個人事業主から法人成りをするタイミングで、これまで事業で使用していた私物の備品を新たに設立した会社に「買取」させることができます。
これらは「資産移管」「譲渡」と呼ばれ、単なる節税だけでなく資金調達の面でも大きなメリットがあります。
今回は、法人成りの際に知っておきたい「備品買取」の仕組みと、そのメリット、注意点に加えて、融資を受ける場合のポイントも解説します。
これを活用すれば、法人化による節税効果をさらに引き出すことができます。
個人事業主の備品買取とは?
法人成りの際、個人事業主が事業で使用していた私物の机・椅子・パソコンなどの備品を会社が買い取ることです。
このページの目次
1・法人成りによる備品買取のメリット
①経費として計上可能
会社が買い取った備品は、会社の資産として計上され、経費として処理が可能です。これにより、法人税の負担を軽減できます。
②個人への資金流入
会社が備品を買い取ることで、個人に現金が入ります。この資金を活用して法人の初期費用や運転資金に充てることも可能です。
③減価償却を活用した節税
買い取った備品を固定資産として計上することで、減価償却を通じて複数年にわたり節税効果が期待できます。
⚫︎過去コラム
2・法人成り時の備品買取の事例
①自宅のパソコンを法人化で買取
個人事業主が10万円で購入したパソコンを、会社が7万円で買い取り。
➡会社は7万円を経費に計上し、個人には7万円の現金が入る。
②事務用家具の買取
自宅で使っていた机(3万円)と椅子(2万円)を会社が買い取り。
【仕訳例】
借方 / 貸方
消耗品費 50,000円 / 普通預金 50,000円
摘要:法人成り時の備品買取
※家具の購入金額が10万円を超える場合、勘定科目は「工具器具備品」となりますが、今回は金額が10万円以下のため、「消耗品費」としています。
③業務用カメラの買取
個人が10万円で購入した業務用カメラを5万円で会社が買取。
固定資産として計上し、減価償却を適用します。
※購入金額が10万円以上または使用期間が1年以上と見込まれる場合、固定資産として処理されます。今回の場合は、価格が10万円以下・使用期間が1年以上を見込んでいるため、消耗品費でも固定資産でもどちらで計上しても問題ありません。
3・ 実務的な仕訳例
ここでは、具体的な仕訳例を紹介していきます。
①消耗品費として計上
借方 / 貸方
消耗品費 8万円 / 普通預金 8万円
摘要:個人事業主よりスマホ購入
②固定資産として計上
借方 / 貸方
工具器具備品 10万円 / 普通預金 10万円
摘要:業務用机購入
③減価償却の計上
借方 / 貸方
減価償却費 3万円 / 減価償却累計額 3万円
摘要:机の減価償却費
※「間接法」で仕訳する場合
4・適正価格の設定と調べ方
備品は適正価格で買取をしなくてはいけません。
備品の買取時の価値を調べて買取価格を適正に設定すれば、税務調査で指摘されるリスクも減ります。
以下の方法を参考にしましょう。
(1) 中古品市場の相場を調査
メルカリやヤフオクなどの中古品取引サイトで同型製品の価格を確認することができます。
例えば、同型パソコンの取引相場が6万円~8万円であれば、その範囲内で設定しましょう。
(2) 買取業者の査定を活用
リユース業者や買取専門店の査定額を参考にすることで、客観的な価格を設定できます。
(3) 減価償却累計額を基に計算
例えば、購入金額10万円の机を5年間使用し、耐用年数が8年の場合を計算してみましょう。
減価償却累計額 = 10万円 ÷ 8年 × 5年 = 6.25万円
適正価格 = 10万円 – 6.25万円 = 3.75万円
この場合は、 3.75万円が適正価格になります。
これらの3つの方法を活用して、買取価格設定の客観的な根拠を明確にしておきましょう。
また、実際の査定価格や調査した金額など、記録を残しておくことも忘れないようにしましょう。
5・注意点とリスク回避
①市場価格の徹底
備品買取の価格設定が高すぎると税務署から否認されるリスクがあります。客観的に妥当な価格を基準にしましょう。
前にも述べた通り、適正価格を調査した上で価格設定をするようにしましょう。
②領収書の発行と保管
個人と法人間の取引でも、領収書の発行と保管が必要です。
例:「机代 30,000円」と記載し、双方で記録を保存しておきましょう。
③税務調査への備え
市場価格や取引の妥当性を示す資料(査定書、相場情報)を用意しておくことで、税務調査にも対応できます。
④消費税の課税
事業者が資産を譲渡して対価を得る場合、その取引が事業用のものと見なされれば消費税の課税対象となることがあります。
たとえば、事業用に使用していた備品を法人に譲渡する場合、消費税が課税されるケースがあります。
資産の譲渡における消費税処理が不明確な場合は、税理士に相談することをおすすめします。
6・融資申請と持ち出し備品買取
法人成りのタイミングで融資を受ける場合、これらの私物・備品の買取費用が運転資金や設備資金として認められるか(融資の対象となるのか)気になるところかと思います。
①融資目的に応じた費用認定
運転資金:法人設立後の事業運営に必要な費用として認められる場合があります。
設備資金:高額な備品(業務用パソコンやカメラなど)は、設備資金として認定される可能性があります。
②必要な資料を準備しましょう
・見積書や契約書
備品買取計画を明記した書類を準備。
・事業計画書
備品買取が事業にどう寄与するか説明できるようにしておきましょう。
・市場価格の証明資料
査定書や中古品市場の相場情報を添付。
③金融機関の判断ポイント
金融機関が費用を認めるかどうかは、適正価格の設定や使用目的の明確化に依存します。
事前に専門家に相談したり、融資担当者に確認することをおすすめします。
7・もう法人化してしまった場合は手遅れなのか?
①法人化後の備品買取も可能です
法人設立後であっても、個人が使用していた備品を適正価格で会社に売却することは認められています。
ただし、以下の条件を満たす必要があります。
・適正価格の設定
市場価格や減価償却累計額に基づいた価格で取引すること。
・業務使用の必要性
会社の事業に必要な備品であることを明確にすること。
②注意すべきポイント
・取引の記録を明確に
法人化後に備品を売却する場合、取引記録や領収書の発行が重要です。
税務調査で妥当性を問われる可能性があるため、購入価格や相場価格を証明できる資料を用意しておきましょう。
・個人から法人への資産移動の証明
税務署は個人から法人への資産移動を厳しくチェックします。
適正価格での取引であることを示すため、第三者の査定や中古品市場の価格を基にした証拠を用意することが重要です。
③買取の手続きと仕訳例
【手続き】
市場価格を調査し、適正価格を設定。
法人側が購入金額を個人に支払う。
領収書を発行・保管。
【仕訳例】
借方 / 貸方
工具器具備品 5万円 / 普通預金 5万円
摘要:法人化後の備品買取
法人化後でも備品買取による節税や資金調達の効果を得ることは可能です。
ただし、税務署への説明責任が増えるため、慎重に手続きを進めましょう。専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
まとめ
法人成りのタイミングで備品を会社に買取させることで、節税 と 資金調達 を効率的に行うことができます。
適正価格の設定や領収書の発行を徹底し、税務調査にも対応できる準備を整えておきましょう。
当事務所では、法人成りや備品買取に関するご相談を随時受け付けています。
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