マイルストーンごとに分割請求を行ったりして、サービス提供と入金のタイムラグを短縮する。
②買掛金の支払いサイト調整
仕入れ先との交渉で、買掛金の支払いサイト(支払うまでの期間)をできる限り長くしてもらうことで、手元の現金を長く保持できます。
【具体例】
製造業の場合
主要な部品サプライヤーに対し、購入量増加を交渉材料に、支払い条件を「翌月末払い」から「翌々月末払い」に変更してもらう。
小売業の場合
新規取引開始時に、有利な支払い条件(例:納品から60日後払い)を提示し、キャッシュアウトを遅らせる。
③在庫の最適化
過剰な在庫は、資金を寝かせていることと同じです。
死蔵在庫をなくし、適正な在庫レベルを維持することで、無駄な仕入れを減らし、キャッシュフローを改善します。
【具体例】
アパレル小売業の場合
過去の販売データに基づき、季節商品の発注量を厳密にコントロール。
売れ残りリスクの高い商品は発注量を抑え、必要に応じて追加発注を行う「ジャストインタイム」方式に近づける。
部品販売業の場合
需要予測システムを導入し、顧客からの注文に応じて必要な部品のみを仕入れることで、倉庫スペースの有効活用と仕入れコストの削減を図る。
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まとめ:「利益体質」への変革が安定経営の鍵
売上を伸ばすことはもちろん重要ですが、それ以上に「どうすれば利益が残るのか」という視点を持つことが、赤字脱却と安定した黒字経営には不可欠です。
今回ご紹介した「粗利率の見直し」「固定費の削減」「キャッシュフローの強化」は、どれも地道な努力が必要ですが、一つ一つ着実に取り組むことで、あなたの会社は強固な「利益体質」へと生まれ変わるでしょう。
「どこから手をつければいいか分からない」「自社の場合はどうすれば?」といったお悩みがあれば、ぜひ一度、当事務所にご相談ください。
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