近年、日本の空き家問題が深刻化しています。
全国の住宅の約7軒に1軒が空き家という現状は、地域経済の停滞や治安悪化の一因となっています。
しかし、この社会問題は、新たなビジネスチャンスでもあります。
使われなくなった空き家を、訪日外国人観光客や国内旅行者向けの民泊施設として活用すれば、安定した収益を生み出す「生きた資産」に生まれ変わらせることができるのです。
この記事では、空き家を所有する方や、副業・不動産投資に興味がある方に向けて、民泊開業の始め方から、合法的に運営するための注意点、そして収益計算のシミュレーションまで、税理士の視点も交えながら徹底的に解説します。
このページの目次
1・なぜ今、空き家を活用した民泊ビジネスなのか?
日本の空き家率が高い主な理由は、少子高齢化による世帯数の減少だけではありません。
多くの空き家所有者は、活用の機会がないことに加え、以下のような悩みを抱え、手つかずのまま放置しているのが実情です。
高額な解体費用
古い家屋を解体するには、数百万円単位の費用がかかります。この費用をすぐに捻出できない所有者は少なくありません。
固定資産税の負担増
住宅が建っている土地には「住宅用地の特例」が適用され、固定資産税が大幅に軽減されています。
しかし、建物を解体して更地にすると、この特例が適用されなくなり、固定資産税が最大で6倍に跳ね上がってしまいます。
相続問題の複雑化
親族間で意見が合わず、売却や活用方法について話し合いが進まないケースも多く見られます。
このように、使わないけれど処分もできない「遊休資産」を抱える所有者が増えています。
そんな空き家を民泊として活用することには、以下のような大きなメリットがあります。
① 新しい旅行スタイルとマッチ
かつてはホテルや旅館が宿泊の主流でしたが、旅行者の価値観は変化しています。
近年、訪日外国人観光客(インバウンド)が急増したことで、宿泊施設の多様なニーズが生まれました。
豪華なサービスや過剰な設備よりも、暮らすように旅をしたい、気兼ねなくリーズナブルに宿泊したいというニーズが増加しています。
民泊は、そうした新しい旅行者の需要にマッチした宿泊スタイルとして、大きな存在感を放っています。
② 資産活用と高い収益性
放置されたままでは固定資産税などの費用だけが発生します。
民泊に活用することで、資産を収益源に変え、資産価値の維持にも繋がります。
賃貸物件として貸し出すよりも、民泊は高い日単価を設定できるため、高い収益が期待できます。
観光シーズンにはさらに収益が跳ね上がる可能性もあります。
③ 民泊とAirbnb(エアビー)何が違う?
「民泊」と「Airbnb」は混同されがちですが、これらは全く別のものです。
民泊とは、空き家や自宅の一部を宿泊施設として提供する、事業形態の総称です。
旅館業法の簡易宿所や、住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく事業などがこれにあたります。
一方、Airbnbは、民泊という事業を行うための主要なプラットフォーム(仲介サイト)の名称です。世界中の旅行者と宿泊施設をつなぐ、マッチングサービスだと思ってください。
近年、Airbnbの認知度が非常に高まったため、「民泊」という事業そのものを「Airbnb」(エアビー)と呼ぶことも増えていますが、両者はあくまで「事業」と「ツール」という関係性です。
2・空き家を民泊施設として開業するまでのステップ
① 民泊事業の3つの制度と許可
民泊事業を合法的に行うためには、日本の法律に基づいた許可・届出が必要です。
⑴ 住宅宿泊事業法(民泊新法)
・届出制で、営業日数は年間180日以内に制限されます。
・一戸建てやアパートの一室など、幅広い物件が対象になります。
・比較的手軽に始められるため、これから民泊を始める多くの人がこの制度を利用します。
観光庁 minpaku:住宅宿泊事業者の届出に必要な情報、手続きについて
⑵ 特区民泊(国家戦略特別区域法)
・大田区や大阪市など、特定の地域でのみ認められている制度です。
・営業日数の制限がなく、2泊3日以上の宿泊が義務付けられています。
⑶ 旅館業法
・ホテルや旅館と同じ「許可制」の事業です。
・営業日数に制限がなく、フロント設置や消防設備の義務付けなど、要件が最も厳格です。
観光庁 minpaku 旅館業法について
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/overview/minpaku/law2.html
これから始める場合は、年間180日以内という制限はありますが、民泊新法での届出を検討するのが最も現実的です。
② 開業までの大まかな流れ
⑴事業計画の策定
どんなターゲット層(ファミリー、カップル、インバウンドなど)に、どんなコンセプト(古民家風、モダン、シンプルなど)の施設を提供するのかを明確に決めます。
この段階で、物件の立地や周辺環境の分析も行い、需要とコンセプトが合致しているかを確認します。
⑵物件の準備
内装のリフォームや家具の購入、清掃業者との契約など、宿泊客を迎える準備を進めます。
⑶届出・許可申請
管轄の自治体(保健所など)に書類を提出し、届出を完了させます。
③ 初期投資を抑えるには
⑴DIY(Do It Yourself)の活用
リフォームの費用は大きな負担となりますが、壁の塗装や床の張り替えなど、簡単な作業は自分で行うことで大幅なコスト削減が可能です。
⑵サブスクリプションサービスの利用
高額な家具や家電は、購入する代わりにレンタルサービスやサブスクリプションサービスを利用しましょう。
初期費用を抑えられるだけでなく、故障時の交換などもスムーズに行えます。
⑶リサイクル品や中古品の活用
まだ使える家具や家電は、リサイクルショップやフリマアプリで探してみましょう。
状態の良いものが格安で手に入ることも多く、コンセプトに合ったユニークな空間作りにも繋がります。
⑷既存設備の最大限の活用
放置されていた空き家でも、水回り(キッチン、バスルーム)やエアコンなどがまだ使える場合があります。
これらを無理に交換せず、清掃や一部の修理で対応することで、費用を大きく抑えられます。
⑸内装業者との交渉
複数の業者から相見積もりを取り、価格やサービス内容を比較検討しましょう。
また、予算をあらかじめ明確に伝え、その範囲内でできる工事内容を提案してもらうことも有効です。
これらの工夫を凝らすことで、初期投資の負担を抑えつつ、魅力的で快適な民泊施設を開業することが可能になります。
3・税理士が解説!民泊経営で知っておくべきお金の話
① 収益シミュレーション
ここでは、一般的な民泊新法での運営を想定した簡易的なシミュレーションを行います。
売上(年収)
・1泊の単価: 2万円
・宿泊率: 50%
・運営日数: 180日(民泊新法の上限)
・年収 = 2万円 × 180日 × 50% = 180万円
経費(年間)
・清掃代: 2,000円 × 90日 = 18万円
・管理手数料(Airbnb等): 180万円 × 3% = 5.4万円
・光熱費・消耗品費: 20万円
・固定資産税: 15万円
・経費合計 = 約58.4万円
所得(利益)
180万円 – 58.4万円 = 121.6万円
※これはあくまで一例であり、立地や運営方法によって大きく変動します。
また、ここには載せていませんが、民泊事業を始めるための初期投資分(リフォーム代、家具・家電代など)を正確に把握して、何年で初期投資を回収できるか(ROI)を把握しておくことも重要です。
② 税務上の注意点
民泊で得た収入は、所得税の課税対象となります。
事業所得か雑所得か
・民泊の規模や継続性、事業性が認められれば事業所得となり、青色申告による税制優遇(特別控除、赤字の3年繰り越しなど)を受けられます。
・副業として小規模に行う場合は、雑所得に区分されるのが一般的です。
経費として計上できるもの
・リフォーム代
・家具・家電購入費(減価償却)
・清掃代
・光熱費
・インターネット代
・消耗品費
など、民泊運営に直接かかった費用は経費として認められます。
4・民泊事業で活用できる補助金・助成金
空き家活用や観光振興を目的に、国や地方自治体が様々な補助金・助成金制度を設けています。 「〇〇市 空き家 活用 補助金」や「〇〇県 民泊 助成金」などで検索してみましょう。
自治体のホームページや相談窓口で、最新情報を入手することが重要です。
また、小規模事業者持続化補助金も民泊事業のための広告宣伝費やウェブサイト費用などに活用可能です。
5・避けて通れないトラブル対策
不特定多数の人が利用する民泊では、事前に起こり得るトラブルを予想して対策を打つことが必要です。
① 近隣住民とのトラブル
騒音やゴミ出しの問題など、事前に近隣住民への配慮が必要です。
② 宿泊客同士のトラブル
備品の破損や喫煙など、ハウスルールを明確にし、宿泊客に周知徹底させましょう。
また、日本語が分からない外国人観光客のために分かりやすく伝える工夫も必要です。
③ 清掃・管理の手間
遠方に住んでいる場合、清掃や鍵の受け渡しを代行する業者と契約するのがおすすめです。
まとめ
空き家を活用した民泊ビジネスは、社会問題の解決と収益化を両立できる魅力的な事業です。
しかし、成功には、事業計画の策定、法的な要件の遵守、そして適切な税務処理が不可欠です。
特に、副業としての民泊は、所得区分や経費計上について複雑な判断が求められます。
また、民泊の届出・許可申請は、旅館業法や民泊新法など、複数の法令が関わる複雑な手続きです。
「どの制度で始めれば良いか」「届出書類の作成が大変そう」「税金はどのように計算すれば良いか」といったご不安があれば、ぜひ一度、当事務所にご相談ください。
届出や許可申請の手続きに関しては、提携している行政書士をご紹介することも可能です。
私たちは、あなたの空き家を有効活用し、安定した収益を生み出すための最適なプランを、専門家の視点からご提案させていただきます。
