個人事業主や一人社長にとって、税負担を軽減し少しでも運転資金を手元に残すために「経費計上」は重要な手段です。
しかし、一般に「経費にできる」と認識されがちなものでも、実は税法上認められないケースが少なくありません。その辺りを知らずに経費にすることは、脱税の疑いを持たれるなどの大きなリスクがあります。
「みんなやっているから」と安易に手を出すのは大変危険ですので、今回は「経費にできる」つもりでも「経費として認められていないもの」について紹介していきます。
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このページの目次
個人事業主・法人に限らず、「経費にできないもの」
1・家族・恋人・友人との食事・旅行などのプライベートの出費
当たり前のことなのですが、プライベート利用の出費はビジネスの経費にすることはできません。ビジネスに関係ないことは個人の生活費や娯楽費とされます。
事業をしている人がプライベートの食事代やお茶代に関して領収書を切るところを見かけたことがある、という方も少なくないかも知れません。けれども、プライベートの食事やお茶代は本来経費にはできないものです。
仕事に関連する打ち合わせや取引先との交流で食事やお茶をしたのであれば、「会議費」「接待交際費」として計上することは可能です。
「みんなやっているから」と、プライベートの出費の中でも経費扱いにしてしまいがちなのが「食事代」や「お茶代」です。しかし、たとえ少額でも、これはやるべきではありません。
プライベートな旅行を出張旅費として計上する事例もありますが、こちらも脱税行為に当たります。本当に仕事を兼ねている旅行の場合であれば、仕事の目的や内容を明確にした上で按分する必要があります。
適切な按分や経費計上については、顧問税理士・会計士に相談するようにしましょう。
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2・ゴルフ会費・フィットネスジム会費
これらは一般的にはレクリエーション費用として個人的な娯楽と見なされ、経費としての計上は認められていません。
ただし、ビジネス上の利用が明確である場合に限り、経費計上が認められることがあります。
ビジネス上でのゴルフ会費の経費計上が認められる条件は以下の2つです。
条件1・ビジネスミーティングとしての利用
ゴルフ場での会合がクライアントとの関係構築や契約締結のために必要不可欠である場合、その活動にかかる費用は経費として認められる可能性があります。
条件2・公式なビジネスイベントの一環として
企業が主催するビジネスイベントやチャリティゴルフトーナメントなど、ビジネスの推進やブランディングのためにゴルフが利用される場合、関連費用はマーケティング費用や広告費として経費計上できることがあります。
ただしこれらの場合も注意しなくてはいけないことがあります。
注意点1・明確な文書記録を残しておくこと
ゴルフをビジネス目的で使用した際は、誰とどのような目的でプレイしたのかを明確に記録しておく必要があります。また、その日のアジェンダや参加者名簿、話し合われたビジネス内容に関するメモなども保存しておくと良いでしょう。
注意点2・按分の適用
ゴルフ会費が部分的にビジネス利用する場合、そのビジネス利用の割合に応じた按分が必要です。プライベートでも利用する場合はその分は除外しなくてはいけません。
3・親族への高額な給与
税法上、給与はその労働の内容や市場価値に見合ったものでなければいけません。例え親族であっても市場価値よりも明らかに高額な給与を支給してしまうと、過剰部分については「業務に必要な経費」とは見なされず、損金として認められません。
また、親族であることを理由に不当に高い給与を支払う行為は、他の従業員との公平性を欠き、会社全体の士気を下げることに繋がります。
親族への給与は他の従業員と同じく市場価値に基づく給与の設定が必要です。それにより親族への給与が全額経費として認められるのです。
親族が果たしている業務内容とそれに対する給与の関連性を示すために、職務内容の詳細や勤務時間について記録しておくようにしましょう。
なお、給与の管理などは給与ソフトを利用すると、管理や効率がアップします。ぜひ利用を検討してみましょう。
4・美容・健康に関わる費用
原則として、美容や健康に関する出費は個人的支出として経費計上は認められていません。
仕事のパフォーマンス向上や外見の維持により営業が有利になる等の理由を挙げたとしても難しいと思っておいた方が良いでしょう。
ただし、特定の職業では、外見が直接的なビジネスパフォーマンスに影響を及ぼすため、美容関連の支出が経費として認められることがあります。
例えば、モデルや俳優など外見が仕事の一部である職業で美貌を保つためのものや、夜職でのヘアセットなどは経費として認められる可能性があります。
また、職業関連の健康維持に関しては経費が認められる場合があります。
具体的には、労働安全衛生法の要件に基づく健康管理や予防医療などが挙げられます。
特定の業界で働く者にとって必要な健康検査や予防接種などが、事業運営の一環として必要な場合、これらは経費として認められることがあります。
ただし、美容や健康関連の費用を経費として申告する場合、その支出が事業活動とどのように関連しているかを明確に示す必要があります。
美容・健康に関わる費用を経費にする場合は、事前に税理士や専門家に相談し、適切な記録保持や支出の正当性を確認しておくようにしましょう。
5・個人的に使用する目的のデバイス
パソコンやスマートフォンなど、仕事で使用する場合でも、私的利用がある場合はその割合に応じて経費を按分する必要があります。
6・個人の携帯代、インターネット代
これらも同様に、仕事で使用する割合のみを経費として計上することが求められます。特に事務所を持たずに自宅で仕事をする場合は家事按分すべき経費が増えていきますので、顧問税理士に相談して適切な按分を行うようにしましょう。
7・スーツ代や衣類・カバン代など身に付けるもの
「仕事で使うから」という理由で、「スーツ・カバン代を経費にしたい」と考えられる方は多いですが、原則、衣類や身に付けるものは衣食住の範疇とされ、経費にすることは難しいと言われています。「按分すれば経費計上できる」ということでもありません。
明確に仕事用であると証明できるものに関しては、衣類でもカバンでも経費にすることは可能です。
例えば、事務員用の制服や飲食店のコックコート、現場の作業服や作業靴、自社製品を収納するための特殊なカバンなどはこれに該当します。
身に付けるものといえば、メガネや腕時計などもありますが、これらも経費にはできません。
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8・ビジネスに関係ない学習費用
職業と直接関係のない趣味や興味から始めた講座やセミナーの費用は、経費にはなりません。
現在携わっている仕事に関する専門スキル習得のためのトレーニングや業界固有の研修であれば高い確率で認められるでしょう。
けれども、単に個人的な興味や将来的なキャリアチェンジを目的とした学習は、経費として認められない可能性が高いです。
そのため、学習活動にかかる費用を経費として計上する際は、そのビジネス関連性を明確に説明できるようにしておきましょう。
新規ビジネスを検討していて、その為に必要な研修である場合、それを証明できれば、経費として認められやすくなります。どちらにしても新規ビジネスを立ち上げる際は、必要経費の計上・仕訳だけでなく、資金調達含め顧問税理士に相談されることをおすすめします。
9・結婚式・葬式などの冠婚葬祭
冠婚葬祭は、原則「個人的なイベントにかかる費用」とみなされ、経費計上が認められていません。
ただし、ビジネス関連であれば経費として認められる場合があります。
企業が従業員への福利厚生の一部として、結婚祝い金や弔慰金を支給する場合は、これらを「福利厚生費」として計上できます。
また、ビジネスパートナーや重要なクライアントの結婚式や葬式に出席し、その費用を負担した場合、これが関係構築やビジネスの維持に直接的に寄与すると判断される場合に限り、経費として認められる可能性があります。
ただし、このような費用を経費として認められるためには、その支出がビジネス上の利益をもたらす具体的な理由が必要です。
10・個人事業主・一人社長の健康診断にかかる費用
会社員を経験された方は、年に一度、会社の負担で健康診断を受けられていたかと思います。その際、会社は従業員の健康診断の費用を「福利厚生費」として計上するのが一般的です。
けれども、基本的に、従業員がいない個人事業主や一人社長(あるいは社長とその配偶者の二人だけ)の場合、健康診断にかかる費用を「福利厚生費」とすることはできません。
福利厚生費として認められなかった場合、その費用は役員賞与とみなされ、会社の必要経費にならないだけでなく、社長個人に所得税が課税されてしまいます。
ただし、福利厚生費として認められるかどうかはケースバイケースで、「一切認められない」というわけではありません。
11・交通違反の罰金
違法行為による罰金やペナルティは、どのような理由であっても経費として認められません。
仕事中の移動でスピード違反をしてしまった場合の罰金であっても、それは個人が負担するべき費用であり、会社や事業負担にするものではありません。
正しい知識を持って「脱税」を防ぎ、上手に「節税」をしましょう
今回は、経費にできそうで実はできないもの11選をお伝えしました。まだ他にも存在しますが、よくあるものだけに絞って紹介しています。
これらの支出を誤って経費計上してしまうと、税務調査の際に不正確な申告と見なされ、追徴課税や罰金が科される恐れがあります。
なお、税務調査についてまとめた記事についてはこちら
一部、経費と認められる事例を紹介しましたが、正しく経費を認識し計上するためには、専門家(会計士・税理士)の意見を聞くこと、そして常に税法に従った帳簿管理を常日頃行うことが重要です。
「みんなやっているから」という言葉に流されることなく、自身の事業の健全性と法令遵守を第一に考えるようにしましょう。
経営にはさまざまな疑問がつきものです。例えば、資金調達の方法や税務処理の仕方など、専門的な知識が必要な場面が多々あります。こうした質問には、専門家の回答が頼りになります。オンラインでのQ&Aサイトや書籍なども参考にすると良いでしょう。
また、「タチアゲ」というサービスで無料登録により専門家に相談できるサービスがあります。
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最終的な判断は税務署が下します
ただ確定申告・決算報告をしただけでは、計上した経費が全て認められたことにはなりません。
税務署が書類を受理したというだけです。
いざ税務調査が入った時、計上した経費の指摘を受けることがあります。
今回の記事で、経費として認められる事例をいくつか紹介いたしましたが、最終的な判断は税務署が下します。事業をおこなっている方であれば誰もが税務調査を受ける可能性はあります。
その時に、否認されて追徴課税を受けることがないように、事前に税理士などの専門家と相談し、経費として認められるための十分な根拠を示せるようにしておきましょう。