会社のキャッシュは、事業の血液そのものです。
無計画な経費の垂れ流しは、あっという間に資金を枯渇させてしまいます。
「これは必要経費だ」「将来への投資だ」と信じて支出したものが、蓋を開けてみれば単なる浪費だった、という経験をお持ちの経営者の方もいらっしゃるかもしれません。
「投資」「投機」という考え方は、本来は資産運用で用いられるものですが、会社の経費(販管費)の使い方においても非常に重要です。
会社の成長に繋がる「投資」と、単なるギャンブルに近い「投機」を見極める目を養うことが、健全な会社経営の第一歩と言えるでしょう。
今回は、税理士の視点から、会社の経費をビジネスの成長のために正しく使うための判断基準を伝授いたします。
このページの目次
会社の経費は「投資」か「投機」か?
個人の資産運用と同様に、会社の経費も「将来的なリターン」を生み出すかどうか、という視点で考えるべきです。
投資
将来の収益増加、業務効率の向上、リスクの低減など、明確な目的があり、中長期的な視点で効果が期待できる経費の使い方です。
投機
短期的な利益を期待するものの、根拠が薄弱で、失敗した場合の損失が大きい経費の使い方です。
例えば、以前から課題となっていた「業務効率化」を目指すための新しいツールの導入は、時間と労力の削減、ひいては生産性向上に繋がる「投資」と言えるでしょう。
一方、明確な戦略もなく、流行に乗っただけの高額な広告宣伝は、効果が不確実な「投機」となる恐れがあります。
どのような経費であっても、計画や戦略がなく経費(販管費)を使うことは「投機」に繋がってしまうということです。
販管費とは
企業が商品やサービスを販売し、事業を管理するためにかかる費用のことです。
正式には販売管理費と呼ばれています。
具体的には、従業員の給与(営業部門や管理部門)、広告宣伝費、オフィスの家賃などが含まれます。
仕入原価や製造原価とは異なり、製品やサービスの「売上高」に直接結びつかない間接的なコストを指します。
皆さんが一般的に経費と呼ぶものは販管費を指しています。
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節税目的で販管費を増やすのはアリ?
「節税目的で経費を使う、決算前に予算を使う」という考え方もありますが、推奨しておりません。
経費はあくまで事業計画・戦略に合わせて使われるべきであり、節税のためだけに本来必要ないものを購入・契約することはキャッシュフローを圧迫する原因にもなります。
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事業計画に沿った経費の使い方 – 「なんとなく」はNG
経費を使う上で最も重要なことは、事業計画との整合性です。
「なんとなく買っておいた方が良さそう」「他の会社もやっているから」といった安易な理由で経費を使ってはいけません。
全ての経費は、事業計画の目標達成に貢献するものでなければなりません。
ROI(投資対効果)の考え方を取り入れる
経費の有効性を判断する上で、「ROI(Return On Investment:投資対効果)」の考え方を取り入れることを強くお勧めします。
ROI = (投資によって得られた利益額 ÷ 投資額)× 100(%)
この計算式を用いることで、投じた経費に対してどれだけの利益が得られたのかを数値化することができます。
例えば、100万円の広告宣伝を実施し、その結果300万円の売上が増加、粗利率が30%だった場合、得られた利益は90万円(300万円 × 30%)です。
ROIは(90万円 – 100万円)÷ 100万円 × 100% = -10% となり、この広告宣伝は投資としては失敗だったと評価できます。
費用対効果を全て数値で測ることは可能なのか
全ての経費を厳密にROIで評価することは難しい場合もあります。
例えば、経費を増やすことで「職場の雰囲気が明るくなった」「従業員の士気が上がった」という部分については数値化させることは難しいかもしれません。
けれども、そのような場合でも、
・職場の雰囲気が明るくなり、離職率が低下した → 採用コストの削減
・従業員の士気が上がり、生産性が向上した → 人件費に対する売上高の向上
など、最終的には数字で結果を見ることができます。
「この経費は、将来的にどのような効果を生み出すのか?」という視点を常に持ち、可能な範囲で効果測定を行うことが重要です。
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注意!行き過ぎたコスト削減は成長の足かせになる
一方で、会社のキャッシュを守るために、あらゆるコストを極端に削減することも危険です。
必要な投資を怠れば、会社の成長は鈍化し、競争に後れを取ることになります。
計画的な経費利用と、ケチることは別物
例えば、社員のスキルアップのための研修費用を削減したり、老朽化した設備を更新せずに使い続けたりすることは、確かに短期的にはコスト削減になりますが、長期的には生産性の低下や事故のリスク増加を招き、結果的に大きな損失に繋がる恐れがあります。
「失敗=投機」と考えることも危険
先ほど、広告宣伝の失敗について例を挙げましたが、「失敗したからこれは投機だった」と安易に結論付けることもお勧めしません。
初回失敗だったとしても、その失敗から学び、改善して最終的に売上向上や利益率アップなどの結果に繋げられるのであれば、失敗も初期投資ととらえることができます。
判断基準は、計画的か・感情的か
重要なのは、計画的に経費を使うことです。
投機につながる経費の使い方の根本原因は、無計画や焦りといった感情が主なものです。
経営は決して平坦なものではなく、荒波を乗り越えていかなくてはいけません。
大波が押し寄せてきても感情に流されず冷静に判断を下すためにも、長期・中期・短期で計画を立てておくようにしましょう。
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事業計画書から考え、正しく販管費を使おう
会社の成長のためには、適切な販管費の管理が不可欠です。
そのためには、事業計画書を羅針盤とし、全ての経費がその計画の達成に貢献するかどうかを常に問い続ける必要があります。
事業計画書に明確な根拠のない経費支出は、見直しの対象となります。
逆に、事業計画の目標達成に必要な投資は、たとえ一時的にコストがかかったとしても、積極的に行うべきです。
税理士は、会社の財務状況を分析し、事業計画に基づいた適切な販管費の使い方についてアドバイスすることができます。
無駄な経費を削減し、成長に必要な投資を行うための財務戦略を共に構築していくパートナーとして、ぜひご活用ください。