法人を設立する際や、既存の口座を見直す際に避けて通れないのが法人口座開設です。
一口に銀行と言っても、ネット銀行、都市銀行、地方銀行、信用金庫と多様な選択肢があり、「どれを選べばいいの?」と悩む方も多いでしょう。
かつては「銀行の信用」が最優先され、都市銀行や地方銀行を選ぶのが一般的でした。
しかし、IT化が進んだ現代では、「利便性」や「手数料」といった要素も法人口座選びの重要なポイントとなっています。
この記事では、それぞれの金融機関タイプの特徴とメリット・デメリットを徹底比較し、あなたの会社におすすめの法人口座を見つけるための指針を提供します。
手数料コストを抑えたい経営者、銀行との付き合い方に悩む経営者、そして会社の資金繰りや業務効率を改善したい経営者は、ぜひ参考にしてください。
このページの目次
1. 時代とともに変わる、法人口座選びの常識

利便性・コスト重視の時代へ
以前は、会社の信頼性を高めるために、誰もが知る都市銀行や地元の地方銀行で法人口座開設をすることが一般的でした。
確かに、これらの銀行は高い信用力を持ち、取引先からの信頼を得やすいという大きなメリットがあります。
しかし、インターネットバンキングの普及とIT技術の進化により、その常識は変わりつつあります。
ネット銀行の登場で、手数料の安さや24時間利用可能な利便性が加わり、法人口座選びは単なる口座開設ではなく、会社の資金繰りや業務効率に直結する重要な経営判断となっています。
バーチャルオフィスでの開設事情の変化
以前はバーチャルオフィスでの法人口座の開設はハードルが高く、ネット銀行しか開設できないのが当たり前でした。
けれども、ここ1-2年でその常識も変わりつつあります。
バーチャルオフィス運営会社が金融機関と提携し、利用者に対して都市銀行や地方銀行の開設ができるサービスも展開されるようになりました。
また、都市銀行も法人専用のネット口座サービスを展開するなど、法人口座開設のハードルは下がってきたように思えます。
(もちろん口座開設には審査がありますので、無条件に開設できるということではありません。)
それでは、次の章で各金融機関を比較していきましょう。
2. 各金融機関タイプの特徴と法人口座比較

それぞれの金融機関が持つ強みと弱みを理解し、自社のビジネスモデルや運用スタイルに合った法人口座を見つけましょう。
① ネット銀行
インターネット上での取引に特化した銀行です。
実店舗を持たないことでコストを抑え、その分を低手数料や高金利、利便性の高さに還元しています。
【代表例】
楽天銀行、GMOあおぞらネット銀行、住信SBIネット銀行など
【メリット】
・手数料の安さ
振込手数料や他行宛ての振込手数料が格安、または無料枠が豊富です。
ATM手数料も優遇される傾向にあります。
・24時間365日利用可能
ネットバンキングを通じて、時間や場所を選ばずにいつでも取引ができます。
・開設のスピード感
比較的スピーディーに法人口座開設ができる場合が多いです。
・クラウド会計との連携
クラウド会計ソフトとの連携機能が充実しており、自動連携による記帳作業の効率化が図れます。
・多様なサービス
デビットカード、バーチャル口座など、便利な機能を提供していることが多いです。
【デメリット】
・実店舗がない
対面での相談や、大量の現金を頻繁に入出金する業務には不向きです。
・公共料金・社会保険料等の引き落とし制限
ネット銀行は利便性が高い一方で、公共料金や生命保険・社会保険料などの引き落としに対応していない場合があります。
これは、引き落とし機関とのシステム連携が必要となるためです。
2025年5月時点では、社会保険料の引き落としに対応しているネット銀行は、イオン銀行・GMOあおぞらネット銀行の2行のみとなっています。
契約前に必ず、必要な引き落としに対応しているか確認しましょう。
参照:日本年金機構
・融資の選択肢
従来の銀行に比べ、融資の選択肢が限定的だったり、事業規模によっては対応が難しい場合があります。
・「信用」面での印象
大企業や一部の古い体質の取引先では、まだネット銀行よりも都市銀行や地方銀行の口座の方が信頼されやすいと感じられるケースも稀にあります。
② 都市銀行
全国に支店網を持ち、大企業から中小企業まで幅広い顧客層を持つ大手銀行です。
【代表例】
三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行など
【メリット】
・高い信用力
社会的信用が非常に高く、対外的な信頼を得やすいのが最大のメリットです。
・手厚いサービス
融資相談、外貨両替、M&A支援、ビジネスマッチングなど、幅広い金融サービスやコンサルティングが充実しています。
・実店舗・ATM網:広範なネットワークで対面取引に強み
全国に広がる豊富な実店舗とATM網により、対面でのきめ細やかな相談や、大量の現金入出金といった現物取引をスムーズに行うことができ、ネット銀行にはない安心感と利便性を提供します。
いずれのメガバンクも三大都市圏を中心に店舗を展開していますが、それぞれ得意とする地域が少しずつ異なります。
三菱UFJ銀行
首都圏、特に東海地方(愛知県)、そして京阪神地方に多くの店舗を展開しています。
三井住友銀行
京阪神地方(大阪府)と首都圏に基盤を持ち、西日本での存在感が際立ちます。
みずほ銀行
首都圏(東京都)に特に注力しており、企業の集積する大都市圏、特に都心部に強固なネットワークを持っています。
【デメリット】
・手数料が高い
振込手数料やATM利用手数料がネット銀行と比較して高い傾向にあります。
またネットバンクサービスを利用する場合も、法人口座の場合毎月2000円ほどの利用料が発生します。
・口座開設に時間と手間
審査に時間がかかり、提出書類も多く、開設までのハードルが高い場合があります。
・営業時間制限
窓口の営業時間が限られています。
③ 地方銀行・信用金庫
特定の地域に根ざし、地域経済を支える役割を担っています。
【代表例】
各地の地方銀行、信用金庫など
【メリット】
・地域密着型
地元の情報に強く、地域ビジネスへの理解が深いため、きめ細やかな対応が期待できます。
・担当者との関係構築
担当者との距離が近く、密なコミュニケーションを通じて、中小企業への融資相談や経営課題に対する具体的なアドバイスが得やすい場合があります。
・「信用」面での安心感
地元企業や個人からの信頼度が高いです。
【デメリット】
・手数料は都市銀行に近い水準
ネット銀行ほど手数料が安くない傾向にあります。
・営業エリアの限定
事業を拡大して他地域に進出する際、支店網が手薄になる場合があります。
エリア外に活動拠点を移してしまうと、途端に活用しづらくなります。
④ ゆうちょ銀行(法人口座)
全国に広がるネットワークが特徴で、個人事業主や小規模法人に特に人気があります。
特徴: 振込手数料が比較的安く、全国にATM網があるため、手軽に利用できます。
【メリット】
・手数料の安さ
特にゆうちょ銀行間の振込手数料は安価です。
webサービスのゆうちょダイレクトも、最低限の機能だけであれば無料で利用できます。
・ATMの利便性
全国どこにでもある郵便局や提携コンビニATMで、入出金や送金が可能です。
【デメリット】
・振込限度額に注意
他行宛ての振込限度額が設定されている場合があり、高額取引には不向きなことがあります。
・金融サービスは限定的
ネット銀行のようなAPI連携の充実度や、都市銀行のようなM&A支援など、多角的な金融サービスは期待できません。
3. 最適な法人口座を選ぶ3つの視点

様々な選択肢がある中で、自社に最適な法人口座を選ぶためには、以下の3つの視点から検討してみましょう。
視点1:利用頻度と手数料コスト
月に何回振込や入金が発生しますか?
手数料コストをどこまで抑えたいですか?
給与振込や家賃引き落としなど、定期的な自動引き落としに対応しているか確認しましょう。ネット銀行でも多くが対応しています。
視点2:資金調達の可能性と銀行との関係構築
将来的に融資を考えていますか?
担当者と対面で相談し、会社の経営状況を深く理解してもらう関係性を重視しますか?
メインバンクとして何を求め、どのような支援を期待しますか?
視点3:経理業務の効率化とDX推進
クラウド会計ソフトを導入していますか?
そのソフトとの連携のスムーズさはどうですか?
API連携の有無や、銀行取引データの自動取り込みの簡便性は、日々の経理作業に大きく影響します。
4. まとめ:賢い法人口座選びで、経営を加速させよう

法人口座開設は、一度決めたら終わりではありません。
会社の成長フェーズや事業内容の変化に合わせて、最適な法人口座も変わる可能性があります。
複数の銀行を併用することも賢い選択肢の一つです。
「信用」と「利便性・コスト」のバランスを見極め、自社の現状と将来のビジョンに合わせて最適な法人口座を選択することが、会社の資金繰りを改善し、業務を効率化し、ひいては経営を加速させる鍵となります。
どの銀行が自社におすすめなのか、法人口座開設の手続きについて不安がある場合は、ぜひご相談ください。
貴社のビジネスモデルや財務状況を踏まえ、最適な法人口座選びをサポートさせていただきます。