近年、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を耳にする機会が増えました。多くの企業がDX推進に取り組む中で、経理部門も例外ではありません。その第一歩として、そして最も効果的な手段の一つとして注目されているのが「クラウド会計」の導入です。
「クラウド会計って何?」「うちの会社に本当に必要なの?」そんな疑問をお持ちの経営者の方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、クラウド会計の基本的な仕組みから、現在の普及状況、主なソフトの種類、そして導入によって経理業務がどのように変わり、ひいては会社のDX推進にどう貢献するのかを分かりやすく解説します。
このページの目次
そもそも「クラウド会計」とは?

従来の会計ソフトは、会社のパソコンにインストールして使用する「インストール型(パッケージ型)」が主流でした。
これに対し、クラウド会計は、インターネットを通じてサービスを提供する会計システムです。
データはクラウド上(インターネット上のサーバー)に保存され、インターネット環境があれば、いつでも、どこからでもアクセスして利用できます。
クラウド会計の基本的な仕組み
クラウド会計の大きな特徴は、以下の機能が自動化・連携される点にあります。
金融機関との自動連携
銀行口座やクレジットカードの入出金データを自動で取り込み、仕訳候補を自動で作成します。手入力の手間が大幅に削減されるだけでなく、入力ミスの防止にもつながります。
レシート・領収書の自動読み取り
スマートフォンアプリなどでレシートや領収書を撮影するだけで、日付、金額、勘定科目などをAIが自動で読み取り、仕訳候補を作成します。
請求書・見積書の作成・連携
会計データと連携した形で請求書や見積書を簡単に作成でき、売掛金の管理もスムーズに行えます。
他のシステムとの連携
POSレジ、ECサイト、勤怠管理システムなど、様々な外部サービスと連携することで、データの二重入力をなくし、業務全体の効率化を図れます。
クラウド会計の普及状況

個人事業主は拡大、法人はこれから
クラウド会計は近年急速に普及が進んでいますが、その浸透度合いは事業形態によって差があります。
個人事業主では普及が加速
MM総研の2025年3月末の調査によると、個人事業主のクラウド会計ソフト利用率は38.3%に達しており、前年比で4.6ポイント増と拡大が加速していることが示されています。
手軽さやコストのメリットが評価され、今後も利用者は増える見込みです。
法人ではまだ伸びしろあり
一方で、法人、特に中小企業全体で見ると、クラウド会計の利用率はまだ15%未満とする調査結果も見られ、インストール型ソフトからの移行が比較的ゆっくり進んでいる状況です。
長年の利用実績がある既存システムからの移行には、手間や慣れの課題を感じる企業も少なくありません。
●外部リンク(参考URL)
株式会社MM総研 個人事業主のクラウド会計利用率は38.3%へ、拡大基調続く
市場を牽引する主なクラウド会計ソフト
現在、個人事業主から中小企業まで幅広く利用されている主要なクラウド会計ソフトとしては、
・弥生会計 オンライン(やよいの青色申告 オンライン)
・freee会計
・マネーフォワード クラウド会計(マネーフォワード クラウド確定申告)
の3社が市場の大部分を占めています。
それぞれ特徴が異なるため、自社の運用に合わせた選択が重要です。
会計ソフトの種類:クラウド型 vs. インストール型

会計ソフトには大きく分けて「クラウド型」と「インストール型」があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
1. クラウド型会計ソフト
インターネット環境があれば、場所や端末を問わず利用できるのが最大の特徴です。
【代表的なソフトの例】
弥生会計 オンライン / やよいの青色申告 オンライン
伝統的な会計ソフトメーカーのクラウド版。
シンプルで使いやすく、簿記の知識があるユーザーにも人気です。
freee会計
簿記の知識がなくても直感的に操作できることを重視した設計。
自動仕訳機能やレポート機能が強力です。
マネーフォワード クラウド会計
金融機関との連携機能が非常に充実しており、UI(ユーザーインターフェース)も分かりやすいと評判です。
その他
ジョブカン会計、勘定奉行クラウド、PCAクラウド会計なども中堅・大規模向けに展開されています。
【主なメリット】
・場所を選ばず、複数のメンバーで共有・利用しやすい
・自動アップデートで常に最新の税法に対応
・銀行口座やクレジットカードとの自動連携が強力
・初期費用が比較的安く、月額料金制(年払いも可能)
・データが自動でクラウドにバックアップされる
2. インストール型会計ソフト(パッケージ型会計ソフト)
会社のパソコンに直接ソフトをインストールして利用します。
インターネット接続が不安定な環境でも利用できるのが特徴です。
【代表的なソフトの例】
弥生会計
インストール型会計ソフトの代表格。
長年の実績と高い安定性で多くの企業に利用されています。
会計王(ソリマチ)
中小企業や個人事業主向けに、シンプルで分かりやすい操作性が支持されています。
勘定奉行 / PCA会計
中堅・大規模企業で利用されることが多く、複雑な会計処理や内部統制に対応できる機能が充実しています。
【主なメリット】
・インターネット環境に左右されず利用できる(オフラインでの利用が可能)
・一度購入すれば月額費用がかからない買い切り型が多い
・長年の運用実績による安定性
クラウド会計導入で経理業務はどう変わる?経理DXのメリット

クラウド会計の導入は、単に会計ソフトを変えるだけでなく、経理業務全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を促進し、会社に様々なメリットをもたらします。
1. 経理業務の劇的な効率化と時間短縮
最も大きな変化は、日々の経理業務にかかる時間と労力の削減です。
手入力作業の削減
銀行口座やクレジットカードからの自動連携により、これまで手作業で行っていた記帳業務の多くが不要になります。
ペーパーレス化の推進
レシートや領収書のデータ化により、紙の書類を整理・保管する手間が減り、ペーパーレス化が進みます。
ヒューマンエラーの減少
自動連携やAIによる読み取り機能により、手入力によるミスや漏れが減り、正確性が向上します。
これにより、経理担当者はルーティンワークから解放され、より戦略的な業務(経営分析、資金繰り予測など)に時間を割けるようになります。
2. リアルタイムでの経営状況把握が可能に
クラウド会計は、常に最新のデータが反映されるため、会社の経営状況をリアルタイムで把握できます。
最新の試算表
いつでも最新の試算表や損益計算書、貸借対照表を確認できるため、月次決算の早期化が可能です。
キャッシュフローの可視化
入出金の状況が常に更新されるため、資金繰りの状況をタイムリーに把握し、迅速な意思決定に繋げられます。
経営判断の迅速化
タイムリーなデータに基づき、売上状況やコストの変動をいち早く察知し、経営戦略の修正や新たな施策の検討を迅速に行うことができます。
3. リモートワーク・テレワークへの対応強化
インターネット環境があればどこからでもアクセスできるため、経理担当者がオフィスにいなくても業務を進めることが可能です。
場所を選ばない業務体制
災害時や緊急時でも、自宅などから経理業務を継続できます。
柔軟な働き方の実現
リモートワークや時短勤務など、多様な働き方を導入しやすくなり、従業員の満足度向上や優秀な人材の確保にも繋がります。
4. 税理士との連携強化とスムーズな申告
クラウド会計は、税理士とのデータ共有も非常にスムーズです。
リアルタイムな情報共有
税理士がいつでも最新の会計データを確認できるため、月次の監査やアドバイスがよりタイムリーに行えます。
申告業務の効率化
決算期には、税理士がクラウド上のデータに直接アクセスして申告書作成を進められるため、資料のやり取りの手間が減り、スピーディーかつ正確な申告が可能になります。
補足:クラウド会計と相性抜群のインターネットバンキング

クラウド会計の導入を検討されている方は、ぜひインターネットバンキングの導入もご検討ください。
両者は非常に相性が良く、連携させることで自動で会計情報が入力されるなど、効率化を一気に進めることができます。
まとめ:クラウド会計は「経理の未来」への第一歩

クラウド会計の導入は、単なる会計ソフトの切り替えではなく、経理業務の効率化、リアルタイム経営の実現、柔軟な働き方の推進、そして税理士との連携強化といった、会社のDXを加速させる強力な一歩となります。
初期設定や運用開始時には多少の手間がかかるかもしれませんが、その後の業務効率化や経営判断のスピードアップは、計り知れないメリットをもたらすでしょう。
当事務所はクラウド会計freee専門・ITに強い税理士として、愛知県名古屋市で活動しております。
経理業務を効率化し、本業に集中していただくために経理のDX化をサポートいたします。
「うちの会社にはまだ早いかな?」と感じている方も、まずは一度、クラウド会計の可能性について、税理士にご相談ください。
貴社の状況に合わせた最適な導入プランや、より効果的な活用方法について、具体的なアドバイスをさせていただきます。